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04:…聞いてくれますか。

 ―――結局あれからまた一週間は飛鳥と会うことなく過ごしたあたしは、そろそろ何をどうしたらいいのかわからない感じになっていた。

由香とたまに電話して、毎日バイトに行って、ただその繰り返し。

 物心ついてからこんなにも飛鳥の顔みてないのって、初めてなんじゃないかと思う。今は学校もないし…。

 ベッドの上でうつぶせになっていろいろ考える。あたしがどうしたいのかなんて、そんなのは初めから分かってるの。ただただ、飛鳥と一緒にいたいだけ。今まで通り、これからも。

 それだけのことがどうしてこんなに難しいんだろう。

 あの日、あたしじゃない誰かにクレープを買ってあげてた飛鳥が頭に思い浮かぶ。思い浮かべたくないのに。でもあたしの中の最新の飛鳥はあの飛鳥なのだから、どうしようもない。


 そんな時だった。携帯が鳴った。見ると、シフト交換とかの業務連絡用にバイト先の人たちと連絡先交換した内の一人からだった。

「んんー?…えっと、明日シフト変わってもらうことできますか、とな」

 正直明日は3日ぶりの休みだったので、体は休みたい。でも、家にいたら家の用事でこき使われるのは目に見えているし、何より予定していた用事もない。バイトに行ったらお金でる。…仕事してたら、知らない誰かと一緒にいる飛鳥のこと想像しなくてすむ。

「出て、あげますか」

 結局あたしは、4日連続勤務することを了承するしかなかったのだった。




「おはようございまーす」

 昼から夜までのシフトで出勤したあたしは、例のハンカチ貸してくれた先輩も更衣室にいるのをみてちょっとだけテンションが上がった。先輩だし年上なのだけど、ここしばらくのあたしの癒しになってくれているからだ。

「せんぱーい」

「あ、瑠衣ちゃんおはよう。今日は……やっぱり目赤いね」

 あたしを見るなりそういった先輩は、自分よりちょっとだけ位置が高いあたしの頭に手を置いて、ふわふわとなでてくれた。

 「……和泉先輩、それ余計に目赤くなっちゃいます」

 苦笑いしながら言うと、先輩は難しい顔をして手を離した。どうしたらいいのかわからないって感じだ。―――ここ最近のあたしと一緒。

「へへ…、でも、ありがとうございます。ちょっとは元気出ました」

「それなら、よかったけど」

 まだ難しそうな顔してる先輩をみて、それなら、とあたしは思った。

「そんなに、気にしないでください。でも、もしどうしても気にしてくれるなら―――」

「ん」

「今日あがったら、一緒にご飯行きませんか。あたしの話…聞いてくれますか」

 そういうと、先輩は一瞬少しだけあたしの瞳を見つめた後、「うん」とやさしく微笑んでくれた。




「先輩は…その、彼氏さんいるんですよね」

 お仕事終了後、あたしたちは近くのファミレスに来ていた。バイトが終わる時間がちょう

ど遅めの晩ごはんの時間になるからだ。歩道が見える窓際の席に陣取って、料理を注文する。まってる間にあたしは話を振った。

「か…、そ、そうなるかな」

「?この前も思ったけど、なんでそんなに歯切れ悪いんですか?」

 以前彼氏という単語を使った時もどもっていたのを思い出して、不思議に思って聞いてみた。

「なんか、あたしにとってはそんな簡単に一言で表せる存在じゃないから…でも、一般的に見たらそういうことになるのかと思って」

 照れたような、困ったような。そんな感じで先輩はその人のことを話す。あたしも一度だけ見たことがある先輩の彼氏の横顔を思い浮かべる。

「そういうことになりますよーっ。この前も迎えきてくれてましたよね」

 先輩はこくっと頷く。

「心配しすぎなんだよ」

いいなぁ。あたしも、こんな状態じゃなかったら心配した飛鳥が迎えに来てくれたりしてたのかな。あ、でも、そもそも喧嘩してなかったらバイトしようなんてならなかったから、前提からして成り立たないか。

「その、瑠衣ちゃん。もしかして悩んでることは、恋愛に絡むことなの」

「う…そうなんです」

 白状すると、先輩はわかりやすく困り顔になった。

「あの、あたし役に立たなかったらごめんね。年齢は上かもしれないけど、そういう経験はあんまり豊富じゃないんだ…」

「でも、今幸せですよね」

「それは―――、」

「あっ、答えなくても大丈夫です!その人のこと話す表情みてればわかりますよー」

 恥ずかしそうに下を向く先輩。それを見ながら、あたしは本題を切り出す。

「ところで、和泉先輩は―――」

 その人とどこまでいってますか。

 思い切って小声で本題に触れてみた。

「どっ、どこまでっていうのはその、そういう意味で合ってるの」

「はい。ばっちり合ってます。なんで答えてください。じゃないとあたしまた泣いちゃいます」

「えぇっ」

 うーん、すごい驚かれてるけど、畳みかけちゃえ!

「それに関わることなんです。あたしの悩み」

 うっ、思い出したらまた胸が痛んできた。傷ついた飛鳥の顔がよぎる。

「…どういうこと?」

 ―――そうしてあたしは、さかのぼってこれまでの経緯を話し出した。


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