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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
18/37

天使と別れ

 PAM!


 PAM!


 PAM!


 ZIP!


 ZIP!


 ZIP!


 立て続けに3発の銃声が鳴り、人型の的に命中していく。


 「どう?テツヤおじ様」


 可愛らしい声---天使の声であり、容姿も天使のように可愛い娘が俺に問い掛けてくる。


 「上手いな。よく当てたぞ」


 俺は笑みを浮かべて娘の頭を撫でた。


 「えへへへ・・・・・・・・」


 娘は可愛らしい笑みを浮かべていた。


 しかし、手には小型の拳銃---コルト・ウッズマンが握られている。


 ルーツィエ・・・・本名はジネット・アラミス。


 俺の亡き戦友であるアラン・アラミス大尉の愛娘だ。


 あれから俺は外人部隊で教官となり、新兵達の教育に勤しんでいる。


 この人事異動には上官の大佐が係わっていた。


 『まだ幼い娘を引き取ったのだろ?なら暫くは安全な所で仕事をしろ』


 余計な節介とは言わない。


 『お前の為ではない。二親を亡くして天涯孤独の少女の為だ』


 そう言われた。


 改めて・・・・一人の少女を育てると思い知らされる。


 親の愛を知らない俺に・・・・出来るのか?


 不安だったが、今ではそうでもない。


 ルーツィエはとても聡明で俺に懐いてくれた。


 寄宿学校に通っているのは変わらないが、それでも休みの日は必ず2人切りで休日を楽しんでいる。


 映画、買い物、旅行・・・・ルーツィエが望む事は何でもしているんだよ。


 引き取りながら・・・・寄宿学校に入れている罪滅ぼしみたいな物だ。


 そして今はルーツィエに銃の撃ち方を教えている。


 何でも寄宿学校の餓鬼と賭けをしたらしい。


 『俺に勝ったら、お前の母は売春婦と認めろ』


 逆に彼女が勝ったら餓鬼は素っ裸で学校を一周する。


 顔も名も知らないが・・・・教育してやりたい気分だ。


 まだ10代前半で、売春婦なんて言葉を使う上に・・・・女を侮辱したんだ。


 親の顔が見たいし、親諸とも教育してやりたい。


 ・・・・まぁ良い。


 この腕なら勝てるだろう。


 「おーい、お嬢ちゃん。おじさんがホット・ケーキを焼いたから食べておいで」


 射撃場のドアが開いて知り合いであり、武器を売買している男が現れた。


 「柄でもないだろ?」


 こいつは元前科者であるが、別にそこまで悪い奴じゃない。


 俺としても自由に射撃練習が出来る場所を欲しかったからここを任せている。


 「うるせぇ。さぁ、お嬢ちゃん。銃を置いて食べて来なさい」


 「はーい」


 ルーツィエは銃を置いて駆け出して行き、入れ換わりに男が来る。


 「・・・・銃を撃たせて良いのか?」


 「賭けに勝つ為だ。終われば止めさせる」


 「出来るのか?お前自身・・・・銃を扱う職業に居るんだぞ」


 「・・・・出来るさ」


 あの娘が大きくなるまでは・・・・新兵育てをやる。


 若しくは・・・・嫌いだが、上の役職にでも就いて書類と戦争をするまでさ。


 「・・・・子供は見てないようで大人の事をちゃんと見ている。特に身近な奴の所を、な」


 「・・・・・・・・」


 俺は何も言わず、懐からコルト・パイソンを取り出して引き金を引く。


 真ん中に全て撃ち込む。


 ワンホール・ショットだ。


 「・・・・あの娘は堅気にする。アランも望んでいる事だ」


 そう・・・・あの娘には堅気の生活をさせる。


 銃とは無縁な生活をさせて、幸せに暮らさせるんだ。


 アランも望んでいる。


 だから俺も将来を考えているんだよ。


 しかし・・・・果たして今の職業で出来るのか・・・・不安だった。


 俺が銃を床に置けば、あの娘も倣う筈だ。


 それが出来ない。


 銃を持った身で母親役が居ないのに・・・・俺は一人の少女を育てようとしている。


 男が心配するのも無理ない。


 この心配が・・・・後に現実となる。


 その日は思いの他・・・・近かった。


 それはルーツィエと別れる事も意味していたんだよ・・・・・・・・

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 「おじちゃん!勝ったよ!!」


 ルーツィエが俺と男に駆け寄り抱き付いた。


 「良くやったぞ」


 俺はルーツィエの髪を撫でる。


 「さぁ、御坊ちゃん。男なら約束は果たせよ?」


 男が悔しがる餓鬼に話し掛けた。


 現在、俺と男は寄宿学校に居り・・・・勝負の行く末を見届けた。


 ルールは簡単。


 板に置いた空き缶10個を何個撃てるか?


