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動かぬ心、動かせぬ足

作者: 愛石世界

心が何より痛むのは、何も言わずにそっと身を引く人の後ろ姿を見てしまったとき。

例えば自分がああやって立ち去ったとき、誰かは気付いてくれるのだろうか。

何も言いたいことが無かった訳が無い。

全ての言葉を押し殺してその残り香さえ誰にも気取られない様にただ独り踵を返す。

気付けよ、俺はここにいたのに、俺はこう思っていたのに、俺は、俺は、俺は。

何か言うことはないのか、ほらこの傷、見ろよ!

痛いんだ、こんなに…ほら…こんなに深くえぐれているんだ。お前らにとってはかすり傷をつけた程度にも思っていないんだろう?

加害者は被害者にも気付かないんだろう?

そんな人間がいることすら、知らないんだろう。知らないふりをするんだろう。

誰か一人くらい気付けよ…お前らの目は腐り落ちてるのか。

でもそんなことを言えば面倒くさがられ、腫れ物扱いされ、分かり易い気の遣われ方をされて、はやくいなくなれよ、と笑いながら胸の内で罵られるのだろう。

それなら、そんな惨めな思いをするくらいなら黙って消えてやるさ。

俺は、俺は、ここにいたけれど。

楽しい思い出だけで留めてくれればいいさ、そうすればお前達は嫌な思い一つせずに変わらぬ日々を過ごすのだろう。

僕はこの消えぬ傷をお前達のしたように、知らないふりをするからさ。


そんな後ろ姿を見たとき、何が出来る?

その苦しみを垣間見たその時、俺はどちらを選べばいいのだろう。

自分で創り出した輪を乱して彼を追えばいいのか、彼を犠牲に平穏に身を委ねるのか。


どちらも護ろうとする俺は傲慢なのだろうか。

何かを失ってでも取り戻す価値のある人間を、引き留めることは俺の我儘になるのかな。

選別を、しようと思えば出来るこの世界で

敢えてせずに生きてきた。

それはただの逃げだった。

でもこの瞬間にそんなことで迷ってなんかいられない。

彼の後ろ姿に心が痛んだのは、涙が溢れて止まらないのは、これからの自分のすべき行動を物語っているのだろう?

だからこの足を止めさせないで、例え今まで通りにいられなかったとしても。

結果を生み出してしまった自分のなすべきことだ。


自分に都合のいい、居心地のいい場所ばかりつくりあげて、泣く人をうんでしまった。

本当に、本当に、クズ。

なにをしてるんだ、自分は。

ごめんなさい。

本当にごめんなさい。

苦しめてしまって、ごめんなさい。


お願い、お願い、行かないで。

その傷を持ったまま、行かないで。

それは貴方を一生苦しめてしまう。

ごめんなさい。


なんで、何度も同じ事を。

自分が一番辛かった、悲しかった、苦しかった、痛かった、嫌だった、それを

友人にしてしまった。

失敗だ、俺は間違えた。


ごめんなさい。


哭く夜に季節外れの鈴虫は凛々と。


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