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魔法少女☆再会

「待ったか?」

「いいえ。私もついさっき来たところよ」


 仕事を早めに終え駆けつけた、行きつけのショートバー。

 俺の方を見て穏やかな微笑を浮かべながら俺の元妻、摩耶は言った。

 こうして対面するのは半年ぶりくらいになる。

 バーテンにドライマティーニを頼むと、俺は摩耶の隣りに腰を下ろした。


「まだそれ飲んでるの?

 いつも美味しくない! って言うのに」

「いいんだよ。

 昔好きだった小説の主人公が飲んでたんだ。俺も憧れるさ」

「変わってないわね、アナタ」

「君だって変ってない」


 俺と同い年の35歳。

 しかし容姿もさることながら童顔で肌が綺麗な摩耶は若く見られる。

 今も20後半の姿にしか見えない。

 いや、それはもしかしたら後遺症なのかもしれない。

 摩耶の元職業を思い出し憂鬱になる。


「そうかしら?

 最近は体力の衰えを感じてきて嫌になるわ」

「俺もだ。つい先日まで筋肉痛だった」


 湿布薬のお世話になり、新城君には顔を顰められた。


「舞香から聞いたわよ。大活躍だったみたいね」

「よせよ。結局何も出来なかった道化さ」

「でもあの娘はベタ褒めしてわよ。「恭介さん凄くカッコ良かったです」って」

「へえ~あの舞香がね。いつか幻滅されそうだが」

「そんなことないわよ。

 あの娘、アナタにぞっこんみたいだから」

「どうだか。まだ父性に甘えたいだけだろ?」

「それならいいんだけど……

 本当のところはどうかしら?」


 クスクスと笑みを浮かべる摩耶。

 俺は苦虫を潰した顔で手元に出されたマティーニを呷る。

 うえ、苦い。


「ねえアナタ……

 一つ、聞いていい?」

「何だ?」

「いったい……いつまで続けるの? 魔法少女」


 摩耶のその問いに俺は正面を見ながら、身体を硬直させた。




「……知っていたのか?」

「それは、ね。経験上。

 色々不審な点もあったし」

「流石は先代。詳しいね」


 苦笑し、肩を竦める。


「茶化さないで。アナタは知っていた筈よ。

 魔法少女が命懸けとなることを。

 傷つき絶望し、死に掛けていた私を救ってくれたアナタなら」

「ああ。そうだな」

「それにアナタはもう理解しているのでしょう?

 確かに彼女たちの活躍は人々に希望をもたらすわ。

 でも反面、魔法少女の存在は因果を歪める。

 絶望を希望に。

 悲しみを笑顔にする時、どうしても本来の摂理を捻じ曲げてしまう。

 彼のモノ達が都合よく歴代魔法少女の近くに現れるのは偶然じゃない。

 世の理が乱れを正そうとする必然なのよ、きっと」

「……確かにそうかもしれない。

 けど、だからと云って、救いを求める人々を見捨てる事は俺には出来ない。

 絶対にな」


 先日救った親子が。

 7年前に救った摩耶と舞香の姿が脳裏を過ぎる。


「そうね……そんなアナタだから、私は……

 アナタを愛したんだものね……」


 哀しそうに笑う摩耶。

 重苦しい雰囲気が舞い落ちる。


「やり直せないか?」

「何度も話したでしょ?

 私といたらアナタは駄目になる。

 アナタは他人の為に全てを投げ出してしまう人だから。

 ……どうして契約してしまったの? その末路を知ってるのに」

「俺が契約しなければ、きっと君か舞香のとこに行くと思った。

 俺のとこに来たのは君と触れ合い、魔力……

 節理を操る意志の力が引き上げられていたからだろう?

 本来は見たい現実を見て具現化する、少女特有の潜在能力だからな。

 それ故に、だよ。

 君や舞香を危険に晒すくらいなら、俺が身を晒す方がいい」

「馬鹿な人……本当に……」


 涙を浮かべ微笑む摩耶。


「それじゃ……頑張ってね、後輩さん」

「ああ。任せてくれ、先輩」


 紙幣を置きスツールから降りる摩耶。


「もう行くのか?」

「ええ。これ以上一緒にいたら、アナタに惚れ直しちゃいそうだもの。

 それは舞香に悪いわ。

 だからさよなら。また会いましょう」

「ああ。また、な」


 片手を上げ、店を出て行く摩耶の後姿を見送る。

 俺は……どこまでも苦い酒を一気に呷り、空になったグラスを見詰めていた。



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