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断星戦記  作者: 深波あきら
ユキハの章
7/9

-ジャンク-

●現状

・ユキハ:黒い長髪の少女。傭兵部隊所属。少尉。現在、脱出中。

・他隊員7名も同時に捕虜となったが、現在、ユキハと合流し、脱出中。

・アレクシス:金髪碧眼の白人の青年。聖楓国中尉。現在、ユキハの捕虜。


 音速を遙かに超える速度まで加速された砲弾が、空気を切り裂く。甲高い音がドップラー効果で音程を一瞬のうちに変え、そして轟音とともに建物を破壊していく。

 電磁投射式の戦車砲は、砲弾の重量と速度の威力で破壊するもので、炸薬を積んだものはなく、地球の戦争のような爆発音は、ほとんどない。だが、空気を切り裂く衝撃波だけでも、通常の窓ガラス程度なら割ってしまう威力となる。


「耳当てだけでもほしいわねっ!」


 基地の北側の壁沿いを走りながら、ユキハは、つぶやいた。

 ユキハたちが進む道は、北側を高く頑丈な煉瓦の壁があり、南側には、様々な建物が建ち並んでいる幅3mほどの道である。

 黒原の大地と丘陵地帯の境ということもあり、道は、全体的に灰色をした土だ。


「くっっ!」


 ユキハは、左手に小銃を持ったまま、右手で右耳だけ押さえながら、東に走っていたが、時折激しい轟音が容赦なく襲ってきた。

 戦闘は、基地の東西から、基地を挟んで行われており、砲弾が行き交っているのは、主に、基地の南側である。ユキハたちのいる北側の壁沿いに着弾するものはなかったが、それでも、砲弾がやや北側を通ったときに、激しい衝撃波が襲ってくるのだ。

 今のところ、鼓膜が破れるほど近くを通る砲弾はなかったが、戦況が変われば、北側に砲撃がいつ来てもおかしくはない。ヘッドフォンタイプの耳当てか、耳当てつきのヘルメットがほしかった。


「あそこから出られる! 全員、走れ!」


 ユキハたちの前方、7~80mぐらいのところに、開いたままの門が見えた。北方向への基地からの出口なのだろう、車2台がすれ違えるぐらいの幅の鉄門で、基地を放棄したときに開けられたままだったのだろう。すでに門衛もいなかった。


「隊長! 右前方にトラックが見えます!」


 黒く長い髪を後ろにひとつにまとめた隊員が、門よりも先、倉庫のような建物の影にあるトラックを指さした。

 切れ長の目が特徴的な彼女は、通称シズ。ユキハと同じ1号車に搭乗していた砲撃手で、視力がいい。


「シズ、どういけそう?」


 門まで50mほどまで来たが、トラックまでは、さらにそこから100mほど。トラックが動けばいいが、放棄された故障車だったら、往復200m、余分に走ることになり、それだけリスクがある。


「わかりません。ここからでは、大きな損傷があるようには見えませんが・・・」


 シズは、そう言いながら、少し前を走っているアレクシス中尉を見た。彼は、ユキハのすぐ前を両耳を押さえて走らされていた。もちろん、ユキハの指示で。


「中尉!」


 ユキハは、中尉の横に並んで、砲音に負けない程度の音量で呼びかける。


「んー? 何かな?」


 アレクシス中尉が走りながら横を見る。


「あの、前のトラックは、動かせる?」


「あー、無理じゃないかな。(はあ、はあっ)。あそこは、整備倉庫、(はぁ、はぁ)、だから、動かせるのは、もう全部動かした、(はあ、はあっ)はず、(はあ、はあっ)だよ」


 体力の少ないアレクシス中尉は、息を切らせながら答える。走るペースが落ちてきた。


「ああ、修理すれば(はあ、はあっ)動くのが、(はあ、はあっ)残ってるかも、しれないけど、(はぁ、はぁ)、わからない(はあ、はあっ)」


 苦しそうに息を大きくしながらも、一応、足は止めていない。ペースも落ちていて、疲労を隠せていないが、なぜか笑顔を崩していなかった。


(やっぱり体力なさすぎる。先生っていうのは、まだわからないけど、少なくとも兵士の訓練を受けた体力じゃないわね)


