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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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若き黒獅子2

 アルノルトはエペ・ラピエルで突きを繰り出した。


身体全体を前に押し出し半身となっており中々に鋭い。


 「ちっ・・・・・・・・」


 ヘスラーは繰り出された突きを半身で避け、拳を打ち込もうとしたが左側からパイリング・ダガーが繰り出された事で避ける。


 「相変わらず避けるのが上手いですね?」


 難なく突きを2回も躱したヘスラーに反撃の隙を与えない勢いでアルノルトは突きを繰り出し続けた。


 ただしヘスラーの着ている服の上から「擦り切り」を行うなどする辺り・・・・中々に手練れと言えるだろう。


 「俺の一張羅を・・・・しかし、随分と陳腐な切り方だな?」


 そんな気を遣う斬り方なんて餓鬼の遊びとヘスラーは挑発した。


 だが擦り切りを行えるアルノルトの腕に内心では舌を巻いた。


 アルノルトとは幼少期から何かとぶつかる事が多く、その度にヘスラーは勝負して勝ちもすれば負けもした。


 もっとも最近は殆ど会わなかったので勝負などしなかったが最後に戦った時より・・・・・・・・


 『突きも速いし技術的も向上している・・・・努力は怠っていないって所か』


 「はっい!!」


 掛け声と共にアルノルトは大きく踏み込んだ突きを繰り出してきた。


 ここでヘスラーは下がっていた足を止めて・・・・突き出されたエペ・エピエルを躱すと正拳をアルノルトに打ち込む。


 「おっと!?」


 しかしアルノルトは大袈裟な声を出しつつ余裕ある動きで躱し距離を取る。


 「躱すのが上手いですね。私の突きをこうも躱して反撃する者はそう多くないのに」


 「生憎だな。お前の突きより鋭くて速い突きを毎日のように見て、受けているからな」


 今日だってそうだと心中でヘスラーは言いつつアルノルトが取った構えを見る。


 アルノルトはエペ・ラピエルとパイリング・ダガーを中段に構え直した。


 エペ・ラピエルを持つ右腕は前に出すように伸ばしており、パイリング・ダガーを持つ左腕は胸当たりにあった。


 足回りはヘスラーの攻撃も想定してか、直ぐに動けるよう余裕ある広さが保たれている。


 見る限りエペ・ラピエルで攻撃する・・・・ように見せて本命はパイリング・ダガーとヘスラーは見た。


 『あの小細工が施されたダガー・・・・恐らく耐久性は精々エペ・ラピエル位の武器に関してだろうな・・・・ああ、糞ったれ。スティレットを忘れやがって』


 丸腰で出掛けた自分の迂闊さをヘスラーは呪ったが・・・・この目の前の狐男を倒さなくては気が済まないのも事実だ。


 『奴の攻撃は基本的に突きだが糞野郎に比べれば遅い』


 しかも突きは一度限りの技であり容易に繰り出して良い技ではない。


 そこをアルノルトも理解しているから敢えて防御の姿勢を取りヘスラーの方から仕掛けるよう仕向けているのだろう。


 『どうする・・・・足払いをするか?いいや、駄目だ・・・・こいつは身軽だから直ぐに躱して護拳付き柄で殴打する』


 そうなれば自分は防御か躱す動作をしなければならないが、その僅かな隙をアルノルトは見逃さず一気に攻めて勝ちを手にするだろう。


 『こいつは機会を見逃すほど眼は曇ってねぇからな・・・・・・・・』


 かと言って負けてやるつもりなどヘスラーには無いが下手に踏み込んでも自分が不利になるのは必定だ。


 『考えろ・・・・奴を倒すには・・・・待てよ・・・・』


 「ふっ。その顔だと何か妙案が思い付いたようですが・・・・丸腰で私に勝てるのですか?」


 「そう言うてめぇは丸腰相手に何度も突きを繰り出して外す下手くそじゃねぇか。しかし安心しろ。時間が惜しいから・・・・これで終わりにしてやる」


 嫌味タップリな挑発を言いつつヘスラーは拳を握り締め右脚を摺り足で前に出した。


 「・・・・・・・・」


 それを見てアルノルトは攻撃すると見たのかエペ・ラピエルの剣先を僅かに揺らす。


 剣先を揺らすのは相手の気を逸らす為でもあるが、相手の放つ強い気を受け流す面もあるがアルノルトの場合は前者だ。


