第二十四話「これからの俺達」
あれから数日。
回復の名目でだらだらと寝て食ってを繰り返したのち、俺たちはオーレアンギルドから呼び出しを受けた。もう何度となく通った面談用の小部屋。磨かれた木の机には書類の山、インクと古紙の匂いが鼻にまとわりつく。
「今回の功績でブラッドウルフ隊はSランクへの昇格が内定した。
まあ、今回の功績でというのは建前だが……」
この間の闘いで腰をやってしまった支部長が、椅子に腰をかばうように座りながら、そんなことを告げてくる。Sランク冒険者は、冒険者の最高峰と言っていい称号だ。俺たちの目標でもあった。
“建前”という言葉が、軽く引っかかったが。
「……お前らのスキルがヤバすぎて、ギルドが総力を挙げて保護することになったんだよ。下手な依頼で死なれちゃ損失がデカすぎるってことだな」
なるほど。理由は真っ当だ。特にブロックとロッタの組み合わせは桁違いだ。百人規模であれだけの効果が出たんだ。これが数万人なら、国ひとつは軽く傾くかもしれない――やらないけどな。面倒だし。
「あなた方のスキルは対象人数が多ければ多いほど力を発揮します。
ですので、これからは“人脈を増やすこと”が依頼の主な目的となります」
支部長の隣、支部長代理のミーナが補足を重ねる。
いつもの事務口調だが、言っている中身はだいぶスケールが大きい。
「いろいろな都市に赴き、現地の冒険者と交流を図ってください。
それがいざという時のギルドの力になります。
支援は惜しみません」
「それってつまり……ギルドのお金で観光し放題ってことッ!?」
ロッタの目がきらり。ミーナはこくりと頷く。
好待遇すぎて逆に怖い。
「特にロッタさんは、行く先々の人々と“仲良くなる”ことを重視してください。それがメインのお仕事です」
「はーい! なります!
みんなと仲良く! それ得意だし!」
ロッタのスキルは、一定以上の好感度を越えたところから真価を発揮する。
つまり人脈作り自体が、彼女のスキル発動条件でもあるわけだ。
ギルドの目的とも合致している。
「それと、ブロックさんも、できるだけ多くの人に料理をふるまってください」
「お、俺、そんなことでよければいくらでもやるよ!!」
ブロックのスキル対象は、パーティメンバーと“料理を食べた相手”だ。ミーナの理屈は単純明快だった。沢山食わせて”運”を握れというところか。
ちなみにブロックの初期装備だった盾は、ゼノに衝突した結果、曲がってしまったので溶かして鍋に作り直された。本人いわく「適性は無かったけど愛着があって」だそうだ。ダンジョン攻略中も、調理道具が不足したので鉄板代わりに使っていたらしい。
「行き先の選定はガイルさんに一任します。
……みなさんが無茶をしないよう、くれぐれもお願いしますね」
「まあ、任せておけ。
俺の≪勘≫に間違いはないからな」
ギルドが行き先を決めるより、俺の勘に乗った方が“結果が良い”――そう判断されたらしい。
結局、俺の未来予知じみた能力は≪スキル≫無しでも健在だった。
鑑定士の爺さんによれば、常に“ビリビリ(=破滅警報)”の環境下で育ったせいで、危機を避ける回路が後天的に鍛えられたとかなんとか。特に最近はビリビリされる前に正しい行動をとることを強いられていたため、その力がさらに覚醒したのではないかとのことだ。正直よくわからん。
「そして、シルビアさんには、ギルドとの連絡調整およびブラッドウルフ隊の運営について、戦略立案とマネジメントをお願いします」
「任されたわ。
ふふ、今の私たち、もう“冒険者”って感じじゃないわね。
ほとんど占い師・料理人・アイドルのパーティじゃない?」
「……ただし、お金の管理はガイルさんでお願いします。
くれぐれも、そこだけは」
「なんでよ!?」
異論はない。シルビアが舵を取った方が、俺も楽ができる。
ただし金の管理は別問題だ。
うちの面子は、総じてギャンブラーな面がある。
ノリが良すぎてオールインしがち。
財布は俺が握るしかない。
「まあ、そんな感じか。
Sランク冒険者ブラッドウルフ隊の活動はここから大きく――」
俺がまとめに入った、その時だ。
「……悪いな、締めに入ったところですまんが、まだ終わりじゃないんだ。
実は“頼み”……いや“確定事項”なんだが
――お前らのパーティに“追加メンバー”を入れてほしい」
「は? なんだそれ、聞いてねえぞ。
というか確定事項ってなんだよ!?」
部屋の空気が、ぴたりと止まった。良い感じで締めようと思ったところで、支部長がとんでもないことを言い始めたのだ。
「……まあ、今連れてくるから、ちょっと待っててくれや。取り扱い注意なんでな少し時間がかかるかもしれんが、くつろいでてくれ。後はミーナに任せる。俺はそろそろ腰がやばいんでな」
そう言いながら、支部長は車いすで部屋の外に出ていった。なんか不穏なことしか言ってなかった気がするが大丈夫なのか……
***
支部長が出て行って、ほんの少しの時間が経過した。
扉がノックされ、新メンバーとやらが到着したようだった。
どんな奴が来るのかと期待も、いまさら新人入れるのかという面倒くささも両方あったが……
しかし、現れた人物はそんなことが吹っ飛ぶような奴だった。
「……まさか、こんな形で再会するとは。人生分からないものだ」
「新メンバーって……お前の事かよ!?」
そう、俺達の前に現れたのは、この間の騒動の黒幕ゼノ、そいつだったのだ。




