深夜の出来事
深夜、輝いているのはコンビニである。
そのコンビニに、1台のトラックが入って来た。
歳は40代。
慣れた手つきで運転している。
「腹減った」
短く切った髪をがしがしとかき、トラックの駐車場に愛車を停める。
隣のトラックには、寝ているのか、脚だけが見える。
何かふと安堵して、トラックから降り、コンビニへ向かう。
すると自分の前に客がおり、若い青年だった。
しかしコンビニの光に照らされた顔は、目がよどんでおり、暗いオーラを感じる。
ー何だ、こいつ?
眉根を寄せていると、青年は先にコンビニに入っていく。
少し距離を開けて、俺は後を追う。
何を買うんだろうと思ったら、真っ直ぐにおにぎりのところへ行くので、ああ、俺と同じかとほっとしたのだが、何となく気になる。
自分も商品を見るふりをしながら、凝視していると、店員がレジを離れた隙に、トートバッグの中におにぎりを入れる。
あ、と思い、青年に近づいていく。
「それは良くない」
はっきり言うと、青年は驚いた顔をして、逃げようとしたが、その前に俺は道をふさぎ、手をおさえる。
「放せよ!! 放せってば!!」
男にしては少し甲高い声。
興奮しているからかもしれないが、どうも放っておけなかった、
「今、しまったものを出せ」
「…」
青年はちっと舌打ちすると、固まっている。
仕方がないので、強硬手段を取り、トートバッグを奪う。
「あ、この!!」
「ちょっと、うるさい。黙っていろ!!」
低い声目で脅すと、青年は静かになった。
中にはノートや缶ペンケースがあり、塾の帰り道か何かかと思わせる。
ーでもこんなに遅くまで、塾がやっているか?
不思議に思いつつ、おにぎりを手にすると、青年に言う。
「おごってやる。他に何がいいんだ?」
「え…?」
「いいから、早く言え」
「…ラーメン」
「ラーメンな。俺も買おうっと」
レジカゴに商品を入れていくと、俺は財布を出し、レジへ行く。
マスクをした少年のっぽい店員で、彼にも何かあるのだろうかと思ったが、今は待っている青年のことが優先だった。
「よし、行くぞ」
会計を済まして、ラーメンに湯を入れると、外へ出る。
空は真っ暗で、星の1つも見られない。
まるで月が闇のカーテンで隠れてしまったかのような淋しさに、俺はいつもの光景かと安堵する。
「俺のトラックに来い」
「トラック…?」
「いいから。ラーメンに気をつけろ」
俺は青年に対し、顎で促すと、愛車へ向かう。
青年が大人しくついてくるのは意外というか、もう少し抵抗するかと思ったが、優等生できたのかもしれないと思い、トラックに乗せてやる。
「いただきます」
「でも…!! あの」
「いいから。腹が減っていると、苛々したり、頭が上手く動かないから」
俺はそう言うと、ラーメンをすする。
ちょっと硬めだったかと思ったが、食べていくうちに柔らかくなるだろうと、腹の中に入れていく。
青年は迷っていたようだが、俺が怖いのか、じっと見つめると、細々と食べ始める。
「…温かい」
ぼそりと呟いた言葉に、俺はうなずく。
夜は人間が休んでいるせいか、寒く感じる。
今の状況は孤島に取り残された2人組みたいな感じだった。
「…お前、お腹が減っているなら、もっとずずっと食え」
「は、はい…。ずるずる」
青年は麺を多く持つと、ラーメンを口に入れる。
それを見て、俺は笑う。
「何だ、できるんじゃないか」
「へ…?」
「目が病んできるから、心配だったんだよ。オーラも黒いし」
「…」
青年は手を止めると、黙り通す。
俺は気にせす、身の上話をする。
「俺はな、お前くらいの子どもがいるんだよ。男の子でさ。だから放っておけなくて。今、思春期で爆発中なんだよ」
「爆発…」
「そう、爆発。すごいぞ。ドアを蹴ったり、物を投げたりな…。放っておいた俺がいけないんだけど、良い子だったのにって、思ってしまってな。何とも言えないんだよ」
「…良い子なんていない…」
青年の硬い声に、俺はラーメンを置き、おにぎりに手を伸ばす。
「お前に、似ているんだよ。目が死んでいてな。父親として、どう接すればいいのか、お手上げだ。構ってやれなくて済まないと、それしか思う術がない」