 その証拠に剣先は揺らすがアルノルトの眼はヘスラーの行動を一瞬たりとも見逃さないとばかりに鋭くなっている。


 『・・・・・・・・』


 民草達は2人の決闘とも言える様子を黙って見ていたが明らかにヘスラーが捨て身の覚悟で行くという事は何となく察した。


 何せ武器を持つ者と丸腰の者が戦っているのだから・・・・丸腰の者が不利と思うのは当然である。


 だがヘスラー自身は違う。


 「さぁ時間が惜しいから・・・・その小奇麗な面をぶん殴って武器屋に行かせてもらうぞ!!」


 ダッとヘスラーは地を蹴ってアルノルトに突進した。


 「相変わらず向こう見ずな突撃が好きですね?ですが・・・・負けるのは貴方です!!」


 アルノルトはパイリング・ダガーのギミックを発動させたのか3本に刃を増やすと突きを繰り出した。


 しかしヘスラーは半身で避け拳を打ち込む「真似」をする事でアルノルトを後ろへ引かせる。


 もっともアルノルトの方も予想していたのか慌てた素振りも見せず後退しつつ・・・・今度はエペ・ラピエルで突きを繰り出した。


 「さぁ私の・・・・なっ!?」


 「悪いな?勝つのは俺だ。狐野郎」


 ヘスラーが勝利宣言をすると同時にアルノルトは前のめりになった。


 それはヘスラーの正拳が見事に腹にのめり込んだからだが・・・・その背中にヘスラーは止めとばかりに肘打ちをくれてやった。


 するとアルノルトはガクリと地面に突っ伏しピクリとも動かなくなったが・・・・・・・・


 「だ、大丈夫ですかっ?!」


 ヘスラーに助けを求めた民草の娘は慌てた様子でヘスラーに駆け寄り左手を掴もうとした。


 「別に大した傷じゃねぇ。掠り傷みたいなもんだ」


 ヘスラーは娘の手を払い除けるように自分の胸近くに上げると・・・・深々と貫いているエペ・ラピエルを見た。


 「ふんっ。こんな細身でも心臓とかを刺せば人間なんて死ぬんだから侮れないぜ」


 「そんな事を言うより早く傷の手当て・・・・っ!?」


 「くっ・・・・ぐっ・・・・っ・・・・」


 娘がピーピー煩いと思いつつヘスラーは自分の手でエペ・ラピエルを抜き始めた。


 勢いよく抜けば直ぐに取れるが返り血を浴びたくない一心で・・・・ゆっくりとヘスラーはエペ・ラピエルを抜いたのである。


 とはいえ目の前で抜く動作を見るしか出来ない娘は完全に顔を青褪めさせていたし野次馬達も同じだった。


 しかしヘスラーは我関せずと言わんばかりにエペ・ラピエルを抜く事に集中し・・・・自分の手で抜くと気絶しているアルノルトの顔近くに突き刺した。


 「今度、俺に喧嘩を売るならもう少しマシな剣で来い」


 それだけ言うとヘスラーは歩き出そうとしたが左手が動かない事に気付き見ると・・・・娘が自分の布で血を流す左手を巻いている姿が見えた。


 「余計な真似をするな。こんなもん掠り傷だ」


 「い、いいえっ。こんな傷でも破傷風になる可能性は高いですっ。そ、それに何だかんだ言って助けてもらったので・・・・・・・・」


 「お前の為に戦った訳じゃねし俺は、お前の持っている情報が欲しいんだよ」


 「そ、それなら私が住んでいる店に・・・・き、来て下さい。傷の手当てもちゃんとやりたいので・・・・・・・・」


 「店?」


 「う、家も武器屋なんです・・・・他の店に御客は取られて閑古鳥が鳴いていますけど」


 「・・・・・・・・」


 ヘスラーは目の前で煩いと思いきや枯れる手前の花みたいに萎れるチンチクリンな娘を見て無言となった。


 『このチンチクリンの家も武器屋か・・・・少し行ってみるのも悪くねぇな』


 何時もなら馴染みの店に行くがあっちだと顔が知られているから変な物を持たされる可能性もある。


 何より別の武器屋などに行き、その店にある武器を見るのでも目を養えるとヘスラーは思った。


 「なら案内しろ」


 「は、はいっ。こっちです」


 娘はヘスラーの高圧的な態度に些か怯えつつ案内を始め、その後をヘスラーは黙って付いて行った。


 それを野次馬達は不思議そうに見つめていたがアルノルトが気絶している内に厄介事に巻き込まれないようにとばかりに・・・・散った。


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