こんな夢を観た「1冊分の隙間」
ゴロンと寝そべった時、それに気がついた。
上から2段目、ミステリー文庫ばかり、作者もシリーズもバラバラで詰め込まれている棚に、ちょうど1冊分の隙間が空いているのだ。
「なんで、あそこだけ……」わたしは首を傾げる。
考えもなしに本を買ってしまうものだから、本棚はとっくにいっぱいだ。置けない分は押し入れに積み上げあるほどなのだ。本1冊分のスペースなど、残しておくはずがなかった。
第一、昨日見た時は、確かにぎっちりと並べられていた。ということは、その後、自分で本を取り出し、どこかに置き忘れてしまったということになる。
ただ、その本がなんだったのか、どうしても思い出せない。
「何だったかなぁ。あそこにあったのなら、ミステリー小説なんだけど」
テーブルやベッドの上も探してみたが、どこにも本は見当たらなかった。今日はまだ外出していないから、喫茶店に忘れてきた、などという理由も浮かばない。
自分で自分の頭をコツン、コツンと小突きながら、もやもやと気持ちで隙間をじぃっと見つめる。
一瞬、隙間で何かが動くのが見えた。
「気のせい……だよね?」立ち上がって、隙間を覗き込んでみる。
文庫本の幅だけ暗がりができ、奥へ行くほど闇は濃くなっていた。
それはまるで、ビルとビルとの間にできた狭いスペースのようだった。ネコがやっと通り抜けられるような場所で、誰ものぞき込もうとはしない陰った世界。
気味が悪くなって、両隣の本を数冊引き抜いてみる。窓からの光は、何の変哲もない化粧合板を照らすだけだった。
「ほらね、やっぱり何でもなかった」わたしは安堵し、手に持っていた本を戻す。
再び、例の隙間がそこに生ずる。隙間の向こうから、漆黒が物質となって溢れてくるような気がした。
少し遅い朝食を摂ろうと、キッチンの戸からシリアル・フードを取りに行く。
「あれ?」戸が少し開いていて、シリアルの箱が隙間からのぞいていた。奥に何かがあって、閉まりきらないようだ。
中を確かめてみると、本が1冊出てきた。アガサ・クリスティの「カーテン」だった。
「こんなところに――。そうだ、本棚のあの場所にあったのは、確かにこれだっけ。今、やっと思い出した」
わたしは「カーテン」を手に、部屋へ向かう。
本棚を見たとたん、わたしはギョッとして立ちすくんだ。
赤い三角帽子をかぶった小人が、隙間から顔をのぞかせていたのである。
どす黒くてコブだらけの、ひどく醜い奴だった。わたしに気がつくと、ニヤッと感じの悪い笑みを浮かべ、暗がりの中へ走り去った。
わたしはガクガクと膝を震わせ、ゴクンと生唾を飲み込んだ。とても恐ろしかったけれど、すべきことは1つと覚悟を決め、「カーテン」をその隙間に押し込む。
どこか別の棚で、カタカタと音が聞こえた気がした。何かが、反対側から本を押し出そうとする、そんな音が。
ああ、どうか気のせいでありますように。