 ユキハは、アレクシス中尉を観察しつつ、トラックに向かうか、すぐに門から出るか思案した。


 ユキハたちがいる基地は、黒原の大地の北東のだいたい角付近にあたり、基地の北と東は、丘陵地帯である。丘陵地帯は、もともとは黒原の大地と同じ黒い炭で覆われていたが、長い年月、この付近の雨期の豪雨に洗われ、元々の土壌が顔を出したもの。ところどころ雨に流されない場所や日陰になっている場所にコケが生えているが、このあたりは、まだ木々はほとんど見られない。

 上空から見ることができれば、黒茶色の小さな丘が連続したデコボコな地形である。整備された道路はなく、雨期になれば雨水の通り道となる谷間を、蛇行しながら60kmほど北上すれば、放置された森林地帯にたどり着き、そこからは、小さな村々が点在し、舗装されていないが一応整備された道に出ることが出来る。


(もし、車がなければ、丘陵地帯を少なくとも60km北上、蛇行してるし、3日はかかるか)


 行軍用の装備も食料すらない状況で、3日も徒歩で北上するのは、いくら兵士として訓練されている傭兵とはいえ、不可能だ。森の中とかなら、食料を確保することもできるだろうが、ほとんど禿げ山みたいな丘陵地では、無理だった。


「とはいえ、東は敵だし、西は、やめておきたい・・・」


 つぶやく声は、砲弾の音にかすんで消える。


 ユキハは、この体力のない白人美男子のアレクシス中尉を、味方軍に引き渡したくなかった。


(王子様だからね)


 王子というのは、通称でしかなく、直接的な権力や権限があるわけではない。だが、この断星の大陸では、地球時代の技術の伝道師として、各国で重宝されている。


「あんたは、整備できない? 王子様」


「あー(はあっはあっ)どう、かな(はぁ、はぁ)。機械が、専門じゃ(はあ、はぁ、はぁ)ないから、難しいかなっ」


 すでに、息切れしているアレクシス中尉が答える。

 ペースは、もう早歩きぐらいまで落ちていた。


「しっかりしなさい」


 ユキハは、強めの口調で、でも仕方ないなぁと、二の腕あたりをつかむと、引っ張り始めた。


 門まで10mほど。すぐのところまで来ていた。


「みんな、いったん門から敷地外へ。状況確認!」


 ユキハ以外の隊員は、すばやく鉄門に走っていく。全員まだまだ体力は問題なさそうだ。


「隊長! 門から見える範囲には、誰も見えません!」


 シズが、砲音に負けない声量で報告してきた。


「サユエ、ヒビキ、イツナ! 整備倉庫までいくわ! ついてきて! シズ、この小銃を任せるから、ここでこいつを見張ってて。残りは、シズとともに、この門の外側で周辺警戒!」


 サユエは、丸めがねのショートカットの黒髪。ヒビキは、ショートボブのそばかすがある素朴な印象の少女で、ふたりとも17才である。そして、イツナは、あと1ヶ月で20才となる19才。茶色っぽい天然パーマで、ほどよく焼けた小麦色の肌と、けだるそうな表情が特徴の女性だ。3人とも、それほど高くない鼻が日本人らしい顔立ちであるが、訓練によって鍛えられており、ほどよく引き締まっていて、化粧っ気がまったくなくても不細工ではない。

 一方、シズは、18才で、同じく化粧をしていないものの、目鼻立ちが整った和風の美人だ。少し日に焼けた肌が健康的な印象となり、出るところがしっかり出ているのに、日頃の訓練でほどよく引き締まったプロポーションがうらやましい美少女である。


「門周辺、誰もいません!」


 鉄門にたどり着いたシズら3人の部下隊員のひとりが大声で報告してきた。周辺に人がいないし、砲音は相変わらず響き渡っているから、問題はないだろうが、逃亡中ということを考えれば、大声で報告すべきではない。だが、扉までたどり着いたことで、気が緩んできたのかもしれない。


(引き締めていかないといけないわね。砲音の緊張で麻痺してきたのかもしれない)


 門の鉄扉を背に周囲を見渡す3名を見ながら、ユキハは、気を引き締めなおして、ついてくるように指示した3名を改めて見渡す。

 3名は、ユキハの後方にそろっていた。サユエが元1号車の装填手で、ヒビキが元1号車操縦手、そして、イツナは、元3号車装填手である。

 傭兵の戦車乗りは、全員、一定レベルの操縦技術も整備技術も訓練しているが、ユキハの傭兵部隊所属の第2298軽戦車小隊では、装填手に、より整備能力が高いメンバーが配置されている。整備士ほどの整備力があるわけではないが、この8名の中では、一番、故障車に対応できる可能性はあった。

