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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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懐かしい土地へ

 「オルリー空港」と並びパリの玄関口と称されるフランス最大の国際空港である「シャルル・ド・ゴール空港」に私は再び足を踏み入れて・・・・懐かしいフランスの地を踏んだ。


 「・・・・相変わらず凄いわね」


 幼い頃に一度だけ来たが相変わらず凄い。


 人や物が間を置かず動いており、一つの場所に留まろうとしていない。


 まるで誰かを連想させる・・・・・・・・


 「・・・・おじ様」


 懐から一枚の写真を取り出した。


 幼い私と日本人の男性が写っている。


 黒髪に黒眼でブルドッグと揶揄される顔だけど、とても優しくて強い男の人。


 私の実父---故アラン・アラミス大尉の親友で、私の育て親だったタカミ・テツヤおじ様・・・・


 今は外人部隊から除隊して傭兵になっている筈だわ。


 私はそんな方に短い間だけど育てられたの。


 おじ様は自分を「悪党」と称した。


 確かに悪党かもしれない。


 傭兵だから金の為に戦う。


 正規の軍人みたいに国の為とかではない。


 二束三文という「はした金」で世界中の釜を歩き回る。


 逆に言えば、その二束三文の金が傭兵にとっては大事なの。


 自分・・・・ましてや他人の生命よりも。


 だから人は傭兵を悪党と称する。


 おじ様は悪党かもしれないけど私にとっては関係ない。


 悪党でも私を大事に育ててくれた。


 その過去は決して消えないし、私の胸に今でも秘められている。


 ここに来たのも・・・・おじ様の知り合いに会うから・・・・・・・・


 幼かった私を空港に連れて行き、アメリカまで連れて行ってくれた方なの。


 今でも恐らく武器屋をモンマントルの路地裏でやっている筈よ。


 「・・・・・・・・」


 私は底に小さな車輪が付いた鞄---トロリーバッグの取っ手を掴み歩き出した。


 空港を出てタクシーを拾うが私には目当てのタクシーがある。


 ・・・・あった。


 目当てのタクシーに行き、トランクにトロリーバッグを入れて中に入る。


 「何処まで行きましょうか?」


 「・・・・モンマントルの路地裏へ」


 「失礼ながら・・・・お客様は知っているのですか?路地裏の主人を」


 「貴方も知っていますわ」


 幼い私を楽しませようとキャンディをくれて、面白い事を話してくれたでしょ?


 「!?まさか・・・・お嬢ちゃんか?!」


 運転手がバック・ミラーで見ていた顔を振り向かせて、私を仰々しく見る。


 「はい。数年・・・・十年以上ですか?」


 「・・・・いやはや、あんなに可愛かった嬢ちゃんが今では美人に早変わりか」


 歳は取りたくないと運転手は微苦笑する。


 「おじ様も元気そうで何よりです。武器屋のおじ様は元気ですか?」


 「まぁな。最近は後継者に任せて悠々自適の生活を送っているぜ」


 「そうなんですか・・・・・・・・」


 元気そうで何よりと思いながら私は息を吐く。


 アメリカへ引き取られてから一度も会っていない。


 だけど会えるかもしれない。


 それに安堵する。


 私は先日、PMC---民間軍事会社に就職した。


 もといヘッド・ハンティングされたの。


 最近では先進国の間で問題になっていると聞いていたけど・・・・・・・・


 養父を最高の治療が施せる病院に入れる為に再就職した。


 その養父も居ない。


 葬儀も済ませたから後は何も無い。


 これからは自分の為に生きる。


 だけど、それを伝える為に私はフランスに来たの。


 テツヤおじ様と同じく私の将来を・・・・真摯に考えてくれた方に会う為に。


 タクシーは走り出した。


 幼い私を乗せたように・・・・・・・・

 私は終始、表情が暗く顔を俯かせていた。


 「そんなに暗い顔をすると男の子に嫌われるぞ」


 優しい声で、武器屋のおじ様は言うけど・・・・・・・・


 「・・・・何でテツヤおじ様は居ないの?ジネット、良い子にしてたのに」


 「君の将来を考えた結果なんだよ・・・・・・・・」


 私の将来?


