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深夜の出来事

作者: WAIai
掲載日:2026/07/31

深夜、輝いているのはコンビニである。

そのコンビニに、1台のトラックが入って来た。

歳は40代。

慣れた手つきで運転している。

「腹減った」

短く切った髪をがしがしとかき、トラックの駐車場に愛車を停める。

隣のトラックには、寝ているのか、脚だけが見える。

何かふと安堵して、トラックから降り、コンビニへ向かう。

すると自分の前に客がおり、若い青年だった。

しかしコンビニの光に照らされた顔は、目がよどんでおり、暗いオーラを感じる。

ー何だ、こいつ?

眉根を寄せていると、青年は先にコンビニに入っていく。

少し距離を開けて、俺は後を追う。

何を買うんだろうと思ったら、真っ直ぐにおにぎりのところへ行くので、ああ、俺と同じかとほっとしたのだが、何となく気になる。

自分も商品を見るふりをしながら、凝視していると、店員がレジを離れた隙に、トートバッグの中におにぎりを入れる。

あ、と思い、青年に近づいていく。

「それは良くない」

はっきり言うと、青年は驚いた顔をして、逃げようとしたが、その前に俺は道をふさぎ、手をおさえる。

「放せよ!! 放せってば!!」

男にしては少し甲高い声。

興奮しているからかもしれないが、どうも放っておけなかった、

「今、しまったものを出せ」

「…」

青年はちっと舌打ちすると、固まっている。

仕方がないので、強硬手段を取り、トートバッグを奪う。

「あ、この!!」

「ちょっと、うるさい。黙っていろ!!」

低い声目で脅すと、青年は静かになった。

中にはノートや缶ペンケースがあり、塾の帰り道か何かかと思わせる。

ーでもこんなに遅くまで、塾がやっているか?