 ヒビキは、動く車両があれば、操縦手――運転手になってもらう予定だ。


『はい!』


 全員が声をそろえて返事をした。

 ユキハは、門にいるシズのことまで、アレクシス中尉をひっぱていくと、左手の小銃を渡す。


「これをお願い――あと・・・」


 顔をシズの耳元にちかづけて、小声で話す。砲音で他のメンバーや隣にいるアレクシス中尉にも聞こえないだろう。


(絶対に、中尉は、殺さないように。逃げようとしたら、殴ってもいいけど、撃っちゃだめよ)


 シズは、なぜか顔が真っ赤になっていたが、コクコクと素早くうなずいた。


 この大陸では、地球以上に、同性愛が禁忌とされており、ほとんど同性愛の作品はなく、知識も少ない。人類の子孫を残す必要がある大陸では、同性愛を嫌悪する風潮が、社会的に形成されていた。

 だが、個人の趣味や性癖は、秘匿されつつも、性同一性障害という事情もあるため、この断星の大陸でも残っている。

 シズは、性同一性障害ではないし、そういう性癖でもないのだが、傭兵部隊で隊長を任されるほどの実力を持っているユキハを尊敬しており、耳元でささやかれると、動悸が自然と速くなったのであった。


「じゃあ、いくわよ!」


 一声かけると、できるだけ体勢を低くして走り出す。

 足手まといだったアレクシス中尉と、唯一の装備だった小銃を手放して身軽となったので、ほぼ全力疾走である。


 ある程度しっかり踏み固められた土の道である。身軽な状態なら、100m走るのに10数秒。耳を押さえてという走り方でも20秒とはかからない。

 すぐに、放置されているトラックに近づく。

 トラックは、黒に近い深緑色で、6輪の軍用トラックで、荷台に同じ深緑色の幌付き。

 ガソリンのないこの星であり、もちろん、ガソリン車ではなく、電動車だ。軍用ということもあり、モーターが6輪全てについた6輪駆動車だが、見るからにオンボロで、ところどころにサビが見られた。


「・・・だめね」


 ユキハは、一目見ただけで、首を振った。

 タイヤが全てナイフか何かで切り裂かれていたのである。この基地を放棄する時に、敵軍に利用されないために行ったのだろう。

 それに、確認してはいないが、タイヤ交換しても、撤退時に使わなかったということは、すぐに動かせないぐらいに壊れているのだろう。


「サユエ、トラックを確認! 周囲を警戒。イツナは、倉庫の中に動かせる車両がないか、確認して!」


 無理だろうが、一応、サユエにトラックを確認するように指示して、もうひとりの整備能力があるイツナとともに、整備倉庫の中に入る。


 入り口は、大きな引き戸式の鉄扉で、すでに半分開いた状態だった。

 倉庫の中に踏み込むと、合成オイルの匂いが鼻をつき、がれきが散乱している。

 中は、移動式クレーンが4基ある大型の整備倉庫で、幅40mぐらいで、奥行きは80mぐらいだろうか。

 そして、高い天井は、半分以上が崩壊し、空が見えていた。


 ぱっとみて3両の整備中の戦車が放置されていた。

 ひとつは、一番手前のクレーンに、砲塔部分がつり下げられたまま。クレーンが砲撃か天井が崩れた影響でゆがみ、つり下げられた砲塔が斜めになってしまっている。

 もう1両は、完全に多きな天井のがれきに埋もれていて、もう1両は、右手の壁際に、完全な形で残っている。


「イツナ、右手の1両を確認して!」


「りょうかーい」


 イツナは、軽い口調で、右側の壁に走って行く。


 ユキハは、振り返ると、トラックを確認しているサユエを一瞬目をやる。

 まだ時間がかかりそうだったので、周辺警戒させていたヒビキを使うことにした。


「ヒビキ、倉庫内部の確認! 警戒しつつ、使えそうなものを探して」


「はい!」


 ユキハは、クレーンに砲塔がつり下げられて、車体下部しかない車両に近づく。ダメで元々だった。


(えーと、重戦車LDMM-3-36、か)


