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あの娘  作者: 空野かなた
5/6

第5回  不安

俺が仕事の出張で、恵と会えなかったある日の夜。



”はい、もしもし。○○です。”


”やっとつながった~。私、涼子。毎日電話してたんだよ~。”


”うん。涼子、どうしたの?”


”どうしたのじゃないわよ~!いったいどうなってるの~?

毎日遅いらしいじゃない。お母さんから電話があったんだよ~。”


”そうなんだ~。”


”私、恵と空野が付き合ってること、お母さんに話したらお母さん、別れさせないとだめねって言ってたんだよ。

お母さん、恵のことを泣いて心配してたんだから。お母さんの気持ちも判って上げなさいよ~。

いい・・・?空野と別れなさいね。”




恵は受話器を置いた。

恵は今の電話での会話をもう一度思い返してみた。

お母さんが別れさせようとしている。

涼子の空野と別れなさいの言葉。

恵の中には徐々に孤独感を感じていた。

危険因子を悟ったかのように、恵の心は悲しかった。


かなたと会えなくなる・・・かなたと会えないなんて嫌だ~。

恵はある決意を固めた。



いつもの待ち合わせ場所、ゲーセン。

仕事で約束の時間に間に合わない時は、いつも恵を待たせていた。

時には1時間以上も。

だけど恵は不服も言わず、ずっと待っててくれた。

笑顔で待っててくれた。

そんな恵を見てると切なくなってしまう。

今日はゲーセンの外で待っていてくれた。

俺の車を見るなり笑顔で手を振っていた。


外は暑いけど、俺の車もエアコンは効かないのでやはり暑い。

明菜の曲も外に大きく響いていた。


”お待たせ。待ってた?”


”全然待ってないよ~”


恵は引き続き言った。


”今日は誰もいない所に行ってほしい。

そしてかなたの腕を抱きしめてたい。”


”うん。オッケー。”


なんか俺は異変を感じた。

こんな大胆なこという娘じゃないのに・・・。

いつもは恥じらいを持ってて引っ込み思案。

俺は恵に何かあったんじゃないかと思った。

そのあとその異変が確実であるという言葉に変わった。


いつものように河川敷の方へ向かってると、


”そこじゃないよ。私が出すからホテルに行って・・・”


なんで判らないの?って言ってるかのようだった。



俺はそういう関係には完璧にうとかった。

当時の俺は、行こうにもどこにそれがあるのか判らなかった。

知ってても、出張に使うビジネスホテルや旅館など。

初めはそういうホテルのことだと思った。

だが違ってたらしい。モーターホテル。いわゆるモーテル。


国道8号線上に何件かあるという。

俺は恵の指示通りに運転した。

ここ。と言われてホテルのゲートをくぐった。。

俺は初めてのモーテルのシステムに驚いた。

人と会っていない。会わずにチェックイン。

シャッターを閉めたら入室。

俺はこういうことを知らない、まだ未熟者だったのか。



俺はその部屋の中を見て驚いた。

ビジネスホテルや旅館とも違う、なんか知らない違和感。

俺はとりあえずソファーに座るしかなかった。


”ここならかなたと二人だけ・・・二人だけなんだ~”

恵は俺の隣に座り、俺の左手を両手で握りしめた。



この後のことは記憶にありません。

というか、またしてもご想像にお任せいたします。


朝6時のアラームで起きたというのに、目隠し窓のせいか朝という気がしなかった。

シャッターを開けるまで全く朝を感じれなかった。

そして清算の際のエアシューターにも驚かされた。


シャッターを開けると暑い温度に押しつぶされそうになる。



恵は起きてからずっと元気がなかった。

というより必要な事以外会話がなかった。

このまま俺を引き止めておきたい、そんな素振りをしていた。


俺はお母さんとの約束を破って落ち込んでいるのかと思っていた。


”大丈夫だよ。お母さんになんか言われたら俺のせいにすればいいよ。

何度でも謝ってあげるから。”

俺のこの言葉は全くの検討外れであった。

それを知ったのはその日の昼休みだった。


俺はきちんと恵を自宅の側まで送り届けた。

いつものように、いつもの日常をおくるとばかり思っていた。

誤算だった。


”空野くん、1番に外線。○○さんから。”

恵の家からだ。なんだろう・・・


”はい、代わりました。空野です。”


”あのね、空野くん、恵が帰ってきてないのよ。

会社からも電話来て会社に来てないんだって。

なんか知ってる?”


”折り返しすぐ掛けなおします。”


電話を切って事務員さんに10円玉に両替してもらい、近くの酒屋の電話ボックスに走った。

俺は恵が心配だった。いてもたってもいられなかった。


”あっもしもし、空野です。”


”どうしてこんなことになってるの?”

