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最終話

 やって来たのは、最初に来た部屋の前。走り続けて呼吸は辛いが整えている余裕はない。インターホンを押すと、さほど間を置く事もなく中の住人は出て来た。

「どちら様ですか」

「龍太郎さん」

「……薫子ちゃん」

 薫子を見た龍太郎さんの表情は明らかに動揺している。それを見て薫子は確信した。

「もう一度聞きます。龍太郎さん、「やる気殺人事件」について、なにか知ってますよね」

「さっきも言ったけど、僕はなにも知らないって」

 龍太郎さんから受け取った道具を見せる。

「じゃあなんで、これがやる気を盗る道具だって、知ってたんですか? 私は龍太郎さんの説明がなければ、そういう道具だってわかりませんでしたよ」

「それは……えっと、説明書が付いてたんだよ。それでわかったんだ」

「ならその説明書は? なんでさっき私に渡さなかったんですか?」

 龍太郎さんはまだなにか言いたそうだったが、上手い言葉が見つからないようだ。そこで薫子は畳みかける。

「事件の事を調べてたら、やる気マフィアがやる気を盗る道具をばらまいてて、それで全国で事件が起こっているんだって。なんか組織が道具ばらまいてるって聞いて、最初は麻薬とかみたいになんか、取引みたいなのをしてるんだって想像してたんですよ。実際にどうだかは知らないですけどさすがに、道端に落ちてたっていうのはあり得ないですよ。それも説明書付きでなんて。

 私はなにも龍太郎さんが犯人だったからといって、警察に突き出そうだなんて事は考えていません。ただ、ただ美帆のやる気が取り戻せればそれでいいんです。正直に話してください」

「ちょっと待ってて」

 部屋の中に引っ込んだと思ったらすぐに戻って来た。その手にはなにか瓶のような物が二つ握られている。

「これが、美帆ちゃんのやる気だよ。ちょっとそれ貸して」

 なにか液体のような物で満たされている方の瓶を渡され、代わりにやる気を盗る道具を渡す。中身の液体は少しだけ光っているように見える。

「こうやってここに瓶をセットして使うんだ」

 慣れたような手つきで瓶をセットすると、道具を薫子に押しつけてきた。その途端、体中から力が抜けていくような感覚に襲われる。

「こうしてこの吸盤を相手に押しつけると、相手のやる気を奪えるんだ。たしかに美帆ちゃんのやる気は僕が盗った。そのやる気を一口飲むだけで、すごくやる気が満ちてくるんだ。僕は、今年こそは絶対に受からないといけないんだよ。わかってくれるね」

 龍太郎さんの気持ちはわかる。三浪して、今年はと意気込む気持ちは。だが、美帆のやる気は取り返さなければならない。龍太郎さんにとって受験が大事であるように、薫子にとっても高校最後の夏休みはとても重要なのだ。

 薫子は最後の力を振り絞って龍太郎さんから道具を奪い取る。そしてそれを龍太郎さんに押しつける。

「薫子ちゃ……なんで……」

「自分でも驚きですよ。なんでですかね、奪い切れない程のやる気が私にあったのか……それとも、今私を動かしているのは、私の正義感なんですかね」

 やる気を盗り尽くしたのか、龍太郎さんは倒れた。道具から瓶を取るとそれもやっぱり液体のような物で満たされ、うっすらと光っている。

「たしか、私のやる気も少しは盗られたよね」

 瓶から一口、二口飲んでみる。するとたしかに体中にまた、さっきのやる気がみなぎってきた。

「じゃあ残りはここに置いておきますね。あと美帆のやる気も返してもらいます」

 そのまま去ろうとする薫子を、龍太郎さんが呼び止めた。

「警察には言うのかい?」

「うーん……別に言いません。元々私は、事件なんかよりも美帆のやる気を取り戻す方が大事だったんですから。夏休みを楽しむために大事なんですよ」

「そうか……」

「あれです。戻ってきたやる気のせいで正義感なんてどっかに行っちゃいましたよ」

 倒れている龍太郎さんを置いて、薫子は美帆の家に急ぐ。事件が今後どうなっていくかよりも、やっぱり美帆にやる気を取り戻させる方が大事である。


 その後、龍太郎さんは自分自身のやる気だけで勉強する事に決めたようだ。道具は匿名で警察に送ったらしい。警察の方でも道具が手に入ったから捜査が進展するらしいとテレビで言っていた。だがそんな事はどうだっていい。

「薫子! 早くしないと花火始まっちゃうよ」

 呼んでいる美帆の元へ急ぐ。今はただ高校最後の夏休みを楽しむ事だけが大切だ。大学受験が控えている。それも気にしていては仕方がない。

「今行くから待ってて」

 まずは夏祭りと花火大会に来ている。私の夏休みは、まだまだ始まったばかりだ。

ちなみにこれ、原案は別の人なんですよ

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