さらば戦友
イギリスの首都ロンドン。
別名を霧の都と言われている。
確かに霧が深く隠れるには申し分ない。
それこそ・・・・大きな屋敷なら尚更と言える。
お陰で楽に侵入出来て、眼の前で足に縋りついて命乞いをする糞野郎を見下す事ができる。
糞野郎の名前はチャールズ。
チャールズ・マッキンドス卿。
御歳70歳になるが、野心はバリバリで近年アフリカの鉱石発掘に身を乗り出していた。
しかし、アフリカは長年植民地だった事もあり反感は強い。
おまけに独立戦争を起こした故に武装されている。
この爺が狙う鉱山にも武装した奴等が住み着いており、容易に近付く事は出来ない。
そこで・・・・俺の出番となった。
どういう訳か知らないが、外人部隊の上層部に伝手があった爺は・・・・私欲に溺れて俺等を使いやがった。
俺達はそれを知らず単なる汚れ仕事として現地へ向かったんだよ。
任務は場所の確保で、期日は数日---3日だった。
直ぐに俺達はアフリカへ行き、任務を達成したんだが・・・・3日経って来たのは味方ではなく傭兵だったんだよ。
おまけに現地の奴等も一緒で俺達を攻撃してきた。
何故なのか最初は判らなかった。
だが、直ぐに戦友のアランが閃く。
俺と同じ大尉で所属部隊は別だったんだが・・・・どういう訳か付いて来た。
そのアランが罠と俺に話して逃げる事にしたんだよ。
ただ・・・・進んで行く内に仲間は次々に死んで行き、最後まで生き残れたのは僅か数名---7人だった。
7人の中に・・・・アランは含まれていない。
「た、助けてくれっ」
足にしがみ付いて命乞いをする爺を俺は冷たく見下す。
こんな・・・・糞野郎に俺の部下達は殺されたのか・・・・・・・・?
こんな奴の為に俺たちはアフリカの大地で血を流して見捨てられたのか・・・・・・・・?
そして俺は戦友を殺した・・・・殺したんだ。
殺さなくてはならなかったんだ。
『テツヤ、俺を殺してくれ!!』
『まだ間に合う。手を出せ!!』
『ジネット!ジネット!!』
『・・・・アラン!!』
俺は引き金を引いた・・・・・・・・
足を撃たれて飛行機に乗れないアランを・・・・・・・・
敵に渡せば拷問を受ける。
身分も知られてしまう。
それを阻止するために・・・・・・・・
敵から奪い取ったUZIの引き金を引き絞れば・・・・9mmパラベラム弾が戦友アランの身体を撃ち抜いた。
初弾以外は命中率など当てにならないのに・・・・あの時は全弾が命中したんだよ。
マガジン1個を空にした。
全弾命中して痛い筈なのに・・・・あいつは笑みを浮かべ死んだ。
俺が殺したのに・・・・何で笑って死ぬんだよ。
お前を生かして連れて帰り愛娘に会わせると約束したのに・・・・果たせなかった。
そして戦友の俺に殺されたのに何で笑ってるんだよっ。
何で・・・・・・・・
「お、お願いだ。君に1万、いや10万ポンド・・・・100万ポンド上げようっ。そ、それに女も麻薬も好きなだけくれてやるっ。だ、だから・・・・あぎゃ!!」
「・・・・その汚い口を動かすんじゃねぇ」
最後まで言う前に爺の顔を踏みつけて、床に踏み倒した。
そのまま体重を掛けて鼻や口を塞ぎ、潰していく・・・・・・・・
こんな奴が生き続けてアランみたいな善人が何で死んでしまう?
世の中は理不尽と不平等で成り立っていると理解している・・・・・・・・
だが、何処かで正しい事もあり必ず正義があるんだ、と馬鹿みたいに思っていた。
今は思わない。
改めて・・・・この世は理不尽と不平等で成り立っている、と思っている。
アランは理想主義者だ・・・・・・・・
行く度も戦場に出ては理想を現実にしようとしてきた。
その度に理想は、あくまで理想だと思い知らされてきた。
何度も現実を見せられたのに諦め悪く足掻いていて・・・・・・・・
今回の依頼もそうだ。
俺等の仕事は正規軍では出来ない汚れ仕事をする。
それなのに奴は口車に騙されたんだよ。
『虐げられたアフリカの住民を今こそ過去の贖罪として救おう!!』
こう俺達に言って呆れさせた。
だが、今度は理想が現実として叶う可能性が十分にあったんだよ・・・・・・・・
それを・・・・・・・・
「てめぇがブチ壊したんだよ。分かるか?!」
足を退けて言えば、鼻と歯を抑えながら涙眼になる糞爺が眼に入る。
元依頼人を俺は再び蹴り倒してから胸倉を掴み立たせた。
「てめぇが欲に駆られて俺たちを見捨てたからアランは死んだんだ」
理想が叶う筈だった。
それを・・・・てめぇみたいな下種が壊したんだ。
俺の部下達を殺したんだ!!
