第六章:春が来て居る場所
屋上のお昼ご飯は放送室の次に落ち着く。
2年生になった私は放送委員の仕事が減ってしまい、止むを得ず次点の屋上で昼休みを過ごす事が多くなっていた。
私はいつものお母さんお手製のお弁当を食べた後、屋上で空の雲の動きをぼんやり眺めていた。
『ギィィィーーーバタン』
油を注さないとまずいのでは無いかと思われる不快な音が聞こえる。
誰かが屋上に来たようで、私は開けっ放しにしていたお弁当箱の蓋と口元を閉めた。
「綾瀬、やっぱりここか。」
口元に軽く笑みを浮かべながら、先生が私の横に腰掛けた。
「先生はお昼済んだんですか?」
「あぁ、今日は売店でパンを買って軽めに済ませたよ。」
春の日差しは優しく暖かい。
段々と私は眠くなってきた。
先生はそんな様子の私を知ってか知らずか、軽く頭を撫でてきた。
こういうことも感覚でやる人だ。
雲が風に流されるように、空気を読み取ってして欲しい事をしてくる。
私が雲で先生が風で、そこに深い意味など無くて今そうしたいから唯そうする。
先生と生徒、男と女、『好き』や『愛する』や『恋しい』そういうの全く関係無しで、
その時の流れで欲で感覚で先生の側に居た。
「綾瀬、今度の休みに海に行かないか?」
先生の唐突な案に少し驚いて目が覚めた。
「それってデートってことですか?」
「どう受け取ってもいい。ただ綾瀬と海に行きたくなった。」
そう言った先生の横顔が、少し寂しげに見えたのを気のせいだと思いたかった。
「じゃあスケッチ大会ってことで!」
私はわざと少し明るめに答えた。
「二人だけで大会って言うのも何だけど、まぁそう言う事で!日曜の朝10時に駅の改札に集合!」
先生も少し明るめにそう言うと、私を軽く抱きしめた。
春の陽だまりのように乾いたお日様のにおいがする先生の胸に、鼻をくっつけるとなぜか胸が締め付けられた。
先生は私の顎を軽く上げると、包み込むようなキスをしてきた。
暖かく溶けて行きそうな感覚に私は立っているのがやっとで、先生は私の制服のスカートの間に自分の足を入れ私を支えてくれた。
先生と行為に及んだ後は、必ずと言って良いほど涙が流れた。
先生の動きに合わせて体中の液体、組織全部が逆流するような感覚に襲われて、全部ぐちゃぐちゃになって溶けて一つになって、切なくて胸が締め付けられて涙が流れた。
先生と私は前世と言うものが有るのなら、同じDNAを持っていたのかもしれない。