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傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
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老けた騎士

 「やあ!!」


 「とう!!」


 「せいや!!」


 「もっと腰を据えて打ち込みなさいっ。そんなヘッピリ腰じゃ敵は斬れないわよ!!」


 私ティナは素振りを何度もする村の仲間達に怒鳴る。


 現在、まだ夜は明けていない。


 だけど、もう直ぐ朝になる・・・・後もう少しで仕事は始まる。


 それまでは稽古するのが最近の日課となっていた。


 この領土---パミーナ辺境伯爵夫人が治める領土は兵隊はおろか民草も戦う術を殆ど知らないからよ。


 それはこの土地で作られたワインを王族に献上するから。


 現在の女王陛下の夫であったガルバーは大の付く戦好きで、兵が足りなければ地方から男達を徴兵した。


 しかし、ここは葡萄畑がある。


 その葡萄でワインを造るのだけど重労働で女と子供だけでは到底無理なの。


 だから男手が必要となり必然とこの土地では徴兵されない。


 その他にも王族にワインを献上する事で税金が他の土地に比べて軽い。


 そういう事もあり・・・・この土地には兵隊が必要なかった。


 ところが内乱が起こってから一変した。


 私たちの住む土地も巻き込まれたのよ。


 中立を掲げていたが・・・・武器も持たずに中立を掲げている土地が、どれだけ悲惨な眼に遭うか私の父が実践してみせた。


 正確には違うかもしれない。


 でも、私の父が死んだ事で、ここの皆も自分の土地は自分達で護るという気持ちが生まれた。


 『・・・・父上の死は無駄じゃなかった』


 改めて思う。


 それを教えてくれたのは、私が初めて恋をした男---狐の異名を持つヘン・ロビンソンだ。


 サルバーナ王国親衛騎士団の副団長を務める男で、見た目は中年だけど・・・・実年齢はまだ20代というから驚くわ。


 だけど・・・・強いし、誠実だし、面倒見も良い。


 私みたいな小娘の為に・・・・色々としてくれた。


 短い間---3日~4日位かしら?


 それ位の日数しか共に居なかったのに・・・・私はヘン・ロビンソン---ヘンリーに恋をした。


 ここで造られたワインは辛口でもあるが、甘口でもある。


 造り手などで味が異なったりするんだけどヘンリーの場合は中途半端。


 中途半端という言葉も違うかな?


 でも、中途半端としか言い表せない。


 だって・・・・辛口のワインみたいに厳しい所もあれば、甘口のワインみたいに優しい所もある。


 だから中途半端なの。


 そういう辛くて甘い所もあるのは苦労したから?


 本人は中年と言われると「苦労したから」と言った。


 確かに白髪も同年代に比べればあるし、顔もやっぱり皺があって老けて見える。


 パミーナ辺境伯爵夫人とは付き合っていたと話してくれたから・・・・そこ等辺に理由があるのかもしれない。


 元に戻るの・・・・かな?


 持っていたカタナを強く握り締めた。


 かつては恋人同士だけど2人は今も・・・・愛している。


 それは分かった・・・・面白くない程に。


 私は、ヘンリーを愛している。


 それは隣で弓を構えている親友のエスペランザーも同じ。


 兄弟子だったガラハと戦う時に2人で告白した。


 彼女もヘンリーに恋している事に驚いたし、同時に厄介な恋敵と思わずにはいられない。


 私より女らしい・・・・親友。


 男が好む方はどちらと言われたら・・・・エスペランザーを大抵は言うかもしれない。


 ヘンリーはどうだろう?


 パミーナ伯爵夫人しか付き合った相手は知らないけど・・・・


 2人そろって私より上・・・・


 しかも、1人は元恋人同士。


 ・・・・私、負けちゃう。


 嫌だ・・・・ヘンリーを誰かに取られたくない。


 ヘンリーと一緒に居たい。


 どうすれば良いの?


