"Counsel"
「いいよ」
うずくまりながら僕が泣きそうな顔で視上げた君は、慮外にも明るい顔で要求を許諾すると、シャツをはだけて、座ったまま受け入れるように両手を広げてみせた
夜遅いからかアパートの窓の外は一つの音も無く、部屋に一つだけ在る時計の秒針の音が、僕の心臓のリズムのようにカチカチと震えて居る
『いいなあ』と、僕は突然思った
君は社会に出て、大人らしくなった
僕は卒業を間近に留年してしまって、まだ子供から大人になれずに居る
内定だって蹴られた
「それってさ………」
また視線を下に逸らすと、僕は絞り出すような言葉で尋ねる
「やっぱ、カウンセラーとしての……練習みたいなやつなの?」
僕は、どう答えて貰いたいのだろう?
確実に言える事として、心が落ち着かない
自分の吐く息が熱いのも解る
きっと君がそれを許可したら、僕は君に野犬のように飛び掛って……なにかしらの事をしてしまうに違いなかった
「それも、もちろんあるけど……」
君が考え込みながら答える
やめろ
心のなかで、誰にも聞かれず僕はそう叫ぶ
「でもさ、俺もお前を助けたいわけ」
「友達だしさ」
君が僕を視て、ふっと笑う
僕は我慢が出来なくなって君を床に突き飛ばすと、その上に覆い被さった
緩められて居た、君のネクタイを手にする
自分の手が、握った細長い布を握り潰すように強い力で閉じられて居る事が、頭の何処かで解った
僕はネクタイを君の首の周りへ一周させると、布を握り潰す様な乱暴さのままに、君の首を絞めてぎりぎりと圧迫した
当惑の視線が、躰の下から僕を視ている
きっとこうした『好意』を寄せられるなんて、考えた事すら無かったんだと思う
ネクタイと喉の隙間に苦し紛れの指が入り込むが、絞める力の方が強過ぎて勝負にもならない
君の四肢が宙を切る
そのたびに触れ合わさった躰を通して、君の何処の筋が動いているのか感覚として把握出来た
『ピアノみたいだな』
僕は思った
そうした事に意識を取られて居たせいか、強く絞め過ぎて居たらしい
君の躰の筋が最も隆起したかに思われた刹那、僕は突き飛ばされて床に後頭部を打ち付けて居た
「なに考えてんだよ、お前………」
咳き込みながら、君が軽蔑とも畏怖とも付かない視線で視降ろして居る
「お前、おかしいよ……」
「みんなには話さないでおいてやるから、もうお前、俺に話し掛けるな……」
その時、がちゃり、と音がした
僕が、君に手錠をした音だ
君は、泣きそうな顔で僕を視た
僕はうっとりと舌舐めずりをした




