魔法少女☆談笑
「無事だったか、舞香!」
駐車場に駆けつける前。
ショッピングモール内で変質者が暴れているから店員と逃げるようメールで指示し、集合場所に選んだ屋外の大観覧車前。
傷一つない舞香の姿に心底ホッとする。
「…………」
無言で俺を見つめる舞香。
「あっ……
怒って……いるのか?」
そうだよな。
買物の約束は守らず、娘をほったらかし。
急いで来た為、少し生え際が怪しくなってきた髪はぐしゃぐしゃ。
おまけに全身汗だくで薄汚れた俺。
年頃の女の子としては近寄るのも嫌だろう。
だがそんな俺の思いとは裏腹に、舞香は少し眼差しを柔らかくして言った。
「……しゃがんで目をつぶって下さい、恭介さん」
「? ああ」
怒りのビンタか?
まあそれくらいで舞香の機嫌が直るなら安いもんだ。
俺は膝を着き、目を閉じて襲いくるであろう痛みに歯を喰いしばった。
のだが。
チュッ……
と、何か極上のマシュマロみたいに柔らかい感触が頬に触れたのを感じた。
驚きに目を開けると、俺に背を向け後ろ手を組み歩いている舞香の姿が見えた。
「……見てましたから、恭介さんのこと。
見知らぬ親子を命懸けで救う恭介さんは少しだけ……カッコ良かったです」
ツンとした口調で言い放つ舞香。
その耳が真っ赤なのは沈み行く夕陽のせいだろう、きっと。
「さ、約束の水着を買って下さい。
わたし、頑張って選びましたから」
「ああ、当日が楽しみだ」
舞香に追いつき、並んで歩く俺。
そっと無言で腕を絡めてくる舞香。
これが最低で最高な休日の幕切れだった。
「ラブコメかよ!」
「黙れ非生産変態生物」
もちろん俺は駐車場に放置されたまま喚くコメットを、念入りに踏み潰すのを忘れなかったのだった。