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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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脱出計画

 アガリスタ共和国の首都カスバル。


 そこにある城はヴィズラで意味は「天の国」だが、ここに幽閉されている女性から言わせれば地獄だ。


 スジール派の為にあるような天の国など無い。


 いや・・・・実父に汚されてから彼女は神の存在を否定した。


 神など所詮・・・・何もしない。


 信仰心を持ってこそと思い直す時もあった。


 だが、何度も何度も実父に汚された事で・・・・そんな思いも何時しか消えた。


 そんな女性がヴィズラの城内を歩いている。


 『鬼畜ね。あの爺は・・・・このままだと私も危ないわね』


 女性は顔の部分だけ隠した黒いヴェール内で舌打ちをする。


 自分の妻子さえ平気で生贄にする老人---ラシーン・ビン・ハーメド・アル・ジャバラルは最初から危険と女性は見ていた。


 狂気に陥った実父---ムザー・シャー・ジハーナルも同じ意見だった。


 だからこそ彼を首都から追い出したのだが・・・・馬鹿な弟が呼び戻し、戦場で自分を敗北へ追い遣った。


 しかし、逆に言えば弟---ゼップの恥でもある。


 何故なら血を分けた姉と弟であるからだ。


 だが、女性から言わせればゼップに恥など無い。


 あんな真似をする者に恥という人が使う言葉は無いのだ。


 それはそうと・・・・・・・・


 『どうやって脱出して・・・・どうやって戦うかね』


 今の自分は何も無い。


 愛用の剣---ヤタガンは取り上げられたし、馬も無ければ鎧も無いのだ。


 おまけに部下も居ない。


 いや、ただ一人だけ自分の侍女という形で女性が付けられた。


 彼女はゼップに味方する少数民族の長の義理であるが妹である。


 『仮に脱出しても彼女の義兄に助けは求められないわね。求めてもゼップが連れ戻しに来るのは明白だもの』


 ならば・・・・どうする?


 自分が任された土地の少数民族は大半が、ゼップに膝を屈したか皆殺しにされた。


 誰が残っている?


 「・・・・砂漠の悪魔しか居ないわね」


 砂漠の悪魔とは奥地の部族達を纏めて、ゼップと戦う唯一の人物と聞いている。


 従者と言える女性の話では義兄も認めた男らしい。


 だが、自分は見ていないし話もしていない。


 他人から聞いた情報を鵜呑みにするほど・・・・馬鹿じゃないから少し疑っている。


 『何が目的?この国を我が物にする為?』


 砂漠の悪魔は伝説の人物だが・・・・その伝説を鵜呑みにするなら我国を物にしようとしているだろう。


 そう伝説では言われている。


 しかし、そうだとしても・・・・・・・・


 『敵が悪魔なら、こちらも悪魔と手を組むしかないわね』


 ゼップは悪魔の化身だ。

 

 勝つ為には悪魔と手を組むしかない。


 悪魔は欲望の塊みたいな物だ。


 自分の色気で落とせる自信はあるし、腕っ節でも一対一なら勝つ自信はある。


 あんな真似---見た事も無い武気さえ出されなければ・・・・数で負けても、ゼップの生首を刎ねる事は出来たのだ。


 そう女性---アギフ・ジャナラ・ジハーナルは思っている。


 『砂漠の悪魔と手を組む、と考えるべきね。でも、まだ問題は山積み』


 悪魔は奥地に居り、行くには広大な砂漠の海を越えなくてはならない。


 どうやって越える?


 徒歩など論外だ。


 徒歩で横断しようものなら数日で日干しになる。


 移動手段は駱駝か馬が望ましい。


 いや、長期的な面と砂漠という環境を考えれば・・・・駱駝が望ましいな。


 この国で育った馬は環境に適応性があり、忍耐強く他国でも通じる。

 

 しかし、砂漠という特異な環境、と限定すれば駱駝の方が良いだろう。


 長距離の移動を考えれば尚更だが、どうやって調達する?