 餓鬼は3個に対して、ルーツィエは7個だ。


 彼女の圧勝だぜ。


 「そ、そんな約束をした覚えは無いぞ!!」


 餓鬼は・・・・約束をしていないと寝ぼけた事を言う。


 「坊主・・・・俺を怒らせるなよ」


 俺は餓鬼の前に屈んで煙草の煙を吹き付けた。


 「男なら女と交わした約束を果たせ。そして女はベッドの中以外では泣かせるな。傷つけるな。虐めるな。それが出来ないなら・・・・オカマにしてやろうか?」


 「ひ、ひぃぃぃぃ!!」


 餓鬼は悲鳴を上げるが、教師は腕を組み黙っていた。


 「ベルトランさん、でしたか?あまり子供を脅さないで下さい」


 「脅す?俺は教育しただけだ。それよりあんたも聞いてたんだろ?約束を」


 「・・・・はい」


 「だったら餓鬼に守らせろ。碌な大人にならねぇぞ」


 「・・・・分かりました」


 教師は頷いて餓鬼を伴い消えて行く。


 そして俺と男はルーツィエと一緒に帰る。


 「良くやったな」


 俺は、もう一度・・・・ルーツィエを褒めた。


 「ううん。だって、あいつパパとママを侮辱したんだもん。おじ様もブルドッグって言ったんだもの」

 

 だから許せなかった。


 「本当は撃ちたかった・・・・・・・・」


 こいつで・・・・・・・・


 「・・・・ルーツィエ」


 俺は恐ろしい事を言うルーツィエから銃を取り上げる。


 「これで終わりだ。さぁ、今夜は何を食べようか?」


 そう俺は言うが、ルーツィエは首を横に振った。


 「終わりじゃない。ルーツィエ、おじ様みたいに強い軍人になる」


 そして・・・・・・・・


 「おじ様を助けるの」


 パパみたいに・・・・・・・・


 嬉しい・・・・嬉しくない。


 そんな事を言わないでくれ。


 「お前は堅気の生活をするんだ。さぁ、帰ろう」


 俺はルーツィエの手を掴み歩き出した。


 しかし・・・・男は何処かで起こるだろうと予想していたような顔をしていた。


 それから暫く経った時だ。


 俺が買い物から帰った時・・・・ドアの隙間から音が聞こえた。


 銃を掃除する音だった。


 静かに隙間から覗いてみると・・・・・・・・


 ルーツィエがコルト・ウッズマンを掃除している。


 そして空の弾倉を戻すと・・・・餓鬼の写真に狙いを定めて・・・・・・・・


 カチッ・・・・・・・・


 引き金を躊躇わず引いた。


 僅かに彼女の眼が見える。


 本気だ。


 本気で餓鬼を殺そうとしている眼だった・・・・・・・・


 銜えていた煙草を落として、俺はドアから離れる。


 何時の間にか家の外に出ていた。


 同時に男が立って俺を見ている。


 「お前の国に・・・・こんな諺があるだろ?」


 「門前の小僧、習わぬ経を読む」と・・・・・・・・


 普段、見聞きしている事が自然と出来てしまう・・・・環境が人に与える影響を表した諺だ。


 「お前が銃を手放さないから・・・・あの娘も手放さないんだよ。こうなると・・・・何もかも壊すしかない」


 今の環境を全て・・・・・・・・


 「俺の知り合いがアメリカに居る。普通の家庭で子宝に恵まれていない。どうだ?あの娘をアメリカにやらないか」


 「・・・・分かった」


 俺は直ぐに答えを出す。


 あんな・・・・あんなルーツィエを見たくない。


 いや、俺がそうしたんだ。


 俺が銃を手放さなかったのが原因で・・・・・・・・


 しかし、まだ間に合う。


 あの娘を変えるんだ。


 今度こそ堅気の世界にやるんだよ。


 だから・・・・・・・・


 「俺は・・・・このまま地獄へ堕ちる」


 「・・・・・・・・」

 

 もう幸せな生活なんて要らない。


 一人の娘の人生を狂わそうとしたんだ。


 罰として地獄へ堕ちるまでだ。


 元から地獄行きと思っていたが・・・・これで確定した。


 それから数日後・・・・ルーツィエはアメリカ便の飛行機に乗り、俺はフランスを後にして中東へ飛んだ。


 全てを壊す為に・・・・・・・・


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