第二十三話「決着」
「お、おいブロック大丈夫か!? 滅茶苦茶ガッシャァァァン!!って鳴ったぞ、ガッシャァァァン!!って!」
轟音を立ててゼノに衝突したブロックは、冷たい石畳に大の字で横たわっていた。だが、どうやら直接ぶつかったのはブロックの盾だったようで、ブロック自身は無事なようだ。呻き声を漏らしながらすぐに目を開ける。
「た、隊長おおお!!! 無事で良かったよおお!!」
その巨体で勢いよく抱き着いてこようとするブロックを、俺は反射的にひょいっとかわした。あの重量を真正面から食らったら、ゼノにやられたのより致命的になりそうだ。
「ゼノはそっちでノビてるわよ。それにしても完璧なタイミング……どうやったの?」
シルビアが治療をしつつブロックに問いかける。
ブロックは顔を赤くして、「俺……隊長を助けなきゃって……!」と答えかけていたが、今はそれどころではない。
気を失っているうちに、ゼノを拘束するなりしなければまずいだろう。
「……なんか縛るもんないか? 無いよな。
じゃあ穴掘って埋めとくか……」
「≪ダンジョンマスター≫の力で逃げられるんじゃないの、それ」
たしかにシルビアの言う通りだ。このままじゃ埋めても無意味だな……そう思ったところで、俺は通信の魔道具でロッタに呼びかけた。
「……おーいロッタ! そっちにギルドの人はいるかー? ミーナとか、支部長……は、腰が大変なことになってなきゃで良いけど」
『リーダー!? 大丈夫? 支部長は居るよ。
治療中だけど……』
「ああ、なんとかなってゼノは気絶してる。
ただ無力化する方法が無くてな。何か知恵は無いか?」
『ええ!? か、勝ったの!? ちょっと待っててね……
えっと、支部長が言うには、ゼノはダンジョンコアってのを持ってるはずだから、それを壊せば≪ダンジョンマスター≫の力は消えるはずって!』
急いでゼノの身体を調べると、胸元から禍々しい光を放つ宝珠が出てきた。俺はそれを思い切り叩き割る。
――瞬間。
ダンジョン全体に低い唸りが走り、空気が反転する。
複雑に入り組んでいた壁は砂の城のように崩れ去り、広場全体がただの空間へと姿を変えていった。
圧迫感が一気に消え、胸の奥に残っていた緊張もようやくほどける。
「……よし。あとはゼノを埋めとけば、しばらくは大丈夫だろう。
ブロック、手伝え。なんか掘れるもんあるか?」
「ああ、うん。この盾で掘れるかな……!」
***
「――というわけで、俺、隊長が危ないと思って!
ランダムワープの罠に飛び込んだんだよ!!」
「馬鹿野郎!
あれ、運が悪いと壁の中にワープする奴だろ!!」
「”いしのなかにいる!!”ってやつね……」
ゼノを首まで地面に埋め、ロッタに救援を要請したあと。
俺たちは、どうやってブロックがここまで来たのかを聞いていた。
「ゼノの運を吸い取って隊長に注いでたから、多分大丈夫だと思ったんだよお!!」
「せめて自分に運を集めてからやれってんだ! そんな命がけの博打やめろ!!」
……とはいえ、ブロックの無茶が無ければ俺は今ここにいなかったかもしれない。あいつなりに全力で助けてくれたのだろう。
それにしても、ランダムワープであの場所にピンポイントで来るとか、どんな確率だ?それだけゼノから吸い取っていた”運”が貯まっていたのか。いずれにしても、とんでもないポテンシャルを秘めたスキルだと改めて思わされる。
そうこうしているうちに、ロッタを先頭に冒険者たちの一団が合流してきた。
「あ、リーダー! 見つけた! 結構近かったんだね!!」
だが、一団のその姿はへろへろで、立っているのもやっとという有様。
……と思ったら、酒臭さが漂ってきた。
そうだった、こいつら半分は酔っ払いだったんだ……。
「リーダー! 無事でよかったあ!! こっちは私一人で大変だったんだから!!」
そんな中で、ロッタだけは相変わらず元気だった。
だが、俺達の方で駆けて近づいてきて埋められているゼノを一瞥すると
「……あ、こいつがゼノだよね……覚えた。悪いものは……全部コイツに背負ってもらうよ……」
ロッタが、いつもからは考えられない程、低い声で告げた瞬間、冒険者たちの疲労や酔いが一気に晴れたように見えた。怖いほど自然に、スキルを掌握してやがる。
……こいつ、なんかスキルの応用力がまた上がってないか?
「……ガイル、質問、これで一件落着?」
シルビアの言葉に俺は「〇」の札を掲げる。掲げるというか、勝手に上がったのだが、まあこれで本当に終わりだという事だろう。
「そう、良かったわ。ゼノの処遇はギルドに任せましょう。どうなるかは知らないけど……実際の所、一連の騒動で被害はほぼ無かったのよね」
確かに、被害といえば俺が殴られたくらいだ。スタンピードも被害なし、この騒動も手に入った財宝のおかげでギルドは黒字だろう。それで、どれほどの罪に問えるかは微妙だが、このまま野放しにも出来ないだろうな。
「まあ、終わってみればノリのいい奴だった気もするし、俺たちは成長したし、財宝は手に入ったし……得しかしてないからな」
「……その感情が≪魅了≫の効果だったりするかもしれないから怖いのよね。しっかり封じてもらわないと」
ともかく、これで全てが元通りだ。狙われる日々からおさらば。ようやく休暇も取れるだろう。もうオーレアンは十分堪能したし、他の街へ――
と、そこで俺は思い出した。
そういえば、俺の≪スキル≫、ゼノに奪われたままじゃねえか!?
とんでもない地雷スキルだと分かったばかりだが、それでもこのパーティにとっては必要な力だった気もする。この≪スキル≫無しで、俺たちブラッドウルフ隊はやっていけるのか?
……いや、全然問題ないかもしれん。
俺の右手、「〇」の札は、またいつの間にか上がっていた。
たしかに≪スキル≫が無くても、未来予知すらできそうな≪札の上げ下げ≫は普通にできたし、戦闘中は≪危機察知もどき≫も機能していた。むしろ追放した方がいいくらいの欠陥スキルだったんじゃ――
そう考えた瞬間、
脳裏にお馴染みのビリビリとした感覚が久しぶりに走った。
……おい。お前、強奪されたんじゃなかったのかよ!?