 暫く考えて答えは出た。


 あ、そうか・・・・


 簡単じゃない。


 「行けば良いんだ」


 そう・・・・何もここで暮らす訳じゃない。


 ヘンリーに会いに行って、一緒に暮らせば良いんだ。


 職歴は判っているし、今は軍も居るから誰かに頼んで言伝をして貰えば良いんだ。


 簡単だ。


 これで・・・・


 「ヘンリーは私の夫になる」


 あの老けた騎士は私の夫・・・・


 ふふふふふ・・・・


 『おい、何かティナ、気持ち悪くないか?』


 『ガラハの怨霊でも憑依されたのかな?』


 『どちらにせよ、もう働く時間だ』


 『放っておこう』


 皆が小声で静かに、消える中で私は暫く1人で笑っていた。

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 私はワキュウを引き絞り、遠く離れた的を狙った。


 右手には「ユガケ」をしている。


 これは右手に装着して、矢の羽を包むようにして持つ。


 馬に乗ったまま射る練習もしなければならない。


 しかし、先ずは立射の構えだ。


 これは基本だから応用も出来るからこそ・・・・大切にしなければならない。


 「・・・・・・・・」


 下から上へ弓を起こし、弦を引き絞る。


 下から上へ弓を起こすのは、この土地に伝えられた流派からだ。


 この土地に伝えられたワキュウの流派は「オガサワラ流」である。


 どんな流派か詳しい事は、伝えられていない。


 ただ馬上から射る方法「騎射」などがあるとは伝えられている。


 他にも「サドウ」や「センチャドウ」なる物もあるが、これはどちらかと言うと礼儀作法である。


 私が知る限りオガサワラ流では「礼儀」が常に重んじられており、単純な動作にも礼儀が働いているのが、やっている内に分かった。


 礼儀は人として当然の事。


 そして・・・・相手に・・・・好きな相手に自分を良く見せる方法でもある。


 『・・・・ヘンリーさん』


 私の愛しい殿方。


 ガラハを倒して、ティナを介抱した次の日に彼は居なくなった。


 まるで絵本に出て来る騎士のように、風のように消えてしまったのだ。


 今でも忘れない。


 私を抱き上げた強靭な腕、そして優しい言葉と態度・・・・何より苦労を知り尽くした「疲れ切った顔」が。


 あの顔は、人生という物を知り尽くした顔・・・・癒して上げたい。


 貴方の疲れを私が癒し続けて上げたい。


 だから告白した。


 僅か数日で私の心を射止めた「老けた顔の騎士」である貴方に・・・・・・・・


 貴方は何処に行かれたの?


 私の騎士様・・・・


 「・・・・会いたい」


 弦を引き絞っていた右手を離す。

 

 顎より下には落ちないようにして。


 矢は真っ直ぐに飛んで的を射た。


 それを見て、暫し動きを止める。


 「残心」と呼ばれる物だ。


 単に固まっていると見るかもしれないが・・・・これも礼儀の一つに数えられる。


 これを・・・・ヘンリーさんに見せたらどうだろう?


 私の髪・・・・今は上で纏めているから・・・・うなじが見える。


 結構、自信ある積りだ。


 『・・・・綺麗だな』


 なんて言われるかな?


 触ってくれるかな?


 でも、それすら彼が居なければ始まらない。


 どうすれば貴方に会えるの?


 暫し考えて答えを見つける。


 「・・・・会いに行けば良いんだ」


 彼はサルバーナ王国親衛騎士団副長と言った。


 つまり王都に居る。


 ならば・・・・王都に行けば会える。


 ここに残ってくれている方に頼んで、連れて行って貰えば良いんだ。


 理由は「お礼がしたい」とか言えば良い。


 そして彼に会う。


 きっと寮とかに住んでいる筈だ。


 だから・・・・そこを狙う。


 寮で働いて・・・・彼の好きな物とかを調べる。


 それから親密になって行けば良いんだ。


 だけど困った事もある。


 私の親友であるティナも・・・・ヘンリーさんを愛している。


 まさか、親友と好きな男が同じなんて・・・・・・・・


 でも、私は負けない。


 ティナとは親友だけどヘンリーさんを愛する気持ちは負けないし・・・・負けられない。


 だから・・・・負けない。


 「私・・・・負けないから」


 笑うティナに私は言い、また弓を引き絞った。


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