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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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駄目な神

 『やれやれ。これだから老いた男とは始末が悪い』


 『その通りだな。しかし、飯はまだか?腹が減った』


 ヴィズリ高原から見下せる場所に位置するオアシス---ヴィズリ。


 そこは山奥の老人---ラシーン・ビン・ハーメド・アル・ジャバラルが組織した暗殺教団の実行犯---女たちが住まわされている。


 ここから出ればオアシスは近くに無い。


 おまけに上から見下されるから下手な真似は出来ない・・・・牢獄なのだ。


 そんなオアシスの地下に設けられた場所で、巨大な生き物が2匹ほど会話をしている。


 片方は巨大な蜘蛛で、もう片方がミミズだった。


 遥か昔に砂漠の神の座を争い負けた者だが、現在は暗殺教団で暮らしている。


 といってもラシーン・ジャバラル達は使えるから使うだけで決して敬うような事はしない。


 恐らく・・・・いや、確実にラシーン達は用無しとなれば消す事だろう。


 『ふんっ。この我等を殺せるなら殺してみろ、と言うのだ』


 『そうは言っても腹が減っては“良い糞”が出来んと言うぞ』


 『それは戦だ。何が糞か!!この大喰らいミミズが!!』


 『何を!貴様こそ、女子に絹製の衣服を与えるような好色蜘蛛ではないか!!』


 何とも・・・・化物らしくない会話をしていると・・・・・・・・


 「あー、また喧嘩している!!」


 「何時も喧嘩しちゃ駄目って言ったのに!!」


 可愛らしい声が2人分聞こえる。


 まだ10歳にも満たない幼い少女で、共に大きな皿を両手で持っている。


 『おぉ、ミディにマレェではないか』


 『やっと飯か?待ち兼ねたぞ』


 化物は少女に巨体を詰め寄らせるが2人の少女は恐れる所か頬を膨らませた。


 「喧嘩駄目って、言ったよ」


 「それなのに喧嘩してるから・・・・ご飯上げない!!」


 『い、いや、喧嘩などしておらんぞ』


 『うむ。喧嘩などしておらん。我らは仲が良いのだ』


 化物は笑みを浮かべるが、端から見れば蜘蛛とミミズが無理やり気持ち悪い笑みを浮かべているに過ぎない。


 それなのに少女は恐がらないから不思議である。


 何より2匹ならオアシスを滅ぼしてヴィズリ高原の城さえ破壊できる筈だ。


 しかし、それを彼等がしないのは・・・・単に今の暮らしが心地良いからかもしれない。


 寝床はあるし、朝昼晩三食付きで、世話役は将来美人になる娘が2人いる。


 贅沢すぎて天上の神に罰が当たるかもしれないと二匹は思う。


 それでも満足しているが。


 ここに、かつて争った蠍と鰐が見れば・・・・こう言うだろう。


 『女に世話してもらって生きる駄目土地神』


 なんて言われても2匹は開き直るだろう・・・・・・・・


 『そういう性格なのだ。というか人の生活に口を出すな』


 そんな雰囲気が出ている上に図々しく、反論しそうである。


 「じゃあ、どうぞ」


 「はい、どうぞ」


 2人の少女が食事の皿を置いた。


 それを2匹は器用に細かく食べていくからシュールな光景だった・・・・・・・・


 2匹は食べながら少女を見る。


 互いの指には指輪がある。


 何の変哲もない指輪であるが、中身はとんでもない。


 あれは魔石を加工した代物で、自我は持つが身体は言う事を聞かない。


 暗殺者が数年かけて習得する物がある。


 「心と体を切り離す技術」だ。


 暗殺者と言えど人の子に変わりはない。


 だが、仕事は完遂するのが玄人だ。


 それを数年かけて物---指先を心と切り離したまま動かす覚悟を身につける。


 とはいえ出来ない者は何年かけても物に出来ない。


 しかし、魔石を加工した指輪を填めたら違う。


 凶器を握った指先を心から切り離して・・・・汚い任務を遂行できる。


 ある意味で画期的な代物だが、なまじ自我を持ちながら身体が勝手に動くのだ。


 精神に凄まじい重しとなるのは否定できない。


 いや・・・・敢えて自我を持たせたまま操っているに違いない。


 自我では何をしているのか解りつつ身体は汚い任務を遂行する。


 自分は汚れたのだ。


 既に地獄に堕ちる。


 そんな心理を植え付ける事で、逃げられないようにしたのだろう。


 誠に人間のする所業ではない。


 あまつさえ女子にやらせるなど言語道断だ。


 しかしながら、この国の国教にして、なまじ少数派である。


 そして歪んだ思想を持つ者なら果たして・・・・・・・・


 どうだろうか・・・・・・・・?


