第二十五話「追放はヤバいと俺様のスキルがささやくので」
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「――このように、彼の持っていた特殊スキルの大部分は、封印および無効化されています」
ミーナの説明が続く。ゼノをパーティに入れろというギルドの意図を、彼女は淡々と解説していた。どうやら、捕らえたゼノを裁く予定だったらしいが、事態は思い通りに運ばなかったらしい。
「……≪魅了≫はギルド規則により封印、≪ダンジョンマスター≫はコアを破壊したことで消滅、≪強奪≫は……ガイルのスキル≪悪性臆病虫(病)≫の報復によりズタズタにされて再起不能――って、ガイルこれ、本当?」
資料を見ながらシルビアが問いかける。俺は無意識のままに「〇」の札を掲げた。この「〇」「×」札はいつの間にか腰の常備品になっている。もはや剣を挿していない自分を、少しだけ滑稽に思う。
「本当っぽいわね……改めて怖って思うわ。ガイルの≪スキル≫」
“報復”という概念で、スキルが勝手に他人のスキルを破壊していたというのなら、それは異常という他ない。だが、無理やり≪強奪≫されたのだから、スキルの気持ちも分からないではない。
「このように厄介なスキルは封印できたのですが、
≪全知≫だけは封印するすべが現状存在しておらず……」
ミーナの声は小さく濁る。
彼女は申し訳なさそうに言葉を繋いだ。
「それで、私たちに監視を兼ねてパーティメンバーとして迎えろ、ということなのね」
「はい……非常に心苦しいのですが、ブラッドウルフ隊以外でゼノを押さえ込むことができる冒険者は存在していないのです。」
ギルド側の苦渋が窺える。立場上、彼女もやむを得ぬ判断なのだろう。だが我々にとっては釈然としない。
「……重罪人なんだから殺しちゃえば良いんじゃないですか……?」
ロッタが、普段の愛嬌の欠片もない口調で言う。彼女の目は絶対零度そのものだ。ゼノに向けられた視線は、塩対応を通り越して氷を帯びている。
「それが、法律上難しいという判断でして……
スタンピードは意図的ではない、≪ダンジョンマスター≫のスキルを強奪した時には、すでに発生直前だった――とゼノは証言しており、真偽判定のスキル持ちもそれを真実だと認定してしまったのです」
ミーナの説明によれば、スタンピード関連以外だと問える罪はほとんど残らないらしい。せいぜいが≪魅了≫の違法使用くらいしか裁けないというのだ。≪強奪≫に至っては、被害者が気づいていない以上、被害者が居らず立証が不可能だという。支部長の件も推測でしかなく、すでに時間が経ちすぎているのだという。
ゼノは静かに口を開いた。
「信じてくれとは言わないが、私は被害を最小化するよう魔獣たちを操作した。≪全知≫を用いながらね」
「本当なの? ガイル」とシルビアが問いを投げる。
俺は、それに対し「〇」を上げる。ゼノの言葉は真実だということだ。
マジかよ、と心の中で呟く。
だが、それが事実なら……状況は複雑だ。
「どうでしょうか、扱いはお任せします。
……幸運の湧き出る置物だとでも思って頂ければ、有用なのではないでしょうか」
「むしろ胡散臭すぎるでしょうが、それ!!」
ミーナの提案に対し、シルビアが即座に突っ込む。確かにゼノの≪豪運≫は、ブロックの能力と組み合わされば強烈な効果を発揮する。ギリギリで“有用”だと判断されるのも分かる気はするが、本音はやはりスッキリはしない。
「おい、隊長をぶん殴ったのは許してないからな!」
「……そうだよ。私たちはあなたを許してないから。覚悟しておいてね」
ブロックとロッタの顔つきは硬い。許す気など微塵もなさそうだ。
普段温厚な二人の怒りは根深いようだ。
「心配しなくても君たちに逆らうことはもうできないさ。
