魔法少女☆決意
しかしあれだ。
30も半ばとなるおっさんが水着売り場(女性用)に佇むというシュチエーションは贔屓目に見ても怪しい。
ましてや際どいデザインに時折赤面しながらも、終始無言で水着を選ぶ美少女の隣り。
さっきから不審者の挙動を窺うかのような店員の視線が痛い。
周囲の客の囁き声が心を穿つ。
「ちょっと奥様見ました?
何ですの、アレ」
「もしかして性犯罪者かしら?
早めに通報した方がいいかも」
……舞香ちゃん、お父さんは犯罪者予備軍らしいですよ?
重役や大企業相手のプレゼンより胃にクルわ。マジで。
「あ~舞香。
ちょっと時間が掛かる様なら、俺は席を外そうか?」
「……せっかく恭介さんに買ってもらうのに……
恭介さんは、一緒に選んでくれないんですか?」
「ん~それは着てからのお楽しみ、という趣向は如何だろう。
舞香の艶姿を当日披露してもらった方が新鮮さが増すし」
「そういう意見もありますね……
はい、分かりました。
じゃあ少しお待ちいただけますか?
わたしにとって最良のものを頑張って選びます」
納得がいったのか、拳を握り応じる舞香。
何だか間違った方面に頑張ってる気がするが……
まっいいか。
「じゃあスタバで暇潰してるから。
決まったら携帯に連絡をくれ」
「はい。あまりお時間を取らせない様、努力します」
舞香の声に片手をヒラヒラと応じ俺は売り場を出た。
(しかしまあ、最近のジュニア水着は随分大人っぽいのが多いんだな~)
俺はちらりと舞香が手にしていた水着を思い出し困惑する。
(あんなアダルトな水着を着た舞香を野獣共に見せていいのか?)
絶対発情するに違いない。
俺は襲い来る野獣をいかに排斥すべきか策を練っていた時、
「ふあははははははははっはあっははあ!」
という、ヤツら特有の馬鹿笑い声が広いジャ○コに響き渡った。
「なん……だと……」
俺は演技でなく心底驚愕した呟きを洩らす。
今までの(番組)パターンから1日に2回も敵が現れる事はなかった。
それ故、朝の敵にほぼ全魔力を叩き込んだのだ(聖剣の威力=残りMPの総量だと思ってくれ)。
今の俺には「魔法少女」に変身する力すら残ってない。
本音を言うならこのまま舞香を連れて逃げたい。
見捨てちまえ、そう囁く俺がいるのは確かだ。
(でも……だけどさ)
俺は胸の内から迸る衝動のままヤツの方へ駆け出す。
逃げ惑う人々の間から聞こえる微かな悲鳴。
喧騒に掻き消されそうになる、助けを求める声を目指し俺は走る。
そこに助けを求める者がいるなら俺は行かなくてはならない。
だって俺は「魔法少女」だから。
愛と希望の魔法少女だから。
絶望を希望に変えなきゃ……カッコ悪いだろう?
無論、途中わんぱく子供広場で恍惚に息を荒くしてたナマモノをぶん殴り、回収する事を忘れなかったが。