不思議に思いつつ、おにぎりを手にすると、青年に言う。

「おごってやる。他に何がいいんだ?」

「え…?」

「いいから、早く言え」

「…ラーメン」

「ラーメンな。俺も買おうっと」

レジカゴに商品を入れていくと、俺は財布を出し、レジへ行く。

マスクをした少年のっぽい店員で、彼にも何かあるのだろうかと思ったが、今は待っている青年のことが優先だった。

「よし、行くぞ」

会計を済まして、ラーメンに湯を入れると、外へ出る。

空は真っ暗で、星の1つも見られない。

まるで月が闇のカーテンで隠れてしまったかのような淋しさに、俺はいつもの光景かと安堵する。

「俺のトラックに来い」

「トラック…?」

「いいから。ラーメンに気をつけろ」

俺は青年に対し、顎で促すと、愛車へ向かう。

青年が大人しくついてくるのは意外というか、もう少し抵抗するかと思ったが、優等生できたのかもしれないと思い、トラックに乗せてやる。

「いただきます」

「でも…!! あの」

「いいから。腹が減っていると、苛々したり、頭が上手く動かないから」

俺はそう言うと、ラーメンをすする。

ちょっと硬めだったかと思ったが、食べていくうちに柔らかくなるだろうと、腹の中に入れていく。

青年は迷っていたようだが、俺が怖いのか、じっと見つめると、細々と食べ始める。

「…温かい」

ぼそりと呟いた言葉に、俺はうなずく。

夜は人間が休んでいるせいか、寒く感じる。

今の状況は孤島に取り残された2人組みたいな感じだった。

「…お前、お腹が減っているなら、もっとずずっと食え」

「は、はい…。ずるずる」

青年は麺を多く持つと、ラーメンを口に入れる。

それを見て、俺は笑う。

「何だ、できるんじゃないか」

「へ…?」

「目が病んできるから、心配だったんだよ。オーラも黒いし」

「…」

青年は手を止めると、黙り通す。

俺は気にせす、身の上話をする。

「俺はな、お前くらいの子どもがいるんだよ。男の子でさ。だから放っておけなくて。今、思春期で爆発中なんだよ」

「爆発…」

「そう、爆発。すごいぞ。ドアを蹴ったり、物を投げたりな…。放っておいた俺がいけないんだけど、良い子だったのにって、思ってしまってな。何とも言えないんだよ」

「…良い子なんていない…」

青年の硬い声に、俺はラーメンを置き、おにぎりに手を伸ばす。

「お前に、似ているんだよ。目が死んでいてな。父親として、どう接すればいいのか、お手上げだ。構ってやれなくて済まないと、それしか思う術がない」

「…俺と同じ…」

青年は箸を止めると、おにぎりを頬張る俺に言う。

「爆発したら、俺も心配してもらえるかな?」

「何だ。まだ思春期を迎えていないのか?」

「…その父親が厳しくて…。幼い頃から、緊張しているんです。良いところへ行け、良いところへ行けとうるさくて」

「…ああ、なるほど」

俺は手についた米をぺろりとすくうと、言う。

「良いところって何だ? 働いていれば、皆、良いところに入っているんじゃないのか? それとも、お前は俺みたいなトラック運転手を馬鹿にしているのか?」

「ま、まさか…!! でも、その…」

「何だ? はっきり言え」

「万引きして、困らせてやろうとしたのに、その、あなたに捕まってしまって…。本当は親が謝る姿を見たかった」

「…あのな」

俺は最後の一口を飲み込むと、顔を近づけ、青年のために言う。

「犯罪だけは、犯罪だけは駄目だ。親を困らせてたくてもな。でもそれ以外だったら、何をしてもいい。縛られてきた分、爆発したっていいんだ。お前が生まれたくて生まれたわけじゃないんだから」

「…ううっ…」

いきなり青年が泣き出したので、俺はぎょっとし、ティッシュBOXを引き寄せる。

青年は1枚、手に取ると、目を拭き、鼻をかむ。

それから鼻声で言ってくる。

「…俺、やり直せますか?」

「それはな…自分次第だ。お前がこのままじゃ嫌だというなら、親と喧嘩しなくてはいけないし。このままでいいなら、大人しくしていろ。分かったな?」

「は、はい…。ありがとうございます」

青年は少しすっきりしたのか、俺を真っ直ぐに見つめてくる。

俺は逃げる気はなく、受けて立つ。

じっとすることしばし。

先に折れたのは、青年だった。

「…ラーメン、伸びますね」

「そうだ。早く食え」

「ほい」

静かになった青年に、何か心に響くものがあったのだろうか。

またラーメンをすすり、食べていく。

オレは直接、見ないように、窓を眺める。

コンビニに入って来る車はいなかった。

ー俺が気づいて良かった。

青年の様子を横目で確かめ、俺は力を抜く。

自分の子どもと重なり、彼は何をしているだろうかと思いを馳せる。

ーお前なんか、父親じゃないんだよ!!

そう言われて衝撃を受けたが、仕方のないことだった。

家を空けることの多い仕事なので、どうしても子どもは後回しになってしまう。

「ーなあ」

「はい?」

「今、何を言われたい?」

「え…今?」

青年はラーメンを食べ終えたのか、蓋をし、考える。

闇を睨んでいるようにも見え、真剣に考えてくれているようだった。

「今は…助けてくれてありがとうございます、でしょうか」

「…そうか。それならいい」

俺は青年の言葉に救われ、青年もまた俺の言葉に救われたのか、目の暗さが消えていた。

照れ屋の青年に戻ったことに、ほっとする。

「LINEでも交換するか? また話したい時もあるだろう? ただ仕事が忙しいとな…」

「いいえ。大丈夫です。自分で何とかしてみせます」

「そうか。…俺の息子もそう言ってくれるといいんだけど…」

「大丈夫。ちゃんと伝わりますよ」

青年はようやく表情を緩めると、俺に頭を下げてくる。

「本当にありがとうございました。息子さんと仲が良くなることを祈っております」

「ありがとうな。良かった」

「それはこちらの台詞です」

「そうか。早くおにぎりを食え」

「はい!!」

青年はすっかり明るさを取り戻すと、俺は口元を緩める、

一生懸命、食べる姿は、生きようとしている証だった。

「男らしいじゃないか」

おにぎりを頬張る青年に話すと、彼は頭を下げてくる、

「ごちそう様でした。美味しかったです」

「そうか、良かった。…ちゃんと親と向き合えよ」

「はい。あなたも」

握手を求められたので、手を差し出すと、力強く握りしめる。

「あなたのことは忘れません」

「大したことはしていないが…。ありがとうな」

青年の心に響くものかあったと確信し、俺は眩しそうに見つめる。

「よし、お前のうちまで送ってやるか」

「え? いいですよ」

「いいんだよ。俺が一緒にいたいんだ」

息子みたいに、とは口にせす、シートベルトをしたのだった。




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