 水と食料、更に護身用の武器も欲しい。


 どうやっても手に入らない・・・・今の状態では。


 ゼップが、ここに居る以上は誰も逆らえない。


 あの男は激務を一人でこなしつつ、奥地の侵攻を確実に考えている。


 その男が前線へ赴けば・・・・こちらは手薄となる訳だ。


 部下を残すだろうが、ゼップに比べれば遥かに隙はある、とジャナラは見ている。


 『ここは待つしかないわね』


 今は動きたくても動けない状態だ。


 なら今はひたすら情報を集めて分析し、出来る限りの物資を調達しようではないか。


 「・・・・・・・・」


 結論を導くとジャナラは直ぐに行動した。


 昔から彼女は即決にして即行な性格である。


 だから今回も例に漏れず即行したのだ。


 ジャナラは出来るだけ人目を避けて、ヴィズラ内を行動する。


 何処にゼップの眼が光っているか判らないが、彼を毛嫌いする者は多いのも事実である。


 血族を尽く謀殺して、実父を幽閉する悪魔みたいな男を好く者は居ない。


 そんな奴は人間ではない。


 ゼップの亡き妻はどうだ?


 ふと頭に浮かんだ。


 『あのゼップが妻を持ったなんて・・・・夢にも思わなかったわね。今にして思えば』


 毎日、叩かれたり、蹴られたり、家畜以下の扱いをされて泣いて自分に助けを求めに来る、とジャナラは思っていたが・・・・予想に反して夫婦仲は悪くなかった、と言われている。


 一度だけゼップの妻と茶を飲み合い、聞いた事があったのも思い出す。


 『ゼップ様は思い込みが激しく一本道を進みます。ですが、道さえ踏み外さなければ、とても優しくて良い方です。私の為に衣服や宝石をくれます。それに、私を褥の中でも愛してくれました』


 あんな狂信者に愛妻家の一面があるなど知らなかったし、想像も出来なかったのは言うまでも無い。


 今もそうだ・・・・いや、今はそれ以上に酷いと思っている。


 何せ妻が子供を産み、死んだのを聞いても嘆き悲しんだりせず政務に励んだのだ。


 血が通っており愛していたなら・・・・ムザー・シャー・ジハーナルのように嘆くだろう。


 ゼップはそれをしなかったのだから血が通っていないし愛していなかったとジャナラは思っている。


 まぁ、ゼップの事など・・・・どうでも良い。


 何れ殺して、生首と四肢を切り刻み、砂漠に晒すのだから・・・・・・・・


 それを行うのは自分だ。


 自分が行い、皆の怨みを晴らすとジャナラは決意しながら歩を進めて行くと使用人と出会った。


 「これはジャナラ様・・・・・・・・」


 使用人は慌てて横へ移動して、一礼するがジャナラは周りを見回してから小声で話し掛ける。


 「・・・・駱駝を4頭と水の食料を確保できる?」


 『それは・・・・どういう意味ですか?私には理解できません』


 使用人はジャナラを見ずに、小声で返事をする。


 「奥地へ行き、砂漠の悪魔に助けを求めるの。このままでは国が滅ぶわ。あんな悪魔に乗っ取られる位なら・・・・砂漠の悪魔に取られた方がマシよ」


 それでもジャナラは言い続けるが・・・・・・・・


 『さぁ、何が何なのか解かりませんね。今の話は聞かなかった事にします』


 「ちょっ・・・・・・・・」


 『では、失礼します』


 使用人はジャナラを最後まで見ず去って行った。


 その姿をジャナラは呆然と見つめるが、直ぐに前を向いて歩き出す。


 まだ一人だ。


 使用人は大勢いる。


 あんな臆病者ではない強い使用人なら・・・・助けてくれるだろう。


 ゼップを憎み、怨んでいる者なら手を貸してくれる。


 きっと自分に力を貸してくれる・・・・強い者が居る筈だ。


 希望的観測とも強気な思いとも言えるが・・・・それから30人以上の使用人に声を掛けるも全て無駄に終わる。


 それをまだ知らないし、彼女を追い続ける「何者」にも彼女は気付かなかった。


 後年、彼女の行動を見続け、影で助けた人物が書き記した物が出て来て、こう書かれていたらしい。


 『ジャナラ様はゼップ様ばかり悪者にしているが、少なからずジャナラ様自身にも非はあり、尚且つ軽蔑されていた。

  これはジャナラ様が女性だからではない。

  かと言って、実父と男女の関係があったからでもない。

  理由は極簡単な理由である。

  彼女が傲慢という事だ。

  これは環境でも美貌でも無い。

  ただ、彼女の性格が傲慢であった。

  これに尽きる。 

  それを指摘されるまで彼女は知らなかったのは皮肉である』


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