表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傭兵の国盗り物語短編集  作者: ドラキュラ
13/37

狼の気持ち

『拝啓 これを読む時に私はもう居ない事でしょう。

 プロイセン様には、誠に申し訳なく思いますが・・・・意地を最後まで貫きたい親不孝者の私をお許し下さい。

 そして、ゼナとミナをお願いします。

 私はプロイセン様を実の父と思っております・・・・ですから、ゼナとミナは貴方様の娘であり、孫であります。

 どうか、2人の面倒を見て下さい。

 それが唯一の心残りとは言えません。

 まだやらねばならない事が沢山あるのですから。

 しかし、貴方様とタカミ・テツヤ、更にゲンハルト様達が居るから心おきなく死ねます。

 最後になりますが・・・・どうか、この親不孝者の息子を許して下さい。

                      プロイセン・ド・ツー・マクシリアンの息子 ヴィクターより』


 私は1枚目の手紙を封筒に入れて、インクで封をした。


 そして新しい紙に羽ペンで文字を書く。


 もう時間は無い。


 『愛する我が妻と娘へ。

  ゼナ、私と短い間だが、夫婦として人生を歩んで来れた事に深く感謝する。

  夫として何も出来なかったと思っている私だが、これだけは自信を持って言える。

  私は、そなたの夫である事を誇りとしている。

  そして・・・・誰よりも愛している。

  これに嘘は無い。

  そんな・・・・そなたとミナを残して死ぬ私を許せ、とは言わない。

  どうか、新しい良き夫を見つけ、ミナを育て幸せになってくれ。

  短い文章ですまないが、これで最後だ。

  どうか・・・・幸せになってくれ。

                                   ヴィクター・ド・バルスより』


 私は短い文章を書き終えて嘆息する。


 「我ながら短い文章だな」


 妻に対して最後の手紙となるのに・・・・こんな短くて良いのか?


 長ければ良いという訳ではない。


 しかし、もっと言いたい事などはある筈だ。


 それなのに書けないのは、私の性格としか言えない。


 やはり私は夫として最低かもしれないな。


 そんな私に出来る事は、ただ2人の新しい人生に幸あれと祈る事しかない。


 「・・・・・・・・」


 私は指環を抜いた。


 もう夫ではない私に、これを填める理由は無い。


 寧ろ、これを・・・・あの男--―タカミ・テツヤに渡す為に外すべきだ。


 これを渡す事で・・・・ゼナとミナを頼む。


 そういう意味を込めて渡させるのだ。


 「・・・・ヴォルグ」


 部屋の外で待機しているであろう小姓のヴォルグを呼ぶ。


 「お呼びでしょうか?」


 直ぐにヴォルグはドアを開けて私の前に立つ。


 「この手紙を将軍に、こちらの手紙を妻に渡してくれ」


 私は封をした手紙をヴォルグに渡す。


 「それから・・・・この指環をタカミ・テツヤに渡せ」


 「この指環は・・・・・・・・」


 「何も言わずに渡してくれ。そうすれば奴も解かる」

 

