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02:このスカポンタン!

「こーんにちはっ。飛鳥ママ、飛鳥はいる?」

 由香と会ったそのままの勢いで飛鳥んちに飛び込んだあたしは、そこに飛鳥がいて会えることを毛ほども疑わず声をかけた。

 専業主婦の飛鳥ママは予想通り家にいて、玄関まで出てくるといつものようにおっとりと話しだす。

「あら〜、琉依ちゃん。あら…?琉依ちゃん飛鳥と夜通し部屋にいて、ゲームしてたんじゃなかったの?」

 うっ!!相変わらずおっとりしてるけどブレないなぁこの人っ。

「あ〜、あははは…。実は朝のうちにベランダ伝いに帰っててぇ〜」

「あらぁそうなの?一声かけてくれればよかったのに…」

 あなたの息子に襲われそうになったので殴って喧嘩別れみたいになりました、なんて言えるかぁ!

「ごめんなさい、今日由香と約束あったから急いでて」

「由香ちゃん…て、あれよね、中学の時の同級生の…」

「あ、はいそうですそうです!」

「懐かしいわ〜。今でも仲いいの?」

「…うん、他にも友達はたくさんいるけど由香はちょっと違う感じかな」

 なんてったって中学3年間飛鳥の気持ち知ってて見守ってくれてたみたいだし。それに、今飛鳥と付き合えてるのだってあの時の由香の行動がなければありえなかったんじゃないだろうか。だって飛鳥絶対、自分からはよほどのことないと言わなそう。…あたしはバカみたいに無自覚だったし。

「いいお友達もってよかったわねぇ〜。うちの子とも早く仲直りしてあげてね」

「へ」

 間抜けな声が出た。飛鳥ママ、なぜそれを!?あたしまた声なみに顔に出てた!?

「ううん、琉依ちゃんじゃなくて…飛鳥がね。なんか、出てくとき機嫌わるい風だったから」

 おおぅ……どうやら今は顔に出てたらしい。てか、機嫌わるい風って、マジで?

「機嫌…悪かったんですか飛鳥サン」

「そうねぇ、ま、なんとなくだけど」

「うわ…。んで、出てくときってことは飛鳥どっか行ったの?今いない?」

「うん、今はいないんじゃないかしら。私それも忘れて琉依ちゃんに部屋にいるんじゃなかったのなんて聞いちゃって。うふふ」

「あはは〜…」

 時々思う。飛鳥ママのおっとりさって実は作ってるんじゃないのか!?朝のすったもんだまであっさり知ってそうで怖いんですけど!?

「でもね、晩ご飯までには戻るって言ってたから、そのへん狙って部屋で待ち伏せしてたらいいんじゃないかしら」

 琉依ちゃん得意のベランダ伝いでね。

 飛鳥ママはぱちんとウィンクした。うん、実情がどうでも優しいことに変わりはないからどっちでもよし。あたしが今まで見てきた優しさは嘘じゃないはずだもん。

 不法侵入の許可も下りたことだし…うん?家人の許可下りたら不法侵入じゃない?合法侵入?むしろただの侵入…。

 どうでもいいことをうむむと唸りながら考えていると、飛鳥ママにくすっと笑われた。

「琉依ちゃんはいつも全力投球ねぇ」

「むー、あたしそれしか知らないからな。基本的に、単細胞なんだ」

「だから難しい飛鳥とちょうどいいのかもね」

 飛鳥ママ…それは誉められてるのかけなされてるのか微妙なフォローだけど、でもまぁ、飛鳥とあたしでセット感が漂ってるからいいや。

「ほんじゃ、そんくらいの時間に多分上から部屋に入ってるね。おじさんによろしく〜」

 それだけ言うとあたしは玄関を出て、自分の家に戻った。

 せっかく由香と分かれてここまで来たけど、いないんじゃあ仕方ないもんなぁ。由香にメールを入れてみるとあの後彼氏と合流したらしいから、あたしは部屋で大人しく時間まで漫画でも読んでよっと。






 そんなこんなで、テニスでエースを狙ってみたり先輩と若気の至りな恋をしてみたり蝶が舞うようなプレイスタイルのお嬢様が出てくるマンガに夢中になっていると、隣り合わせの飛鳥の部屋から物音が聞こえてきた。

 視線だけで枕元の置時計を確認すると19時で…え、19時!?もうそんな時間!?待ち伏せ作戦、もはや失敗じゃん!