 車体の砲塔がなく、まるでオープンカーみたいに上から中が見える状態だった。

 聖楓(せいふう)国は、アメリカ風のアルファベットの型式番号を使う。英語がわからないユキハでも、アルファベットを読む程度の知識は、あった。


(車体下部は、問題なさそう。だけど、砲塔は、無理ね)


 ワイヤーが一本切れ、さらに、移動式の天井つり下げ型のクレーン自体も、ゆがんでしまっていて、つり下げられている砲塔部分は、完全に斜めになっている。

 クレーンは、もう動かないだろうし、仮に故障してなくても、砲塔を元の車両にくっつけのに、大型クレーンか何かの重機が必要だろう。


「隊長!」


 ユキハの後ろから、声がかかる。サユエだった。


「トラックは、確認しましたが、エネルギーパックがありませんでした。サビの状態から、長い間、エネルギーパック自体外されたままだったようです」


「そう、いいわ。じゃあ、サユエは、これ、見てて」


 ユキハは、それまで見ていて、車体下部しかない重戦車LDMMを指さした。


「砲塔は無理だけど、最悪、これでも移動できるかもしれない」


「はい、そ、そうですね」


 サユエは、丸い大きなメガネをクイッと上げ、車体後部にとりついていく。


(残り2両・・・、動けばいいんだけど)


 放置されたトラックのタイヤをパンクさせていく程度の余裕が、この基地の兵士たちには、少なくともあったということであり、とてもすぐに動かせる戦車をそのまま置いておくとは思えない。

 だが、徒歩で食料も装備もなく丘陵地帯を行軍するというのは、無謀すぎた。


(食料でもあればいいんだけど)


 ふと、前を見ると、イツナが右手の戦車のハッチを開けていた。他の状態が状態だけに、少なくとも形状だけは、普通の戦車の姿を保ったこの戦車が動けば、問題は一応クリアできる。


 ユキハは、右の壁際にのこる戦車に駆け寄った。


 LDMM-2-84。少し古いタイプの中戦車だが、最も多く配備されていて、聖楓国の戦線を支える名車だ。他国の中戦車よりも搭載する電磁投射砲の威力が弱いものの、最大の特徴は、分厚い頑丈な装甲と、簡素化された操縦システムで、誰でも操縦できる汎用性の高さがウリであった。


(その名戦車が、そのまま残されているのは、なぜ?)


 身軽に車体を上ると、イツナが開けたハッチをのぞき込む。


「どう? 動きそう?」


 イツナは、操縦席に腰をかけている。まだ始動スイッチは入れていない。


「・・・うーん、どうも、おかしいです」


 ユキハは、車内に滑り込むように入った。


「何が?」


「エネルギー残量は、フルに近いんですが、動力がうまく伝わってないっぽいですね~」


 イツナは、操縦席で、計器の確認や、計器の下側をのぞき込みながら、首をかしげている。


「故障?」


「んー、故障っていえば故障なんでしょうが・・・車内の明かりは入るし、計器のランプも正常なんですが・・・」


 イツナは、操縦席を離れると、車内後方に向かう。ボルト止めされた板を、スパナを使って開け始めている。スパナは、この車両に乗り込む前に、倉庫の中で見つけておいたものだった。


「もしかしたら!」


 何かに気づいたかのように、声を上げた。その声に、ユキハは、いやな予感が頭をよぎる。

 後方の整備版を開けると、エネルギーパックを確認するイツナ。


「やばいです! トラップですよ、これ! 動力につながらず、エネルギーがループするように組まれてます!」


 イツナは、エネルギーパックからモーターに電力が供給されず、エネルギーパック数個分がひとつのパックに集中するようになっていることがわかった。

 エネルギーパックは、駆動だけでなく砲弾に高電圧をかけて電磁力で砲弾を飛ばす仕組みである。それらを一気にエネルギーパックひとつに注ぎ込めば、高い耐久性のあるエネルギーパックといえども、耐えられない。エネルギーがループするように仕組まれている以上、始動すれば確実に爆発するだろう。


「! まずい!」


 ハッチから、急いで周囲を見渡す。


 サユエは、後方で車体内部に入っている。もうひとり、ヒビキの姿が見えない。


 このとき、ヒビキは、がれきに埋もれた戦車の車内にいた。トラップがしかけられていた壁際の中戦車と同型のLDMM―2―84。倉庫の中央部で、天井からのがれきに埋もれていたが、ヒビキは、がれきを一部、なんとか足で蹴り落とし、車体のハッチを開けることに成功していた。