 「御意に。では、これを渡してから城へ・・・・・・・・」


 「その必要は無い」


 ヴォルグの言葉を遮り、私は断言した。


 一瞬だけヴォルグは・・・・私の放った言葉に耳を疑う。


 しかし、直ぐに我を取り戻すと声を荒げた。


 「ど、どうして、ですか?!」


 「これを渡して、更に戻れば敵に攻められる恐れがある」


 将軍もテツヤもそんな真似はしない。


 だが、この少年を生かす為に私は嘘を吐いた。


 「ど、どうして、そんな任務を私に・・・・・・・・」


 「貴様は私の何だ?」


 鋭い眼差しをヴォルグに向ける。


 「・・・・小姓です」


 「小姓の仕事は何だ?」


 「主人の側に仕え、諸々の雑用などをこなすのが仕事です」


 「それならば・・・・この任務も小姓の役目だ」


 「ですが・・・・・・・・」


 「何だ?」


 「・・・・私ではない者にやらせて下さい」


 「・・・・貴様、この私の命令に従えないのか?!」


 私は椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がる。


 ヴォルグは私の気合いとも言える迫力に・・・・恐れた。


 「命令だ。手紙と指環を届けろ」


 「・・・・出来ません」


 「ならば・・・・ここで私が殺してやろうか!!」


 剣を引き抜き、ヴォルグに迫る。


 「もう一度だけ言う。命令を聞け。手紙と指環を届けろ」


 さもないと・・・・・・・・


 「わ、分かりました!!」


 ヴォルグは私の殺気に慌てて、部屋を出て行く。


 「・・・・・・・・」


 私は剣を鞘に収めて窓を見る。


 すると少し時間が経過してから一頭の馬に跨り、プロイセン様の陣へ赴く少年の後ろ姿が見えた。


 少年が馬の手綱を引いて振り返る。


 私を見つめているように見えた。


 聞こえないのに私は言葉を放った。


 「・・・・生きてくれ。ヴォルグよ」


 そなたのような者まで死なせる訳にはいかない。


 いや・・・・違う。


 そなたはミナの夫となる。


 娘の夫を私の意地で殺す訳にはいかない。


 だから生きてくれ。


 生きてミナを護ってくれ。


 義父として・・・・最後の頼みだ。


 馬はプロイセン様の陣へ走り去って行く。


 もう一度、私は言った。


 「・・・・生きてくれ。ヴォルグよ」

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

 私は主人であるヴィクター辺境公爵様の部屋--―自室の前で黙って待っていた。


 公爵様はリカルド様の葬儀を終えた後、直ぐに自室へと籠り私は待つように言われた。


 何をしているのだ?


 見当もつかない。


 私ごとき若造であり、小姓でしかない者には想像もつかない事を・・・・公爵様は考えているに違いない。


 それは確かだった。


 恐らくだが、あの男--―タカミ・テツヤなる大将を殺す算段を考えているに違いない。


 そうに違いない。


 その時は、私も出る。


 そして首を斬るんだ。


 私の父の騎馬隊を要らないと一蹴したガルバーの首を刎ねる気分で・・・・・・・・


 「・・・・ヴォルグ」


 ドア越しに公爵様の声が聞こえる。


 来た!!


 きっと小姓である私に作戦内容を伝えるに違いない。


 その作戦内容を私が伝えるんだ。


 嬉々としてドアを開けるが、決して表情には出さない。


 「何用でしょうか?」


 中身など分かり切っている。


 だが、敢えて訊いた。


 「この手紙を将軍に、こちらの手紙をゼナに渡せ」


 予想外の言葉に少し驚くが、手紙を受け取る。


 ゼナ様に手紙を渡すのは解かる。


 しかし、何で将軍に?


 「それから・・・・この指環をタカミ・テツヤに渡してくれ」


 「指環、ですか?」


 公爵様の指環はゼナ様と揃いの品だ。


 それをどうしてタカミ・テツヤとかいう傭兵崩れの男に?


 訊こうと思ったが、命令されたのだから従うしかない。


 「分かりました。では、これを渡し次第、城へ・・・・・・・・」


 「戻って来るな」


 私の言葉を遮り公爵様は厳しい声で言った。


 え?


 戻って来るな?


 そう言ったのか?


 な、何で・・・・?


 私は少し戸惑ったが、直ぐに我を取り戻す。


 「な、何故ですか?!」


 私も一緒に戦います!!


 「そなたが戻って来る間に敵が攻めて来る恐れがある」


 「で、でしたら、私ではない別の者に・・・・・・・・」


 「貴様は、私の何だ?」


 「こ、小姓です」


 小姓の仕事は主人の雑用をこなす事だ。


 つまり・・・・・・・・


 「この仕事も小姓の仕事だ」


 「・・・・私ではない別の者にやらせて下さい」


 私は本音を言った。


 如何に主人の頼みとはいえ・・・・これは聞き入れられない。


 「貴様・・・・私の命令に従えないのか?!」


 公爵様が座っていた椅子を蹴飛ばして立ち上がる。


 「命令だ。手紙と指環を届けろ」


 「・・・・嫌です」


 「この場で殺してやろうか?!」


 剣を引き抜き、公爵様が私に迫る。


 殺気が本物だった。


 わ、私、こ、殺される!!


 「もう一度だけ言う。命令だ。手紙と指環を届けろ」


 さもないと本当に斬られそうだ。


 「わ、分かりました!!」


 私は殺気に負けて手紙と指環を手にして急ぎ、部屋を出て行った。


 そして馬に跨り城を出る。


 一度だけ、城を振り返ると・・・・窓から誰かが見ていた。


 公爵様か?


 公爵様のような気がした。


 誰なのかは最後まで分からなかったが・・・それが公爵様を見た最後だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