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断星戦記  作者: 深波あきら
ユキハの章
4/9

-砲撃の中-

●現状

・ユキハ:黒い長髪の少女。傭兵部隊所属。少尉。現在、捕虜。

・他隊員7名も同時に捕虜となったが、以降の安否は不明。

『着弾、来ます!』


 スピーカーの女性の声の直後、空気を切り裂く衝撃波をともなう轟音とともに、質量弾が着弾した。


 建物全体が激しく揺れ、どこか近くで激しい破壊音がとどろく。


「くっ!」


 ユキハは、その場でしゃがむ。長い黒髪が激しくはねた。

 彼女には、この部屋がどこにあるのかわからない。砲弾の直撃を受ける場所にあるかもしれない。


「司令室! 敵の規模は!」


 金髪の中尉が無線機のマイクに向かって叫んでいる。正面からは見えないが、腰に小型無線機をつけているのだろう。右手に持ったマイクまで背中からコードが伸びていた。

 左手は、耳に当てられている。イヤホンがあるのだろうが、立て続けに撃ち込まれる砲弾と破壊音に聞き取りにくそうだ。


 ちなみに、この断星の大陸では、ほとんど硝石が採掘されず、火薬類・火気兵器は、すでに伝説の中にしか存在しない。

 この大陸での砲撃は、一定の質量のある金属(主に鉄)を、電磁力で高速に撃ち出す電磁投射砲である(圧縮ガスなどを補助的に使うことも多いが、主動力は電磁力)。

 長距離砲は、その中でも、1kg以上の金属を山なりに飛ばすもので、その重量と速度で対象物を破壊する兵器だ。

 爆弾ではないので、着弾後に爆発することはなく、広範囲の破壊はできないが、分厚い鉄板を貫通し、破片をまき散らすほどの破壊力を持つ。


「・・・威力偵察ではなく、本格的な攻勢なのか? 全部隊出動、準備が出来た部隊から迎撃を!」


 金髪の士官――アレクシス中尉は、轟音に負けないように叫ぶ。

 すでに、捕虜のユキハがいることは、彼の意識の中から消えてしまったかのようで、無線に指示を飛ばし続ける。


(チャンス、なんだろうけど、これじゃ、わたしの命も危ないわね)


 ユキハは、しゃがんだまま、扉側に少しずつ移動する。砲弾が着弾する方角はわからないが、少なくとも入ってきた扉の方角には、廊下の分、壁が複数あるのは確実だ。


(もちろん、逃げられるタイミングがあれば・・・)


 捕虜用の服装ではあるが、手錠はすでになく、拘束もされていない。部屋にいる士官も兵士も、全員が対応に追われていて、ユキハへの注意は散漫になっていた。

 ただ、闇雲に飛び出しても、逃げる方向すらわからない上、下手をすると砲撃の巻き添えだろう。


(それに、まだ、部下は、牢屋の中だろうし。なんとか逃がす方法はないかな)


 尋問が行われようとしていたこの部屋に部下隊員がいなかった以上、複数の部屋で同時に尋問が行われているとは、考えにくい。

 そのまま、鋼鉄の扉の中にいると考えるのがいいだろう。


 と、そのときだった。

 鼓膜を突き破りそうな轟音とともに、今までとは比べものにならない激しい衝撃が、ユキハを襲った。


「くぅっっ!!」


 悲鳴を上げないように歯を食いしばる。とっさに、耳に腕をあてて塞ぎながら後頭部まで手を伸ばしてガードし、頭をできるだけ低くし、小さくかがむ。訓練で染みついた耐ショック姿勢だ。


 衝撃波は来ない。部屋への直撃でなかった。

 どうやら、きわめて違い場所に砲弾が着弾したようだった。


(中距離用の高速投射砲、戦車砲だわ)


 さっきまでの長距離砲ではない特徴的な砲弾の着弾音は、戦車部隊に配属されているユキハにはなじみのもの。1kg未満の砲弾を直線的に撃ち出す中距離砲で、戦車の主砲として採用されているものだ。


 長距離砲は、通常、地面に足を固定して使用する巨大な砲で、15km以上の射程を持つものをいう。戦車に搭載しようとすると、とんでもない大きさの車体が必要になってしまう。

 だが、今、着弾したのは、砲弾の重量を低めにした中距離砲で、通常の戦車に搭載されているものだ。


(本格的な戦闘ね。これは、チャンスだし、ピンチだわね)


 長距離砲の斉射の後、すぐに戦車の砲弾が届くのは、確実にユキハたちの味方が本格的な攻勢を行っている証左である。

 虜囚から解放されるチャンスが到来したことも間違いないが、命の危険が非常に高まったことも確かであった、


 ごわごわした捕虜用の囚人服しかなく、砲弾の直撃を受けなくても、着弾の衝撃で飛散する破片や小石ですら命を落としかねない。

 それに、捕虜の殺害は、女王法で禁じられているが、戦闘中の混乱の中でなら、足手まといな上、敵対行動に走る可能性のある捕虜を秘密裏の処分するというのは、十分あり得る事態である。


