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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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哀愁の出会い

 私が不毛地帯に来てから早数週間が経過した。


 数週間となれば長く感じるのに、あっという間の感じがする。 


 母上が亡くなられた日は長く感じたのに・・・・・・・・


 しかし、ここは良い。


 不毛な土地と言われる通り・・・・ただでさえ国土の半分以上が砂漠なのに、ここは更に酷い。


 頻繁に干ばつが起こり、水不足は当たり前だ。


 オアシスは無いし、設けられた道---公道には盗賊も出る。


 問題は山積みだが、全ての解決しなくては。


 私のやり方が出来る。


 家族は居ないし、スジール派も居ない。


 誰も私のやり方に口を出さない。


 最良にして最適の方法で解決する。


 風習、伝統は大事だが時代は流れるのだ。


 それに合わせて人間の生活は進化も退化もする。


 スジール派は私のやり方を理解しないし、理解しようともしなかった。


 それは私の唯一理解者であった母が死んだ時に解ったのだ。


 私の母の名はマサハナ。


 砂漠の華と言われた女性で私にとっては最高の母である。


 その母が亡くなり、私の胸には小さな穴が開いた。


 一時はスジール派に救いを求めたが、それでは駄目である。


 宗教は精神の柱で良い。


 断じて生活の糧、法律、政治には関わるべきではないのだ。


 しかし、ブライズン教は国教となり根付いている。


 それを何とかしなくては何れ大きな災いとなる。


 だが、先ずは不毛な土地の問題に取り組まなくてはならない。


 もう母上は居ないし、私も子供でもない。


 ただ、唯一の理解者だっただからだろうが、年齢を重ねたから受け入れられる所が出来た。


 しかしながら、父上は違っていた。


 今も私を憎み続けている。


 何故、私だけ憎むのか理解できない。


 母上に甘えていて、母上が私を可愛がっていたのは理解できる。


 それに対して嫉妬していたとも・・・・・・・・


 だが、解からない。


 あの憎悪に満ち溢れた眼差しは、そんな生易しい物じゃない。


 もっと・・・・何か、全てを憎悪しているような感じだ。


 それが何なのか解からなかったが、私は後に知る事になる。


 余りに恐ろしい事実だったが、その事実を私は受け入れる。


 受け入れて・・・・良い奴に巡り会える事を待ち続けるのだ。


 いつか私を殺してくれる奴が現れるのを、ずっと待っち続けるのだ。


 剣と聖書---ブライズン教に逆らう奴をな・・・・・・・・


 だが、その者が現れるまで僅かな時間---領主時代は幸福だった。


 しかしながら、ここでの幸福が後に私の人生を決定する。


 私だけではない。


 大勢の者の人生を、だ。


 神は酷いな。


 いや、ブライズン教の神は酷いのだ。


 私が憎いなら私だけ苦しめれば良いのに・・・・身内すら不幸にする。


 私自身の手を汚させて。


 しかし、それを知らない私の所へ問題が舞い込んで来た。


 それは・・・・・・・・


 「盗賊が出た?」


 自分の部屋で執務を行っていると、副官のザムザが来て私に伝えた。


 「はい。人数は軽く数十人を越えております」


 公道に出没しては通交料を取り、無ければ衣服を剥ぎ取るらしい。


 「どうやら貴方様を若い領主と舐めているようです」


 「・・・・動かせる兵は?」


 「ここを護る事も考えますと20人から30人ですね」


 「十分だ」


 「出来るだけ損害は出さないようにするぞ」


 「ですが、奴らは私達の兵力を上回っていますが」


 「そこが付け入る隙だ」


 奴らは烏合の衆でしかないし、頭の実力に従っているだけだろう。


 つまり頭さえ倒せば半ば勝ちだ。


 仮に討ち損じても公道から追い出せば良い。


 無益な殺生は戒めるべきである。


 古今東西の兵法家に共通した考えだ。


 それに奴らも元を正せば民達だ。


 不満などがあるから盗賊になった。


 ならば・・・・不満を取り除けば良い。

 

 そう私は思いつつ戦準備を始めた。

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 私は自身の鎧---チェイン・メイルを着て、その上からラメラー・アーマーを着た上で「シシャーク」という兜を被った。