「…俺と同じ…」
青年は箸を止めると、おにぎりを頬張る俺に言う。
「爆発したら、俺も心配してもらえるかな?」
「何だ。まだ思春期を迎えていないのか?」
「…その父親が厳しくて…。幼い頃から、緊張しているんです。良いところへ行け、良いところへ行けとうるさくて」
「…ああ、なるほど」
俺は手についた米をぺろりとすくうと、言う。
「良いところって何だ? 働いていれば、皆、良いところに入っているんじゃないのか? それとも、お前は俺みたいなトラック運転手を馬鹿にしているのか?」
「ま、まさか…!! でも、その…」
「何だ? はっきり言え」
「万引きして、困らせてやろうとしたのに、その、あなたに捕まってしまって…。本当は親が謝る姿を見たかった」
「…あのな」
俺は最後の一口を飲み込むと、顔を近づけ、青年のために言う。
「犯罪だけは、犯罪だけは駄目だ。親を困らせてたくてもな。でもそれ以外だったら、何をしてもいい。縛られてきた分、爆発したっていいんだ。お前が生まれたくて生まれたわけじゃないんだから」
「…ううっ…」
いきなり青年が泣き出したので、俺はぎょっとし、ティッシュBOXを引き寄せる。
青年は1枚、手に取ると、目を拭き、鼻をかむ。
それから鼻声で言ってくる。
「…俺、やり直せますか?」
「それはな…自分次第だ。お前がこのままじゃ嫌だというなら、親と喧嘩しなくてはいけないし。このままでいいなら、大人しくしていろ。分かったな?」
「は、はい…。ありがとうございます」
青年は少しすっきりしたのか、俺を真っ直ぐに見つめてくる。
俺は逃げる気はなく、受けて立つ。
じっとすることしばし。
先に折れたのは、青年だった。
「…ラーメン、伸びますね」
「そうだ。早く食え」
「ほい」
静かになった青年に、何か心に響くものがあったのだろうか。
またラーメンをすすり、食べていく。
オレは直接、見ないように、窓を眺める。
コンビニに入って来る車はいなかった。
ー俺が気づいて良かった。
青年の様子を横目で確かめ、俺は力を抜く。
自分の子どもと重なり、彼は何をしているだろうかと思いを馳せる。
ーお前なんか、父親じゃないんだよ!!
そう言われて衝撃を受けたが、仕方のないことだった。
家を空けることの多い仕事なので、どうしても子どもは後回しになってしまう。
「ーなあ」
「はい?」
「今、何を言われたい?」
「え…今?」
青年はラーメンを食べ終えたのか、蓋をし、考える。
闇を睨んでいるようにも見え、真剣に考えてくれているようだった。
「今は…助けてくれてありがとうございます、でしょうか」
「…そうか。それならいい」
俺は青年の言葉に救われ、青年もまた俺の言葉に救われたのか、目の暗さが消えていた。
照れ屋の青年に戻ったことに、ほっとする。
「LINEでも交換するか? また話したい時もあるだろう? ただ仕事が忙しいとな…」
「いいえ。大丈夫です。自分で何とかしてみせます」
「そうか。…俺の息子もそう言ってくれるといいんだけど…」
「大丈夫。ちゃんと伝わりますよ」
青年はようやく表情を緩めると、俺に頭を下げてくる。
「本当にありがとうございました。息子さんと仲が良くなることを祈っております」
「ありがとうな。良かった」
「それはこちらの台詞です」
「そうか。早くおにぎりを食え」
「はい!!」
青年はすっかり明るさを取り戻すと、俺は口元を緩める、
一生懸命、食べる姿は、生きようとしている証だった。
「男らしいじゃないか」
おにぎりを頬張る青年に話すと、彼は頭を下げてくる、
「ごちそう様でした。美味しかったです」
「そうか、良かった。…ちゃんと親と向き合えよ」
「はい。あなたも」
握手を求められたので、手を差し出すと、力強く握りしめる。
「あなたのことは忘れません」
「大したことはしていないが…。ありがとうな」
青年の心に響くものかあったと確信し、俺は眩しそうに見つめる。
「よし、お前のうちまで送ってやるか」
「え? いいですよ」
「いいんだよ。俺が一緒にいたいんだ」
息子みたいに、とは口にせす、シートベルトをしたのだった。




