痩せて禿げた王子様
どうも皆さま。
ドラキュラです。
傭兵の国盗り物語という長編を書き続けてから既に数年も経過し、今年は月の姫と英雄たちや新・鍵屋の辻の決闘など2作ほど長期停滞している身ですが・・・・以前に投稿し諸事情から削除された短編集を改めて投降し直したいと思います。
ただ、こちらは短編集であるので更新は不定期となりますので御了承ください。
突然だけど「眠り姫」って知ってる?
話の内容は魔女によって眠る事になった姫が王子のキスで目覚める話。
子供の頃は私も寝ていたらきっと王子様が来てくれるって思っていたわ。
まぁ、そんなものあくまで絵本の中と諦めていたけど・・・違っていたのよね。
これが・・・・・・・・
「・・・・起きろ。朝だ」
私はシーツ越しに揺さ振られて目を覚ましたけど、眼は閉じてわざと寝ている振りをした。
だって眠り姫は王子様のキスで目覚めるんだから。
「おい、起きろ。起きんか。朝だぞ」
「んんっ・・・・・」
敢えて私は揺さ振る腕から逃れて寝返りを打った。
「・・・起きんかっ」
早くも痺れを切らした私の王子様に私は嘆息した。
何でこうも短気な王子様なんだろう・・・・・・
でも、それは最初だけ。
「・・・・・・」
揺さ振るのを止めた手は寝返りを打った私を自分の方へと向かせると・・・・・・・・・
チュッ
唇に温かい感覚が来る。
「んっ・・・・・・・・」
私は薄らと眼を開けた。
「やっと起きたか。馬鹿ものが」
目覚めた私に馬鹿ものと呼ぶ人物は私より20も年上の男。
骨と皮で構成された身体に頭は寂しい限りで外見は最悪と言って良いでしょうね。
おまけに癇癪持ちで我儘だし意外と嫉妬深い。
でも、私には彼が・・・眠り姫に出て来る王子様なの。
趣味が悪いと言うでしょうけど、優しい所もあるし家族サービスも良いのよ?
まぁ、私がある程度は「仕込んだ」けど・・・・お陰で他の牝共にまで好かれるから気に食わないわ。
もっともこの男が浮気なんてしないってのは知ってるけど。
「ほら起きろ。朝飯は出来ているぞ」
「持って来て」
「馬鹿を申すな。病人じゃないだろ」
「だって今日は休みでしょ?」
「そうだ。だから、朝飯を作り掃除をしたんだ」
洗濯も干したと王子様は言った。
「だったら良いじゃない」
昨日は王子様に可愛がられて腰が動かないの。
「・・・・待ってろ」
これを聞いた王子様は背を向けてドアから出て行った。
私は王子様が居なくなってから笑顔になった。
「クスッ・・・・本当に優しいんだから」
ああ見えてちゃんと持って来るのが優しい証拠。
今日は休みだしどうやって過ごそうかしら?
2人切りで一日中、家に籠るのも悪くないけど外に出て散歩するのも良いわね。
「何を一人でニヤケている」
あら、もう来たんだ。
王子様は盆に載せた料理をベッドの直ぐ近くのテーブルに置いた。
「後は自分で食え」
そう言ってまた背を向ける王子様の服を私は掴んだ。
「食べさせてよ」
「貴様は赤ん坊か!!」
「怒鳴らないでよ。そんなんじゃ将来・・・父親になった時困るわよ?」
「ま、まさか・・・・で、出来たのか?」
「まだよ。もしかして欲しいの?」
「ッ悪いか!!」
唾を吐きながら王子様は怒り出した。
でも、直ぐに怒るのを止めて腰を降ろした。
それからスプーンで料理を掬うと私の口に運んでくれた。
「まったく何て我儘な女だ」
ブツブツと文句を垂れながらも王子様は私の口へ運んでくれる。
「ほら口を開けろ」
「あーん」
私は口を大きく開けて料理を食べた。
「どうだ?美味いか」
高圧的な態度で訊ねてくる王子様に私は頷いた。
それからも王子様は私に食べさせてくれた。
「食器を洗って来る」
王子様は盆を持ってまた部屋を出て行った。
一人になった私は天井を見ながら右手を掲げた。
右手の薬指には・・・金色に輝く指輪が嵌めてある。
これを嵌めたのは五大陸が統一されてから直ぐの事。
私の王子様もあの戦いには参加した。
もちろん兵としてではなく外交官として、ね。
とはいえ話によれば弾丸が当たって重傷を負ったのにその場で怒鳴り散らして怯む味方を鼓舞したと聞いている。
お陰で牝共が心時めいてしまったわ。
勝利の宴の時なんて・・・・思い出すだけでも胸糞悪いほどモテモテだったんだから。
それから直ぐに私はこれを渡された。
その時の言葉は今でも忘れない・・・・・・・・
『そなたみたいな女など誰も娶らん。故に私が娶ってやる。有り難く私の妻になれ』
何とも・・・・こんな高圧的な求婚の言葉があるのと呆れ果てたわ。
でも、それは最初だけ。
後の言葉は・・・・・・・・・・・
『私は・・・・そなたの事が、・・・・その、何だ・・・・あ、あ、あ、・・・・愛している・・・私のような男ではそなたの夫など名前倒れかもしれん。だ、だが、そなたを・・・幸せにしてみせる。いや・・・そなたと一緒に幸せな家庭を築き上げたいのだ。私の・・・生涯を共に生きてくれ。頼む』
って・・・・こう言われちゃったの。
いやー今思い出すだけでも感激するわ。
あんな言葉を言われたんだもの。
女なら誰だって喜ぶでしょ?