母親は取り乱したように怒った口調だった。


”本当に申し訳ありません。

確かに私たちは朝まで一緒にいました。

そして朝6時半にそちらに送り届けたんです。”

俺は走って息を切らせた事と、怒られてる緊張感と、ましてや恵のことが心配でろれつが回っていなかった。


”とにかく私の責任です。こちらでも恵さんを探してみます。”

俺は焦っていたのか、それを言って一方的に電話を切ってしまった。



さて、俺・・・落ち着け。

朝の恵の機嫌の悪さはこれを意味してたのか・・・。

そして恵は家に帰っていない。

会社にも・・・。

恵はどこに行った・・・。

まあとにかく考えられる場所は捜してみよう。


俺は仕事を早退させてもらった。

身内が危篤という嘘をついて。


まずは俺を待ってるかもしれないゲーセンに向かった。

日中の道路事情がこんな時に限って思うように進まない。

主道でなく住宅街を走れば良かったと後悔した。

ほとんど、ここで待ち合わせをしてるいつもの場所。

今日はここに着いたのは午後一。

午後一なのにいつものゲーセンと変わらない。


俺は隅から隅まで捜した。

女子トイレまでも近くにいた女性に中を捜してもらった。

でも結局ゲーセンにはいなかった。


次はどこを捜せばいい・・・。

なかなか見当がつかない。

こういう時は無鉄砲に捜し回ればいいのだろうか。

もっとよく考えてみた。

こういう時テレビドラマは捜し当てられる。

想い出の場所は大抵あるのだから。

だが俺達は2度以上行ったところなんて、たかがしれてる。

このゲーセンに居ないんじゃ、河川敷か・・・。

あんな何もない所に居る筈ない。


契約料が高くてもポケベルをお互い持つべきだったと後悔した。

だが当時のポケベルは文字も打てない呼び出し音のみの物が一般的だった。

電話を受信する場所がないと、意味の無い物であった。


俺達が1度でも一緒に行った場所の中で、思い出深い場所はどこだろう。

やはり捜し回ってみるしかなさそうだ。



新潟の繁華街駅前、万代、東堀古町西堀。

すべて車を降りて確かめた。

繁華街をずいぶん歩き回った。

時刻は夕方6時過ぎ。


あきらめるには早すぎるとは思っていたが、俺は恵がいないことに自分を責めた。


最後に恵の自宅付近の町内を捜した。

だが結局は時間が過ぎるだけだった。


俺は恵の母親が帰る時間まで、恵の家の外で待っていた。

恵の部屋だと思う2Fの窓には光はなかった。


しばらくすると、恵の母親は帰ってきた。

母親は俺の車を見て俺が居るのを気付いた。

俺はすぐに母親の車に近づいた。


”お母さん、申し訳ありません。

今日午後から心辺りの場所を捜してはみたのですが、見つかりませんでした。

本当に申し訳ありません。”


母親と会ってからというもの、俺はずっと謝ってる・・・。

もっと良い立場として挨拶したかった。

心が切ない・・・もどかしい・・・。


”本当にあの子どこに行ったのか・・・空野くんばかり責めてもどうしようもないしねぇ。

空野くんだって空野くんなりに一生懸命、恵をさがしてくれたのだから~。”

母親は落ち着いた様子だった。


”恵さんから連絡、必ずあると思います。

私も自宅あてに連絡あると思うし、お母さんも連絡を待ってみてはいかがでしょうか?”


”そうよねぇ。でも明日も連絡無かったら、捜索願いを出すわ。”


”そうですね。その方がいいと思います。

では私も家に戻ってみようと思います。

本当に申し訳ありませんでした~。”


俺はいそいで家に戻った。

ただ、うちの電話は親父の寝てる枕元にある。

大事な話を聞き耳立てられるのが心配だ。

でもそんなこと言ってられない。


家に戻った。そしてまずは台所。

夕ご飯を食べようと、出来てある冷えてカチカチのソーメンと冷たいスープを準備して自分の部屋に戻った。

俺の机にメモがある。お袋の字だ。


○○さんから電話がありました。

帰ったらここに電話してほしいとのこと・・。

見た所、市外局番。しかも県外だ。


恵からの電話だ。

俺はいそいで家の近くの電話ボックスへ走った。


”はい、もしもし。○○です。”

聞いたこともない女性の声だ。


”あの~”


”あなた空野さんね。今、恵に代わるからね。”

良かった。恵がここにいる。ホント良かった~


      あの娘   第5回不安 おわり



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