 …あれ。ということは、飛鳥は少なくとも昼から今まで出かけていたことになる。どこにいってたんだろう。

 あたしに時間を忘れさせたマンガを本棚に戻して、抜き足差し足でベランダに出た。飛鳥の部屋の窓は鍵がしめられていて、仕方ないので小さくコンコンとノックする。

 そうすればいつもなら仕方ないなって感じで開けてくれるのだ―――いつもなら。

 だけど今日は違った。音に気づいた飛鳥は振り返ってあたしと目が合ったはずなのに、一瞬迷ったように目を細めて、その後ふいっと視線を外してしまった。

 はぁ?…ナニソレ。言っとくけどそんなんじゃ諦めないから。

 あたしは自分ちを玄関から飛び出ると、そのまま隣んちに飛び込んだ。

「飛鳥ママごめんやっぱこっちから入らせて!」

「琉衣ちゃん。はいはいどうぞ〜」

 目の前の階段を駆け上って、すぐ左の部屋の扉を開ける。

「飛鳥ァ!」

 借金取りさながらに部屋に押し入って、扉もしっかり閉めた。さすがにびっくりした様子を見せた飛鳥はタダでさえ喋らないのにますます喋らない。

「…無視、しないでよ。目、逸らされるのはさすがに悲しいよ」

 直接飛鳥の顔を見ると一気に勢いがなくなった。怒りの根底にあった悲しさだけが胸に残ってて、それがまず口をついて出る。

「…悪い」

「目、合わせてよ。あのさ、あたし謝りたいんだ。朝のこと」

 ベッドに座る飛鳥の手がぴく、と動いた気がした。

「あの…まずは叩いちゃってごめんね。でもね…その、昼に由香と話してて飛鳥に伝えたいことができたんだけど」

「……………」

 うぅ、緊張する。恥ずかしいけど、言うんだあたし。

「あのさ」

「……………」

「あの、あたし」

「―――いい」

 ……へっ?

「聞きたくない」

 一瞬耳を疑った。聞きたくない?…なんで?

「どういうことよ」

「べつに。そのままの意味」

「嘘!べつにって言った!」

「琉衣」

「な、によ」

 飛鳥はベッドから立ち上がると、何も言わないままあたしに近寄った。手がのばされて、頬に触れられる。

「―――、」

 その瞬間、朝のことを思いだして条件反射でまたビクッと過剰反応してしまって。

 バカまたあたし!朝もこれで飛鳥のこと傷つけたのに!!

 傷ついたような顔をした飛鳥の表情が眼裏に思い浮かぶ。恐る恐る、反射で瞑っていた目をゆっくり開けた。

 飛鳥は、思い浮かべたような表情はしていなかった。だけど悲しそうに、笑ってた。普段は表情筋死んでんじゃないのってくらい無表情な、あの飛鳥が。

 呆然とした頭で、あぁやっちゃった―――そう、思った気がする。

「飛鳥……?」

「琉衣」

「…な、に」

 やめて、飛鳥こそ言わないでよその先を。

「―――少し、離れるか」

 ほら、だからやめてって言ったじゃん。

「………なんで、そんなこと、言うの」

「…………」

「もう、あたしのことめんどくさくなった?いらなくなった?」

 そりゃ、そうだよね。うるさいし落ち着きないし馬鹿だし周りには言葉古いって言われるし……キス以上のことはさせないし。こんな面倒くさい彼女、あたしが男だってきっとごめんだよ。

 頭のどっかでそう思ってても、口はもう止まらない。

「今日だってどこ行ったのか知らないけどあたしと別れたあと家いなかったみたいだし、他にあてになる女の子でも見つかった!?」

 ねぇ、なんか言ってよ。反論がないと、肯定されてるみたいに感じるから。

 だけど飛鳥はこんな時まで飛鳥だった。

「―――………」

「っ、もういいよ!飛鳥のバカ、無口おばけ、このスカポンタン!!」

 それを捨て台詞にしてあたしは部屋を飛び出した。飛鳥ママ、ごめん。仲直り無理だった。それどころか余計距離開いちゃったよ。

 階段を駆け降りて、お邪魔しましたと叫ぶように告げて走りながら自分が泣いてるのがわかったけど、どうしようもなかった。ただ、飛鳥の目の前で泣かなかったことだけは良かったなとなんとなく思った。

 ねぇ飛鳥、少し離れるっていつまで?少しってどれくらい?16年一緒にいてこれからも一緒にいたいって性懲りもなく思ってるのに、今さら離れるなんて拷問でしかないんだけど。

 部屋に戻って枕に顔を押しつけて泣いた。声を上げるときっとすぐ隣の飛鳥に聞こえるから。

 この時、あたしは文字通り生まれて初めて飛鳥と隣同士でいることが辛いと思った。

 そして、そんなことを考えてしまう自分が、心底何より嫌いだと思った。


お待たせしてしまいましてすみません。



02をやっとこさ更新です。基本的に琉衣は勝手に動くので産みの苦しみはないんですが、ただ頭の中で動く彼女を文字にする時間がない!!飛鳥はそもそも動かない!! 


…まぁそんなところで、今回はあれですね、連載のみそになるすれ違い、ですよ。そこは話の中で出てくるでしょうからおいといても、今回で琉衣の昭和言葉のルーツが明らかに…笑 

きっと外国が舞台の、男装の麗人と幼なじみとの悲恋もののアレとかも読んでるんですよ奴は。でも日本が舞台じゃないからって自分の語彙の参考にはしてないんですよ、きっと(笑)

まぁそういう私も高校の時だだハマりしてがつがつ読んでましたけど。 

あれは面白いよ仕方ないよー笑 



そんなこんなで次回03ですね。間空きすぎないようにがむばります!

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