好きな男から言われたんだから。
で話を戻すと・・・・結婚したのよね。
場所は新しい都・・・・まぁ前の王都と言えば良いかしら?
ヴァイガーで挙式したわ。
新しい国王様達などが立会人となって大司教様が司会を務めた。
そして私と王子様は晴れて夫婦となったわ。
とはいっても私が強引にあいつを捕まえて同棲を始めたからアツアツでも何でも無い。
でも、幸せだし新鮮なのよね。
あーあ、何だかまた眠くなってきちゃった。
また寝ようかな?
そうすれば・・・・また王子様がキスをしてくれるんだから。
眼を閉じると直ぐに眠れた。
知っている?
眠り姫は王子の口付けで目を覚ますのよ?
私の王子様は骨と皮で構成されて癇癪持ちな上に髪の毛がお寂しいという酷過ぎる上に老けた王子。
でも、そんな王子が私は好きなのよね・・・・・・・・
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「食べたらまた寝るか・・・・・・」
私は食器を洗い終えて部屋に戻って見るとベッドではスヤスヤと眠る・・・・妻が居た。
結婚する前から決めていた事がある。
日によって食事や掃除などをやる。
やらないと罰を与える。
宰相である私にこんな事をさせるのは目の前で眠るこの女ぐらいだ。
「まったく。赤ん坊じゃあるまい・・・・・・・・」
起きたら食べて寝る。
いや、赤ん坊でも動くか。
それなのにこの女と来たらベッドから動かない。
幾ら仕事が休みとは言え・・・・・まぁ良い。
私はベッドに近付いて椅子を引き腰を降ろした。
今日は仕事が無い。
どう過ごそうかと迷っていたが・・・・・・・・・
「そなたの寝顔を拝見するとしよう」
ベッドで眠る妻はまるで赤ん坊のように無邪気だ。
日頃からこれくらい無邪気なら・・・・いや、駄目だな。
これだけ無邪気では他の男共に奪われてしまう。
この無邪気は・・・私だけが独占するのだ。
まったく私のような男の何処に貴様は惚れたのだ?
私など骨と皮しか無い身体だし髪の毛だって・・・育毛剤を付けているのに効果が得られない頭だ。
その上癇癪持ちで歳も離れている。
唯一あるとすれば・・・・宰相の地位位だ。
だが、この女から言わせれば宰相だろうが関係ない、と言うだろうな。
「そなたほど酔狂な女は居ない」
私が死ぬと言えば、自分も死ぬと言った女だ。
本当に酔狂な女だ。
しかし・・・愛おしい。
この女を妻に出来た事は私の誇りだ。
妻の髪を撫でながら右手に嵌められた指輪を見る。
私が初めて渡した物。
まったく飾り気のない指環で新しいのに変えると言ってみたが断固として断った。
『あんたから貰った物よ。初めての、ね』
そんな物を変える訳ないと言われた時・・・・嬉しかった。
普段は傲慢で直ぐに手が出るし毒を吐く妻だが・・・・今は可愛い。
「今日はそなたの寝顔を見るだけで十分だな」
私は日が落ちるまでずっと妻の寝顔を見続けた。