 操縦手のヒビキには、ひと目見て、計器が一見正常で、エネルギーも満タンであることがわかると、始動スイッチを入れてしまった。


 そして、閃光が音を消す。

 一瞬で高まったエネルギーは、一気に高電圧が車体を走り、爆発したのだ。


 ユキハは、反射的にハッチの中にしゃがみ込む。

 彼女が飛び込んだ車内には、ドンという鈍い音が響き渡り、そして、金属片やがれきの一部が高速で飛び、戦車の車体にあたって、甲高い音が、カンカンカンカンと何度も音を立てる。

 最後に、ドスンという、鈍い音。砲撃でもろくなっていた壁の一部がさらに崩れ落ちた音だ。


「サユエ! ヒビキ!」


 金属片が舞う音が止むと同時に、ユキハは、ハッチを飛び出した。粉塵がまっていて、呼吸がしづらいが、気にしていられない。


「無事なら返事をして!」


 大声で何度も叫ぶ。


「はい~、サユエは、無事です~」


 後方の重戦車からサユエが声を上げた。ユキハは、一瞬安堵すると、ふたたび大声を張り上げる。


「ヒビキ! ヒビキ!」


 戦車から飛び降り、爆発したと思われる倉庫中央の戦車に走って行く。


 すでに、原型をとどめていない戦車。砲塔が無理矢理引きはがされ、車体後方から大きくひん曲がっていた。車体下部は、強烈な力で引きちぎったかのように裂け、爆発のすさまじさを物語っている。


 ユキハは、残骸となった戦車に駆け寄った。

 いまだ、高電圧を浴びて熱を帯びた車体から、いろいろなものが焼けた酷い臭いがする。


 引き裂かれた砲塔の隙間からのぞき込むが、内部は暗くてよく見えない。だが、わずか差し込む光が照らす先に、あきらかに人のものと思われる頭髪と血肉の一部が見えてしまった。


 あのとき、ヒビキは、一瞬にして、後方から高電圧を受け、感電死していた。その直後、多数の金属片が体を引き裂いたが、苦しむことはなかっただろう。


 だが、ユキハは、激しい吐き気に襲われると同時に、体中の力が抜け、ぺしゃりと、その場に座り込んでしまう。


 頭の中を声にならない声が駆け巡る。

「怖い」「苦しい」「嘆き」「悲しみ」「指示」「間違い」「責任」「油断」。


 断片的な単語がユキハの中を駆け巡る。

 理解が追いつかなかったが、ユキハにはわかっていた。


(油断した・・・気が緩んでいたのは、わたしだ! 部下を殺したのは、わたしの責任だ!)


 右手を床にたたきつけた。硬い床であり、ユキハの右手は、軽い打撲を負ったが、痺れるような感覚だけで痛みをまるで感じなかった。


 嗚咽は、砲音の中に溶けていく。

 ユキハは、駆け寄ってくる、サユエとイツナを茫然自失の表情で迎えた。



 こうして、ユキハは、初めて、部下を失ったのだった。


●公開可能情報

 各国は、“王都”より、地球時代の技術が提供されている。各国毎に、文化度が設定され、それに応じて、提供される技術情報のレベルが変わってくる。

 文化度の指標になるのは、技術・生産力・教育・文化・芸術・民度・安定度の7項目。

 技術は、工業技術や医療技術などから戦術などまで含む幅広い指標となる。特に、提供された技術を独自に進化発展させたり独自技術を開発したときに、高評価となる。

 生産力は、食料生産・工業生産の2項目。国民総生産に近いが、同じ計算方法ではない。

 教育は、各国の教育水準を指標化したもの。

 芸術は、人動(ダンス・スポーツなど人が動く芸術)、人静(激しい動きのない人の芸術)、声楽、演奏、演劇、文芸、絵画、静物の8項目。

 民度は、国民の倫理観や生活など。犯罪率などで下がり、女王法のペナルティ項目でもある。

 安定度は、平和度ともいえ、安定した市民生活を提供する国が高くなり、戦争などが起こり、生活基盤が破壊されると下がる。

 各国は、地球時代の技術を得て、国力を高めるために、独自の技術を高めるだけでなく、文化・芸術などにも気を配る必要があるのだ。

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