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06:思い出せたから。

―――目をこすっていた手を止めて顔を上げると、そこにはずっとずっと会いたかった飛鳥がいた。一瞬、すぐに飛鳥ー!と飛びつきたくなった。

 無意識のうちに一歩踏み出そうとして、ふと気づいた。

 ―――あの無表情の飛鳥が、困惑した…ような、怒っている…ような、驚いている…ような、なんとも微妙な表情をしていたのだ。

 わぁお。これは珍しいもの見たぞ。写メしなきゃ!ていうか、なんでそんな表情―あぁっ。

 そこまで考えてやっとわかった。あたし、今通りがかった人から見たら男の人―――今は先輩の彼氏さんのことだ―――と、二人で食事して店から出てきたように見えてるんだ!

 あわわわわわわわ。どうしよう。

「ちが、ちがうの飛鳥、たぶんなんか誤解してると思うの、あのねこれは」

 事情を説明しようとすればするほどなんだか怪しい。でもこれ以上どう弁解すればぁ!

 またもや別の意味で涙目になる。どうしてこうかなぁ、あたし!

 頭を抱えたその時だった。

「ごめんなさい、お待たせ。やっぱりテーブルにあった」

 携帯を取りに行った先輩が戻ってきた。外に出てくるなり変な空気になっているあたしたち見て先輩は「えっと…」と首を傾げた。そんで、彼氏さんに視線で『一人増えてるけどどういう状況?』と問いかけている。

 先輩この人が相談してたあたしの彼氏なんです、今外で先輩のこと待ってたらなぜだかちょうど通りがかったようでして、あたしは仲直りしたいけど先輩の彼氏と二人でいたとこ(しかもあたし泣いてた)見られましてでも事情説明しようにもなんだか余計怪しくてとにかくそれで―――、といろいろ言いたいのだけれど、うまく声が出ない。口だけぱくぱくとしているのが自分でもわかる。

「あうぅぅぅぅうううぅぅ」

 口からそんな声だけが出た。すると、それまで黙っていた先輩の彼氏さんが動いた。

「じゃ、そっちも迎えが来たようだし俺らは俺らで帰るか、コウ」

「え、迎え?」

「そ。だから大丈夫。行くぞ」

 彼氏さんは半ば無理やり先輩の手を引いて歩き始めた。先輩は若干慌てながらも、それに従う。

「じゃ、じゃあ瑠衣ちゃん、あたしたち帰るけど、瑠衣ちゃんも気をつけてね」

 振り返りながらそれだけ言い残した先輩の姿は、暗闇ですぐに見えなくなってしまった。

 残されたあたしたちはお互い無言。

 ど、どうすれば…。 

 飛鳥に取りすがったままあわあわしているままのあたしの手を、今度は飛鳥が引いて歩き出した。

「飛鳥?」

 返事はない。でも、歩いている方向は確実に家に帰る方向だ。そのままただ黙々と歩き続け

、気づいたらクレープ屋さんの近くまで来ていた。ちなみにクレープ屋さんがある場所は、ちょっとした噴水があって広場になっている。今は夜だから水も止まってシンとしてるけど。

「飛鳥…あたし」

「いい。わかったから」

「わかったって」

 何を?そう聞こうとしたとき。それまで前を向いていた飛鳥がいきなり振り返って―――いつの間にかあたしは飛鳥に抱きしめられていた。

「―――、」

 とっさに言葉が出ない。だって、いくら人通りが少ない時間帯といえども飛鳥はこういう公共の場といわれる場所で、こんなことできる性格じゃない。

 いろんなことでわけわかんなくなってぐるぐるしているあたしをおかまいなく抱きしめたまま、30秒は経った頃。あたしの体を離して飛鳥は言った。

「わかってる。瑠衣に他の誰かとどうこうなれる器用さはない」

「へ」

「さっきのも雰囲気でなんとなく状況わかる。だから、無駄に弁解いらない」

「………………あ、そうすか」

 なんだろうこの晴れやかに納得できない感じ。いやいいんだけど。誤解されてなくてうれしくはあるんだけど。

 そのまま無言で見つめあう…というかにらみ合う…に近い感じで向き合うあたしたち。

「えっと…」

 飛鳥に会ったら、言いたいこと、聞きたいこと、いっぱいあったはずだ。なのに言葉がでてこない。 

 こんなときまでポンコツかあたしの頭ー!