 躊躇う事はない。


 良心の呵責もないからだ。


 『誠に酷いな』


 『数千年前から・・・・あ奴らは変わらん』


 ブライズン教の少数派であるスジール派は。


 こんな可愛いらしい幼子でさえ女という単純明解な理由で・・・・家畜以下の扱いをする。


 数千年も前からだ。


 何一つ変わらず、変わろうとしない。


 故に彼の宗派は少数派で在り続けている。


 何時の日か多数派になってみせると意気込んでいるようだが・・・・・・・・


 こんな事では一生かかった所で無理だ。


 それすら理解していないのだから。


 とはいえ自分達が助けてやろうという気持ちは蜘蛛にもミミズにもある。


 だが、それをやった所で何も変わらない。


 人間の問題は人間自身が解決しなければならない。


 神と言う異業の自分達は手助けしか出来ない。


 依存させてはならない。


 あくまで精神の柱程度の立場が良いのだ。


 今の立場は女達に食わせてもらう「紐」みたいなものだ。


 しかし、自分達が居る事で眼前の幼子2人は精神的に助かっている。


 自分達が来る前は笑顔ではなく、痣だらけの泣き顔だった。


 それが自分達の世話をするようになってからは変わった。


 精神の柱役に自分達がなったからだろう。


 それくらいが神には良い。


 ただ、多少の手助けはやっても良い。


 まだ時期ではないが何れは手助けする。


 ほんの小さくて判らない位の手助けを、だ。


 それくらいが神には似合っている。


 下手に干渉して混乱させない。


 明け透けな恩は売らない。


 自分の力と教えない。


 これが神の役割であり人間を神に依存させない方法だと2匹は考えている。


 ブライズン教の教祖であるムザーは神の声を聞いたと言われていた。


 その中に異神は奉るな、偶像崇拝はするな等が含まれている。

 

 しかし、これは明らかに彼自身の考えだろう。


 自分達を含めて俗に土地神と言われる存在は多い。


 自分達を奉る事で庇護を求めたのだ。


 別に自分達全員が人間を襲う存在ではない。


 中には居るが、ほんの一握りだ。


 棲む家を侵さず、自分達の食べる分の食料さえあれば何もしない。


 互いに境界線を越えなければ良いのだ。


 ムザーは異業の神、偶像崇拝と断罪した。


 そして一神教にする事で団結力を纏めた。


 それは良い。


 人間の決めた事だ。


 だが、領土を広げる度に自分の宗教を押し付けるのは良くない。


 あまつさえ幼子を抱くなど言語道断である。


 幼子は見て愛でる存在だ。


 徐々に蛹になり、やがて美しい蝶になる。


 それが女だ。


 それを幼い時に抱いて、妻にするのは変態だ。

 

 多少の手は仕方ないと思えるが抱くのは駄目だ。


 ムザーは変態と言えなくはないが、他の事は一流人である。


 自分達から言わせれば変態中の変態でしかない。


 それはそうと・・・・・・・・


 『あの娘は大丈夫だろうか?』


 『母御が助けた時は衰弱していたな』


 身体には傷があり、まるでコヨーテの群れに襲われた感じに見えた。


 あの腹違いの兄が抱いたと2匹は判った。


 腹違いの妹を好きになってしまった。


 中々に乙な物だが、あの男の思慕は異常である。


 狂喜を孕んでいるが、狂喜を孕んでない思慕は思慕に有らず。


 とはいえ・・・・あそこまで行くと度が過ぎる。


 決まって、そういう輩は好きな女を奪われて死ぬ。


 古今東西あらゆる伝説と神話を見ても判る。


 ある意味・・・・運命とか必然と言われるヤツだ。


 人の世など何とか出来るようになっているのだ。


 神の力など借りず、神に依存しなくても・・・・・・・・


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