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第一話

『本日、また「やる気殺人事件」の被害者が発見されました。これで発覚した被害者は三桁に上りましたが、未だに発覚していない被害者もいると思われ、その総数はもっと多いと予想されています』

 連日テレビで報道されている事件。しかし多くの人々はまったく気にする事もなく日々を過ごしていた。日本全国で見つかっている「やる気殺人事件」の被害者達。だが、自身の近くで出てこなければ、危機感もないというもの。いつものように朝ご飯を食べ、学校や会社に行き、夜になれば寝る。それが人々の変わらぬ日常だった。




 七月末。今日で学校も終わり、明日から夏休みになる。学生なら誰もが心浮き立ち、宮地薫子もその内の一人であった。

 「おっはよーう」

 元気よく挨拶をして教室に入る。もうすぐ担任の教師が来るとあって、ほとんどの生徒が教室にいた。荷物を置いて自分の席に着く。いつもなら自分よりも先にいるはずの親友、正木美帆が今日に限ってまだ席にいなかった。バタバタと生徒達が走り、続いて教師が入って来た。

「ん? 正木は休みか。めずらしいな」

「先生、なんでかわからないんですか?」

 今まで美帆が休んでいるところなんて見た事がない。

「いや、連絡は来てないな。心配だったら、帰りに様子を見て来たらどうだ」

 言われなくとも薫子は様子を見に行くつもりであった。高校最後の夏休み。少しの時間も無駄にしないために、夏休み中の予定を今日中に立てねばならない。

「それじゃあみんな、早く体育館に行ってくれ。もうすぐ終業式が始まるぞ」


 学校が終わり、受け取った通知表の中身はしばらく忘れる事にして美帆の家へ急ぐ。

 宮地薫子と正木美帆は、小学校から同じ学校に通う大の親友だ。お互いの家で何度も遊び、苦楽を共にしてきたと言ってもいいだろう。

 美帆の家に着くと、すぐさまインターホンを押す。この時間なら美帆のお母さんがいるはずだ。

「はい」

 案の定、美帆のお母さんの声が、インターホン越しに聞こえてくる。

「お久しぶりです。薫子です」

「まぁ、薫子ちゃん久しぶりねぇ。ちょっと待ってて、すぐに行くから」

 最近はお互いの家に行く事はなかったが、それでも薫子の事は覚えてくれていたようだ。

 ドアが開き、美帆の母親が出て来る。

「ホントに久しぶりね。美帆のお見舞いでしょ? 入って」

「めずらしく学校を休んでいたから気になって」

 靴を脱ぎながら返事をする。中学校ぶりにお邪魔して少し懐かしささえ感じる。

「風邪とかじゃないようだけど、ちょっと様子が変で」

「様子が変?」

「とにかく見ればわかると思うわ。自分の部屋にいるから」

 案内されずとも美帆の部屋はわかっている。階段を少し駆け足で上がり、ノックもしないで美帆の部屋に入る。

「みほー、調子どう?」

 ベッドの上のこんもりした山から美帆が顔を出す。顔色は良く、たしかに体調は悪くなさそうだ。ただ表情に覇気がない。

「どうしたの? 急に学校休んで」

「なんか行く気がしなくてね」

 普段は品行方正、学業優秀。先生方に頼られ、友人にも恵まれている美帆が学校に行きたくないとは。

「めずらしい事もあるもんだね。通知表は今度学校に取りに来いって」

「うーん」

「夏休みどうしよっか」

「うーん」

「プールには行くよね」

「うーん」

「海とかにも行っちゃう?」

「うーん」

「バーベキューとか夏祭りもあったね」

「うーん」

 なにを聞いても間の抜けた答えしか返ってこない。いよいよ本格的におかしい。これは美帆になにかがあったと考えるのが自然だろう。

「ちょっと開けてくれるかしら」

「あっ、はい。すぐに」

 ドアを開けると美帆のお母さんが手にお盆を持って立っていた。

「私が持ちますよ」

「ありがとう。どうかしら、やっぱり様子、おかしいでしょ?」

「はい。昨日まではいつも通りだったのに……」

 お茶菓子をつまみながら答える。美帆の分もあるのだが、手を伸ばそうともしない。

「最近は「やる気殺人事件」なんてものもあるし、なにか関係があるのかしら」

 「やる気殺人事件」とは、多くの人達のやる気が奪われている事件で、今現在日本全国を騒がせている。厳密には殺人ではなく強奪なのだが、語呂がいいという事で殺人事件と呼ばれている。日本のメディアもいいかげんである。だが実際にやる気を奪われた人は何事にもやる気がなくなり、死んでいるのと大きな差はないため、殺人と言っても別に構わないだろう。

 まさに、今の美帆の状態と瓜二つ。きっと美帆も、昨日学校で別れてから家に帰るまでの間に襲われたに違いない。このままの無気力状態では、美帆の夏休み、ひいては自分の夏休みも楽しめるか怪しいではないか。

「おばさん。お菓子ありがとうございました」

 お礼を言ってすぐさま美帆の部屋を出る。

「どうしたの薫子ちゃん!」

 靴を履くのももどかしくかかとを踏んだまま玄関を飛び出る。階段を降りて来た美帆のお母さんに振り返る。

「私が犯人を見つけます。「やる気殺人事件」の!」

 走りながら靴にかかとを納める。まずは情報を集めなければ始まらない。今はまだほとんどなにも知らないのだから。

「絶対に美帆のやる気は取り戻してみせる!」

 このままじゃ高校最後の夏休みが台無しだ。正木美帆の夏休みのため。宮地薫子の夏休みのため。なんとしてもこの「やる気殺人事件」の犯人を見つけなければならない。

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