「瑠衣」

「ひゃい」

 ひゃいってあたし!

「…こないだ、お前が言ったこと。俺は、瑠衣のことめんどくさいともいらないとも思ってない」

「あ…、」

 確かに言った。それで喧嘩別れした記憶がある。

「…少し離れるって、言ったのは―――」

 飛鳥ががんばって話してる。自分の考えてること、言葉で伝えようとしてくれている。あたしは目を見てうん、と返事した。聞いてるよ、飛鳥の言葉。

「離れるって、言ったのは」 

「…うん」

「あのまま一緒にいたら、自分の感情のままにお前のこと、傷つけそうだったから。こんなこと、いまさら言っても信用ないかもしれない。でも、俺はお前が嫌がることはしたくないと思ってる。―――瑠衣のこと、大事にしたいんだ。だから、一旦自分の頭を冷やすために、離れたほうがいいと思った。だから、あぁ言った。あの時は、ごめん」

 あの時っていうのは、きっと今回の事件のきっかけになったあの日のことを言ってるんだろうと思う。キス…より先のことに進みそうなときに泣いてしまった―――実際は泣いてたわけではなく生理的涙が出ただけなんだけど―――あたしに飛鳥は謝ってるんだ。

 なんだか不思議だった。飛鳥がこんな場所でこんな時間にあたしに謝っている。今までの彼なら考えられない状況だ。それに、あの口下手な飛鳥が、あたしのこと大事にしたいって、言葉に出してはっきり言った。

「…離れてる間、そんなこと考えてたの?」

 飛鳥は眉を寄せて悪いか、みたいな顔をした。

「あは。そういう反応は、いつもの飛鳥だ」

「…うるさい」

 ―――あーあ、最近のあたし涙腺壊れちゃったのかな。なんかまた泣きそうだよ。

「ありがと、飛鳥。あのね、あたしも離れてる間にわかったこと―――や、思い出したことがあるの」

 今度は飛鳥が黙ってあたしの話を聞いてくれている。

「あのね、確かにあたしはあの時ちょっとびっくりしちゃって、あんな態度とっちゃった。でもね、いやなわけじゃないの。いやどころか、飛鳥とくっつくこと大好きなんだよ。ほんとはデートしてるとき、外でも手ぇ繋いで歩きたいとか思ってるし。部屋でするキスとか…、飛鳥に触れてもらうと、あたし本当に幸せな気持ちになるんだ」

 ここからは、恥ずかしいから目を見て喋れない。でも、飛鳥の手を取る。あたしの気持ち、伝わって。

「あたしだって、飛鳥に触れたいの。もう、驚かないし怖くないよ。だって、どんなに態度でかくて口が悪くていじわるだって―――ほんとは誰よりも飛鳥がやさしいひとだってこと、思い出せたから」

 そこまで言うと、あたしは顔を上げて背伸びをした。そのまま、飛鳥にキスをする。今まで付き合ってきて、自分からキスをしたのはたぶん初めてだ。

「へへ。なんか緊張する」

 驚いたであろう飛鳥からは何の反応もない。恥ずかしさを笑ってごまかし、顔を離してみると―――そこには見たことのない頬を染めるという反応をした飛鳥がいた。

 あ、飛鳥が赤くなってるーーーーーー!!!

 面白くなってしまったあたしは、思わず「飛鳥かわいい!」と言ってしまった。その途端、ぎろっと睨まれる。そんで頭をはたかれそうになったのを素早く回避。そのまま逃げようとすると飛鳥も後を追ってくる。

 ―――これは、仲直りできたと思っていいんだよね。いいなぁ、なんかあたしたち今青春してるなぁ、なんて能天気に思ったその時。

「はーい君たちなにしてるのかなー。22時過ぎてるんだけどなー。ちょっとおじさんに話聞かせてねー」

 巡回しているおまわりさんに、しっかり捕まってしまった。そりゃそうか。夜の22時過ぎに出歩いてる高校生は補導の対象ですよね…って、あたしらのばかー!


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