 そして腰にはヤタガンとシャムシールを付けて最後に愛槍---ヴァハマスを持つ。


 ヴァハマスとは「無縁」という意味で、私の父---シャー・ジハーナル様から与えられた。


 ブライズン教において、無縁は全ての関係を断たれる事を意味する。


 父上は私を捨てたと言って良いかもしれない。


 考え過ぎかもしれない。


 だが、私以外の兄弟には手紙を送ったり、会いに行っていると聞いている。


 私には手紙は来ないし、会いに来てくれない。


 私が手紙を送っても来ないし、会いに行っても目通りも許されない。


 これにも理由があると思っているが・・・・これを見る度に胸が痛くなる。


 しかし、ヤタガンとシャムシールは母上が用意してくれた物だ。


 ヤタガンがブラス、シャムシールはビスラである。


 ブラスの意味は「良縁」で、ビスラは「慈愛」だ。


 母上は良縁が出来て、慈愛に溢れた人生を送って欲しいと思ったのだろう。


 これが私の慰めだ。


 「ゼップ様、準備は整いましたか?」


 鎧姿のザムザが現れた。


 「あぁ、行くとするか」


 「はい。ですが・・・・よもや領主になられてから・・・・ゼップ様の晴れ姿を見られるとは・・・・」


 僅かにザムザは泣き声になった。


 今まで私の博役をしてきた彼だが未だに独身で通っている・・・・・・・・


 私が不甲斐ないから、だろう。


 ここで私が一人前と見てくれたら博役を解任して自由にしよう。


 私に一生を捧げる必要などないと思いながら私は館から出た。


 既に兵達は準備して並んでいた。


 「これより盗賊退治に行くが、単独行動は慎み、必ず3人1組で行動せよ」


 少なくとも単独より倒され難い筈だ。


 では行くぞと私は馬に跨がり先頭を走った。


 暫く行くと行動にたむろう集団を見つけた。


 盗賊団だ。


 馬に鞭をやり、一気に加速して突っ込む。


 私には人を魅了し引っ張る力が無い。


 だから長期戦より短期戦が望ましいのだ。


 盗賊団が私を見て驚き、少ししてから動いた。


 『頭を護れ!!』


 黒髭の男が頭か。


 奴を倒せば烏合の衆になるな。


 「はぁぁぁぁ!!」


 槍を横に薙ぎ払い、子分諸とも馬上から落とし、頭に槍先を向ける。


 「頭の生命が欲しくば武器を捨てろ!!」


 大声で怒鳴れば子分達は迷い出した。


 「貴様から命令しろ」


 私が頭に言えば頭は言う通りにした。


 頭に言われて子分達は大人しく武器を捨て投降してくれた。


 無駄な血は流れず私は満足したが、ザムザは違っていた。


 「総大将自らが敵将の首を上げるなど言語道断であります!!」


 私としては一人前と認められたい一心と、領主として示したかったのだが、領民にも叱られた。


 しかし、盗賊団は二度と我が領土を荒らさないと誓って子を人質に差し出したのだから・・・・結果を言うなら良かった筈だ。


 そして私の初陣は黄昏と共に終わった。


 だが、途中で子供達が実は商団から奪った奴隷と判明した。


 つまり子供達は一時凌ぎにされたに過ぎない。


 「あいつらは俺達が死んでも悲しまない。また、あんたの領土を荒らしに来る」


 私と同い年の男が言うも私は微苦笑した。


 「なら、また追い返すまでだ」


 何度でも追い返してやる。


 「大した領主様だ。で、俺達はどうなるんだよ?」


 「ここは私の領土だ。私の領土で奴隷は居ない」


 故に自由にするが・・・・・・・・


 「失礼だが今の身では生計が成り立たないだろうから・・・・我が領土で手に職を身に付けたら、どうだ?」


 これに皆は驚いたが、私は領主として言ったに過ぎない。


 ブライズン教では身分制度が喧しいが、私の領土では関係ない。


 そう言えば皆は閉口したのだが、悪い意味ではなかった。


 何も言えないで泣いただけである。


 そんな形で私の領主生活は大きな変化を少し見せたのだった。


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