(むやみに逃げ出すのは、最悪、そのまま殺される。だけど、このままここにいても・・・)


 ユキハは、しゃがんで耳を覆った体勢のまま、いつでも動き出せるように、僅かに左足を後ろに引くと、この部屋で一番偉いと思われる金髪のアレクシス中尉を観察する。


「・・・曹長! ザカリー曹長!」


 金髪が呼びかけると、入り口にいた兵士のひとりが素早く中尉のもとへいく。


「14号棟、15号棟へ伝令、404命令を」

「404で、ありますか? はっ! ただちに14号棟、15号棟へ404命令を伝達します!」


 一瞬、怪訝な表情のあと、敬礼し、答える。振り返り、駆け足に近い早さで部屋を飛び出していった。

 扉の鍵は、すでに開けられていたようだ。


(404は、何かの命令コードね。・・・あの兵士の戸惑った表情は、変な命令みたいね。いやなことにならなければいいんだけど)


 扉が一瞬開くが、まだ兵士も残っているし、外の状況は不明。

 砲撃は、刻一刻と激しさを増してきていた。


「あとは・・・」


 と、金髪の青い目と、観察していたユキハの目があう。

 無意識だったが、にらむようなきつい目で、アレクシス中尉を観察していたのがわかっただろう。


「・・・」


 一瞬、流れる変な沈黙。

 ユキハは、気まずそうな苦笑いを浮かべると、中尉も苦笑する。


「・・・あー、うむ。えーと。私は、もう行かないといけない・・・ユリシーズ一等兵!」


「はっ!」


 ドア前に立っている兵士(ユキハを連れてきた兵士のひとり)が敬礼して返事をした。


「彼女の尋問は、中止。元の捕虜房へ・・・」


(え~っ! 狭い独房だと逃げられないじゃない)


 ユキハは、一瞬、不安に襲われる。


「あー、あそこなら多少の砲撃にも絶えられるだろうし、不慮の事故も少ないだろうから、ね」


 元の~という中尉の言葉に、あまりに不安な表情を浮かべたからだろう、フォローするように説明する。あくまでも顔は兵士に向けたものだったが。


「はっ!」


「ああ、緊急事態だ。すぐに連れて行くように」


「20分歩かされないんだ」

「・・・」


 つい、皮肉が口をつくが、アレクシス中尉は、無言のまま。表情は、苦笑気味の表情だったが。


 兵士がユキハのそばまでくると、手錠をかけようとすると、アレクシス中尉が声をかける。


「緊急事態だ、手錠はいい」


「はっ、ですが・・・」


 戸惑う声を出す兵士。


「もしものためだ。手錠してては、不自由だろう」


 一見、意味が不明だ。もしも逃げようとしたときのために、手錠をかけるのであって、それをしないでいいというのは、変な指示である。

 当然、兵士は戸惑うが、上官の命令。


「はっ。立て」


 手錠も縄もかけずに、兵士が立つように促す。


 ユキハ自身、怪訝な表情を浮かべつつ。


「・・・いいの?」


 いわなくていい質問を、アレクシス中尉に投げかける。

 中尉は、軽くうなずくと、兵士に行くように首を軽くふった。


 兵士は、ドアまで歩くと扉を開ける。


 ユキハは、ドアのほうまで歩くと、ちらりと中尉を振り返った。すでに、彼は背を向けて、無線機に指示を出していた。

 砲撃音と破壊音で何をしゃべっているのかは、不明瞭だった。


 そして、扉をくぐった瞬間。

 部屋に砲弾が直撃。ユキハは、背中から風圧を受けて、前に飛ばされる。


(あれ、飛んでる・・・?)


 スローモーションに世界がまわり、そして、顔面に強い衝撃を感じると、ユキハの意識はなくなった。

●公開可能情報

 断星の大陸には、“王都”が全部で12カ所にあり、それぞれ女王が住む。

 女王は、6000年以上続く女系の一族。王と呼ばれるが、国家の主権者ではなく、地域の統治は行わない。政治や国家間の争いに、直接は関与しない。

 大きな国家になると、複数の“王都”があることもある(支配はできないが、周辺都市部を統治することになる)。

“王都”には、血を保存するという使命とともに、この星を開拓した頃の超文明の知識・技術が保存されているとされており、各国の技術・教育・文化・芸術など総合的に判断した文明度を設定。それに応じた技術を教育者の派遣や情報開示などで提供することになっている。

 唯一、各国に対して、“王都”が女王法を定めている。これには、女性や子供、弱者の人権の保護などが記されている。各国が違反しても、“王都”が直接処罰などをすることはないが、文明度にペナルティが発生する。個人は縛らないが、領内で女性や子供への犯罪が発生すると、その国家の文明度にペナルティが発生するため、各国は、遵守し、取り締まることになる。

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