それをしてはいけないと≪全知≫も言っている。
突然ゼノは表情を変える。
急に顔色が青白くなり、体が小刻みに震え出した。
「もし逆らえば≪破滅≫がやってくる……
≪強奪≫の回路を通って、ガイルのスキルが私に破滅をもたらすだろう……!」
その言葉に、室内の空気が一瞬凍りつく。俺の≪スキル≫が本当にそんな芸当をできるってのか。
スキルが持ち主を渡り歩き、持ち主を滅ぼすとか……自由過ぎだろ。
ヤバいとしか言いようがない。
語彙力も枯れ果てるヤバさだ。
「私は役に立つならどっちでも良いけど……ガイル、どうする?」
シルビアが静かに、しかし真剣に問いかける。決断を俺に促してきた。
正直、迷うところだ。
だが俺達には判定の定石がある。
「〇」「×」札を使う手もあるが……
久しぶりだが、ここはいつもの”あれ”で決めることにした。
「よーし、ゼノをパーティから……追放――!!」
そう考えた刹那、脳裏におなじみの“ビリビリ”が叩きつけられた。条件反射のように頭に響く破滅の警告。やはり――こいつは手元に置いておかないと危険だ、とスキルが訴えている。
「やっぱり来たのね、ビリビリが」
「リーダーのスキルがそう言うんじゃ仕方ないよね……」
「隊長が決めたなら俺もいいよ! それじゃあゼノ、今日からお前は俺達ブラッドウルフ隊の“見習い隊員”兼”幸運の置物”だからな。オッサンだけど容赦なく吸い取るからな!」
メンバーは顔を見合わせ、そして次々と頷いた。俺達にとってこれは、もはや慣れ親しんだ判定方法であり、安心と実績の決着の付け方なのだ。
「感謝するよ。結局、私が生き残るためには、最初からこの方法しかなかったのかもしれない。これからよろしく頼む」
ゼノは不思議なほどあっさりと受け入れた。生き延びるための最善手と割り切ったようだ。スキルが多少無くなっても彼の強さは疑いようがない。働いてくれれば俺たちにとっても利がある。
***
ふと、胸に去来するものがある。思えばここまで色々あった――主に、ブロックを追放しようとしたあの時からの連続だ。
もし、あのとき本当にブロックを追放していたら、今とは全く違う結末になっていただろうか。
……命が散っていたか、良くて平凡な田舎暮らしに身を落としていたかもしれない。
あの選択を踏み留まらせたのは、間違いなく“あのスキル”と、そこから生じた縁だった。
皮肉なことに、俺の≪悪性臆病虫(病)≫は、破滅へ導こうとする一方で、結果的に俺たちを救う道を作っていた。スキルの“本性”はともかく、長年寄り添ってきた存在には、やはり愛着が湧いていた。
だからこそ、俺はつい、ぽつりと言ってしまったのだ。
「≪悪性臆病虫(病)≫とかいうふざけた名前のスキルだが、お前も俺の一部、俺達ブラッドウルフ隊の一員だ」
言葉にした瞬間、メンバーたちがふっと笑った。シルビアは小さく呆れたように頷き、ロッタは目を細めてから、いつもの調子で言った。
「やっぱり、ガイルって意外と情が深いのよね……」
「リーダー、変なところで真面目だしね」
「俺も、もう追放しようなんて思われないように頑張るよ!!」
「破滅をもたらすスキルをそんな風に愛するとは……なんと恐ろしい……」
若干一名、さらに顔色を悪くしている者がいたが、まあ気にしない。
そうして俺たちの冒険は、また一歩続いていく。
もう、何かを“追放”することはないだろう。結局のところ、あらゆるものは使い方次第だと、俺の≪スキル≫が教えてくれたのだから。
これは、あるSランク冒険者が誕生するまでの話――
(完)
※次話、第四章おまけあります。
これにて本編完結です。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
新作を書いた時には、また読んでいただけたら嬉しいです。




