王女との夕食
私はエリーナ様と二人切り・・・そう二人切りで食事をしている。
何でこんな状態もといこんな風に食事をする事になったのかを説明すると・・・・・・・・・・・
『騎士として王女様にも奉仕しないと駄目よ?』
私の「初めて」を貰ってくれた上に色々と助けてくれるオリガさんから言われたのだ。
それ以前に今夜は夜の女神であるミレーネ様と食事をするため家を留守にする。
私はそれだと一人で食事をする事になるからこうしてエリーナ様と食事をしている。
とまぁ大雑把な説明だがこんな所だ。
しかし、腑に落ちない。
何で私が王女であるエリーナ様とこうして食事をしているのか?
まったく・・・・解らない。
理解できない。
普通に考えるとそうではないか。
特別私は容姿が良い訳でも育ちが良い訳でも無い。
ただの一階級の平民であり見習い騎士であり一等兵だ。
それに腑に落ちないのがもう一つある。
使用人が居ないのだ。
ただの一人も。
普通ならワインを注いだり食べ終えた食器を片づける使用人が居る筈なのにどういう訳か居ない。
恐らく目の前で終始笑顔で居る可愛らしいお人形さん---エリーナ・ロクシャーナ王女が命令して追い出したのだろうな。
まだ15歳だからこういう我儘な所も王族とは言え大目に見られているのか?
それともこんな状態だからせめて物心遣いなのか?
どちらにせよ以前の私なら真っ赤で何も出来なかっただろうな。
そんな事を想像しながら私はワインを飲み続ける。
いま飲んでいるワインは白。
白ワインと相性が合うのは魚料理だ。
ここサルバーナ王国は全体を山に囲まれた国---山国だ。
だから、海の魚なんて物はシャインス公国から輸入してくるしか手に入らない。
ところが今は内乱状態で、そんな事は出来る訳もないのは当たり前。
では、この魚は何か?という事になる。
目の前に出されている魚は中位と言えば良いだろうか?
何処の部分かは知らないが、白身が剥き出しになっており程良く焼かれている。
「この魚はここで獲った物ですよね?」
そうでないなら何処で獲った物だと訊きたい所だ。
「はい。雪は降りましたが、魚は居ますからね」
「しかし、冬になると魚は活性力が衰えて見えないのでは?」
「ここに住んでいる方々は場所を把握しているそうです」
なるほど、と私は感心しながらナイフとフォークで白身の魚を綺麗に切り分けてから口へと運んだ。
それをエリーナ様は黙って見つめ続ける。
「私が食べる所を見て楽しいですか?」
あまり食事中に見られるのは好きではない・・・・いや、そうではなくて好ましくないのだ。
オリガさんとは話しながら食べるが、この方とは何を話せば良いか皆目見当も付かないし何も喋らないから性質が悪い。
「えぇ。ランドルフはどんな風に食べるのか、どんな風に飲むのか・・・・見ているだけで楽しいです」
「そうですか」
敢えて私は気にしないで食べ続けた。
魚を食べてから白ワインを飲むと、口の中に魚と酒の味が一緒に広がり美味い。
「ところでランドルフ・・・・・・」
エリーナ様は白ワインが注がれた透明なグラスを右手で弄びながら私に尋ねてきた。
「何でしょうか?」
「貴方・・・・オリガさんとはどういう関係なのですか?」
「どういう関係?」
「正直に尋きます・・・・男女の関係はありますか?」
「・・・・・・・・」
私は耳を疑った。
何と言った?
この白と青を主体にしたドレスを着て金髪を垂れ下げた可愛らしいお人形は・・・・・・・・?
男女の関係があるのか?