 幼い私は理解できなかったが、おじ様は話し続ける。


 「あいつは君のパパに約束したんだ」


 何があろうと私---ジネット・アラミスを堅気にして幸福にすると・・・・・・・・


 「今のままでは堅気に出来ない。だから・・・・おじちゃんの知り合いに引き取ってもらう」


 その知り合いには子供が居ないから私を喜んで引き取ると申し入れたらしいけど・・・・・・・・


 「アメリカで暮らすの?もうパパのお墓にも、おじ様達にも会えないの?」


 「・・・・それが君の為なんだよ」


 おじちゃん達は後戻り出来ない。


 だけどジネットは違う。


 まだ堅気になれる。


 「お嬢ちゃんは幸福になるんだ。あいつもパパも願っているんだよ」


 「おじちゃん達は・・・・・・・・?」


 地獄に堕ちる。


 ・・・・おじちゃん達は言った。


 「俺達は君が幸福になる事が幸福なんだ」


 「でも、地獄に堕ちるんでしょ?」


 恐い地獄に・・・・・・・・


 「お嬢ちゃん、世の中には等価交換って奴なんだよ」


 タクシーを運転するおじちゃんがキャンディを渡しながら幼い私には分からない言葉を言った。


 「何かを得るには何かを代償または代価が必要だ」


 このキャンディだって店で金を払い買った。


 これが等価交換というもの・・・・・・・・


 「俺達の事も同じだ。だから気にする事はないよ」


 「でも・・・・・・・・」


 尚も幼い私は言おうとするが、おじちゃん達は楽しい話を始める。


 私を幸福にするから皆は地獄に堕ちる・・・・・・・・


 そんな事はして欲しくないのに・・・・・・・・


 だけど私の事を考えて結論したんだと幼いのに・・・・聡い頭で理解してしまう。


 学校でも皆が解けない問題を私だけ解けた。


 それこそ大人が解く問題だって解けてしまった。


 今だって理解したくないのに理解した。


 私は理解したくなかったのに・・・・・・・・


 やがて空港に到着した。


 タクシーのおじちゃんは消えて私は武器屋のおじちゃんに連れられて、空港に入り飛行機を待つ。


 その間おじちゃんは私のパパについて話してくれた。


 パパは軍人でテツヤおじ様と戦友だったけど、ある仕事---任務で怪我をした。


 助けられないから・・・・テツヤおじ様が殺したの。


 「あいつは君のパパを誰よりも信頼していた」


 本当は殺したくなかった。


 でも、おじ様はパパを殺した。


 信頼していた戦友だから・・・・・・・・


 「あいつは君を堅気にしたいんだ。パパも願っている筈だ」


 だから・・・・・・・・


 「幸福になりなさい。それが・・・・あいつとパパの幸福なんだ」


 そして・・・・・・・・


 「あいつを怨まないでやってくれ」


 これは武器屋のおじちゃんの願いだった。


 やがて・・・・・・・・


 『アメリカ便の飛行機が来ました。乗車の方は移動して下さい』


 機械的な声がして武器屋のおじちゃんは立ち上がる。


 「ここからは君が行きなさい。俺はここまで、だ」


 「おじちゃん・・・・・・・・」


 「幸福に・・・・なるんだよ」


 泣きそうな声を出しながら武器屋のおじちゃんは私の頭を一撫でして私の前から立ち去った。


 一人になった私だが、客室乗務員の人が飛行機に乗せてくれた。


 アメリカの空港に着くまで客室乗務員の人は私の面倒を見てくれたから・・・・・・・・


 最後の役目だったのかもしれない。


 そしてフランスからアメリカへ行った私を・・・・一組の夫婦が迎えてくれた。


 私の新しい家族---パパとママ。


 アメリカに着いた時から私はジネット・アラミスの苗字が変わった・・・・・・・・


 ジネット・コリアスと苗字が変わったけど他の物も変わった。


 国籍も、住所も、電話番号も、学校も・・・・全部変わり、赤の他人になった気もした。


 だけど唯一私がジネット・アラミスという思い出と証拠がある。


 テツヤおじ様と一緒に撮った写真。


 たった一枚だけ・・・・・・・・


 でも、それだけが私の思い出と証拠だった・・・・・・・・


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