第一章:結婚式(控え室)
「あらー綺麗ね!!思った通りだわ。千絵里は背が高いから、シンプルなドレスが似合うと思ったのよ。」
母は勝ち誇ったようにはしゃぎながら言った。
確かにコンプレックスだった背の高さが、こんなに白のシンプルなドレスを映えさせるとは思っても見なかった。
ほとんど飾りの無いタイトな作りのシルクのドレスは冷たく私の身体を包んでいた。
「ありがとう。でも、お母さんが結婚するわけでもないのに凄いはしゃぎようね。」
私は苦笑いを浮かべながら、母を見た。
「あなたが落ち着きすぎなのよ。当事者なのに他人事のように!嬉しくないの?」
母は心配になったのか、私の顔を覗いた。
「嬉しいわよ。もちろん!緊張しているだけよ。」
私は母が心配しないように答えた。
今日は天気が良くてよかった。雨は嫌いでは無いけれど、心が安定していないと気分を鬱にさせる。
結婚する花嫁は普通はうきうきとして、母のようにはしゃぐのだろう。
当事者の私は、嬉しくない事は無いけれど、天に舞い上がってしまうほどの幸福感では無い。
結婚というのはゴールでは無く、新しいスタートだ。
この人だと思う人を実際の目も心の目も皿の様に大きくして、しっかりと見ながら選んできた。
そして、私が最終的に選んだ人は、感覚では無く現実を生きている田中拓海と言う男。
拓海は高校の1年先輩で、委員会が一緒だった為に面識はあったもののほとんど話という話はしたことが無かった。
拓海と結婚するまで関係が進むようになったきっかけは、私が社会人になり看護士となって働いていた病院に、拓海が患者として来院し、再会したからだった。