「どうなのですか?」
エリーナ様は私にもう一度尋ねてきた。
「・・・王女様である貴方様には、お聞かせ出来る内容ではありません」
私は白ワインが注がれているグラスを手に取り口に運んだ。
「私は知りたいのです」
「では尋きますがどうしてですか?」
「それは・・・・・・」
「失礼ですが、私とオリガさんが男女の関係でしたらどうするんですか?」
「・・・・・・・・・」
エリーナ様は何も言わなかった。
「やはり、貴方様と私とでは夕食は似合いませんね」
私は自分で何を言っているんだ?と思いながらも口は勝手に動いていた。
「今夜は大変貴方様には不快な想いをさせた事・・・誠にお詫びします。今夜以降は貴方様とは夕食をしないので勘弁して下さい」
こんな言葉を言えば普通に極刑物なのに口は勝手に動き身体も勝手に動いていた。
椅子を引き立ち上がろうとした。
「ま、待って下さいっ」
エリーナ様は慌てて立ち上がるとドアへ向かう私の手を取った。
「あ、貴方が怒ったのなら謝りますっ・・・・で、ですから・・・・・・・・」
「私は怒ってなどいません。貴方様を不快にさせたと思いここから出ようとするだけです」
「でしたら、私は不快になど思っておりません!!」
私は顔だけ振り返りエリーナ様を見た。
・・・・白い真珠が溢れ出そうとしている。
「え、エリーナ様っ」
「う、うぇっ・・・・不快になど、思っていません・・・・ただ、私は貴方と食事がしたいだけ・・・・なのに・・・・・・・・」
「え?あ、いえ・・・ど、どうか、その泣かないで下さいっ」
今にも泣き出しそうなエリーナ様を私は思わず抱き締めた。
「ら、ランドルフ・・・・・・・・」
「わ、私も・・・・あの、その・・・・失礼な態度を取って申し訳ありませんでした。ま、またやり直しましょう!!」
王女を泣かせたなんて事が知られたら・・・・この国に居られない。
それは嫌なので私は急いでエリーナ様を座らせ自分も腰を降ろした。
「あ、の・・・・ら、ランドルフ・・・・・・・・」
「な、何でしょうか?」
私は先ほどの事もあり・・・・出来るだけ優しい声で尋ねた。
未だに真珠を溜めているから・・・・いつ泣くか分からない---導火線に火が点いた爆弾だ。
下手な事をすれば爆発間違いないので緊張するのは当たり前と言える。
「先ほどの話は忘れて下さい」
「分かりました」
私も先ほどの忘れる。
「貴方様は、身分違いの恋をどう考えます?」
「身分違いの恋?」
「はい。例えば貴族と平民、若しくは王族と平民などです」
「そうですね・・・・・・・・」
身分違いの恋・・・・よく女子向け特に幼い子には人気がありそうな恋物語だ。
「物語で考えるなら良いですね。現実的に考えるなら難しいですが」
「でも、実現できなくはないですよね?」
「まぁ、周囲が認めるなら有り得なくは無いかと」
実際そんな事は滅多な事では有り得ない話だが。
「テツヤ殿は王族にも求婚されたのですよね?」
「えぇ。ですが、身分違いという事で断りました」
実際の所は自分が彼の女性を幸せにできるのか不安で逃げたらしいが。
「そうですか・・・・テツヤ殿がどう想っているのかは分かりませんが・・・・恐らく求婚した相手は哀しんでいるでしょうね」
当たり前と言えば当たり前だ。
自分から求婚したのに断られたのだから。
しかも相手は王族。
王族の一員になれば何でも手に入る。
その反面で何かと堅苦しい生活を余儀なくされるが。
「テツヤ殿も堅苦しいのが嫌いだから断ったのかもしれませんね」
強ち否定できない。
テツヤ殿は自由だ。
傭兵だからという訳ではなく本当の意味で自由なのだ。
だから、束縛されるのを嫌ったとも言える。
「私も・・・・自由になりたいです」
自由に誰かと恋をして結婚をしたい・・・・・・・・
「お母様は何時も言っておられました」
貴方には私のようにならないで。
「お父様とお母様は愛の無い結婚を強要されました」
だからこそ娘のエリーナ様にはそんな人生を送って欲しくないのだろう。
「私も・・・・自由になりたいです」
もう一度だけ彼女は呟いた。
その言葉には本当に願望---渇望している事が読み取れる程・・・・溢れていた。
そして私はそれに対して何も言えなかった。
何と言えば良いのだろうか?
その後は・・・・普通に夕食を終えた。
最初こそ不味い状況だったが、後からは楽しかった。
だが・・・・何故かエリーナ様の言葉が耳から離れなかった。