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敵の敵は味方ではなかった

 裏切られた気分だ。ダイエットのために砂糖不使用の炭酸飲料を飲んでいたが、砂糖の代わりに使われている人工甘味料のせいで血糖値が上がってしまった。体重の増加は免れたが、別の項目で警告を受ける結果となったのだ。ネズミ捕りのために猫を飼い始めたら、猫の世話のために私生活を乗っ取られ、規則正しい生活が出来なくなったようなものだ。

 考えてみれば、自分と敵対するAという存在がおり、そのAと敵対するBが存在したとして、Bが自分に害をなさないという証拠はどこにもない。だが、敵の敵は味方だと勘違いしてしまうのは、差し迫った脅威であるAをどうにかしたいという焦りがあるためだ。目先のことしか考えないから、Bが自分に害を及ぼす可能性を見逃してしまうのである。日頃の自分の生活ぶり、仕事ぶりから心当たりが多すぎる。短絡的なものの見方を改善しなければ、財産を守るためにヤクザを頼り、見返りに財産を巻き上げられるなどという愚を侵しかねない。幸い、私には今のところヤクザの知り合いはいないが。

 国家間の戦争や、国家の中で対立する勢力の紛争が長期化するのも、誰を敵とし、誰を味方とするかの判断が困難を極めることにあるのかもしれない。味方であることを表明する組織が実は裏で敵対工作を進めていたり、味方であるはずの組織が何者かの手によって敵対組織のレッテルを貼られたりと、適切な判断を狂わす材料が溢れているように思われる。

 スケールの大きな話になるといまいちピンと来ないが、何かにネガティブなレッテルを貼り、それに敵対する姿勢を見せることで自身の立場の正しさの根拠とするという手法は、意外と身近なところでも観察することができないだろうか。

 昨今、新聞やテレビがオールドメディアというレッテルを貼られているが、それらに対するアンチとして自らの立場を大衆マスに持ち上げさせているのが、SNSで繋がったコミュニティを始めとするネットメディアだと思われる。

 マスコミ叩きはずいぶん前から続いており、まだまだ勢いを増しているが、それを叩いている存在も大衆マスの力を利用しており、結局はマスメディアとなることを志向している。マスコミは大衆の欲望を映す鏡のようなものであるから、現状のマスコミを批判するのであれば、大衆自身も身の振り方を反省する必要があるのだが、ネットメディアは大衆VSマスコミという構図を作りがちだ。他人事としてマスコミを批判する方が支持を集めやすいのだろう。

 オールドメディアは既得権益を持つものたちに有利な情報を広めているという主張があるが、ネットメディアもまた自らに優位な情報を流布するという性格を持っている。結局は誰が得をしようとしているかという違いでしかないように思えるのだ。

 加えて、ネットメディアはその情報伝達の速さゆえに、誤った情報、事実と異なる情報であっても立ちどころに広めてしまうという負の側面を持っている。テレビや新聞にも同様の側面はあるが、ある程度の規模の組織として情報発信を発信する以上、最低限のチェック体制は確立されていると思われる。

 一度広まった情報は完全になかったことにすることは出来ず、誤りであると訂正が入ったとしても、当初の情報は何らかの形で残り続け、その後も他の情報と一緒に人の目に触れることになる。ネットに広がった一つ一つの情報を

完全に管理下に置くことは不可能なのだ。

 また、人間の心理として、自分が一度支持したものを容易に誤りと認めることができないことにも注意が必要だ。自尊心のために、客観的に正しい証拠が示されても中々納得しない人間も多い。自分たちを正義と自認し、新しいメディアの担い手だと考える層ほどその傾向が強いと観察される。屁理屈を捏ねたり、事実を捏造したりして、自分が信じた情報を守ろうとする。正誤の基準が、自分の感情に支配されているのだ。

 特に恐ろしい手法が、主張の内容ではなく、主張する人間の人格を攻撃するものだ。自分に都合の悪い主張をする人間の過去の言動やプライベートを標的にし、人間的に信用できないとアピールするのだ。自らの正しさを証明するのではなく、相手を叩き続けることで、相対的に自らの立場を優位なものとしようとする。その結果、どのような悲劇が起きているかはご存知の方も多いのではないだろうか。

 自らの正しさの立証は、正しい理屈や証拠を地道に積み上げ、丁寧に説明することで成し遂げられるべきものであり、反対するものを貶めることで行うべきものではない。そのようなやり方で指示を得た主張がまかり通った結果、どのような社会が出来上がるか想像するだけで恐ろしい。

 扇情的な言動は関心を集めやすい。対立を煽り、冷静に話し合いが出来たであろう人々を容易に分断することにも繋がる。本来、慎重に話し合うべき事柄が、最初から対立という熱情に包まれてしまえば、建設的な議論など出来るはずがない。

 熱狂は一時の快感をもたらすかも知れないが、長期的には自分たちの首を絞めることになる。今すぐに利益を得たい、将来の人間のことなど知らないという考えの人間は人を煽るような言動を取ると考えた方が良い。その言動は熱気を放ち、人間の判断力を鈍らせる。そんな人間を見かけたら、一旦距離をおいて観察するのが安全だ。

 ところで、私は今後どんな炭酸飲料を飲めば良いのだろうか。砂糖も人工甘味料も含まないものを探すしかない。                                                 終わり 


 

 

  

 

 

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