「落とし前は・・・・つけさせてもらうぞ」
てめぇの生命でな。
カチリ・・・・・・・・
サプレッサーを取り付けたコルトの撃鉄を起こす。
「や、やめ・・・・・・・・」
最後まで言う前に引き金を引いた。
Push!
Push!
胸に2発の45A.C.P弾を撃った。
直ぐに奴は事切れる。
何処までも見っとも無い死に様だ。
「・・・・地獄でアラン達に可愛がられるんだな」
豚みたいに泣いて罪を償いやがれ。
俺はコルトを仕舞い部屋を出た。
こんな奴の為に働いてきたと思うと胸糞悪くなる。
部屋を出て屋敷を後にすると、直ぐに車が霧の中から出て来た。
俺を鍛えた奴で階級は上級曹長だ。
空挺部隊に行ってからは俺に従う部下となっている。
「・・・・しくじりましたか?」
車に乗り込むと先ず俺に質問を浴びせてきた。
「俺がすると思うか?」
金の入った鞄を後ろに投げて俺は尋ね返す。
「いいえ。それはそうと先ほど大佐から連絡がありました」
「何だって?」
「下種から賄賂を受け取った上層部の連中ですが・・・・国外逃亡しようと船に乗ったのですが、その船が沖合で爆発しました」
木っ端微塵で跡形も無いらしい。
「・・・・なるほど。そいつは良かった」
俺の言葉に頷いた部下は次の言葉を述べる。
「それで・・・・どうなさるんですか?」
「・・・・出せ」
「ヤヴォール」
答えを言わず命令をする俺に部下は何も言わず車を発進させた。
これで先ずは一段落か。
とはいえ・・・・・・・・
「どうなさるのですか?大尉」
もう一度、部下が尋ねてくる。
言いたい事は理解している。
血生臭い事をしたので頭の中にある歯車は錆び付いていた。
しかし、慣れれば錆び付きながらも歯車は回る。
「・・・・会うさ」
戦友から託された可愛いらしく幼い天使だ。
彼女に父親が・・・・どんなに愛していたか話す。
そして大人になった時・・・・彼女に父親の事を話すんだ。
俺みたいな悪党に天使は似合わない。
悪魔が似合う俺だが、亡き戦友の頼みだ。
叶えてやるよ。
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イギリスの寄宿学校に俺は一人、来ていた。
ここにアランの忘れ形見が居る。
母親は・・・・春を売る女だが、決して心が汚い訳じゃない。
寧ろ澄んでいた。
だが、母親は病死して身寄りはアランだけになった。
しかし、仕事上、引き取れない。
・・・・故に寄宿学校に入れた訳だ。
『俺に何か遭ったら・・・・ジネットを頼む』
あいつは生前、俺にこう頼んだ。
それが遺言みたいで断ったが、まさか・・・・本当にそうなるとはな。
「・・・・・居たな」
皆がテニスをする中で一人、ラケットを持ちベンチに座る子が居た。
まだ10代前半だが、後4~5年もすれば男を虜に出来るだろう。
黙って女の子に近付く。
すると女の子は澄んだ淡い瞳で俺を見る。
「おじちゃん、誰?」
「君のパパと友達だった男だよ」
「お仕事は何?」
「悪党さ」
やっている事が汚れ仕事である以上・・・・悪党と答える。
「嘘。だって、パパの友達に悪い人は居ないもん」
「俺が例外なだけだよ」
「それも嘘。だって、おじちゃん・・・・泣いているじゃん」
「・・・・・・・・」
瞼は熱くない。
しかし、子供には俺が泣いていると解ったんだな・・・・・・・・
「・・・・お父さんの話をしよう」
君のパパが、どれだけ勇敢で誇り高く君を愛していたのか・・・・・・・・
「うん」
女の子は小さな手を俺に差し出す。
その小さな手を掴み俺は歩き出した。
・・・・暫くして俺は一人の女の子を養い始めた。
亡き戦友の忘れ形見で名前は・・・・ジネットだ。