第十八話「ガイルのスキル」
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――スキル鑑定「ガイル」
ついに俺のスキル鑑定が始まった。
ギルドの地下室。湿った石壁と、ほの暗い魔法灯。
空気は冷え切り、ひと呼吸するたび胸の奥がひやりとする。
鑑定士の爺さんと二人きりで向き合い、俺は言葉を待つ。
パーティメンバーが居ないのは外してもらった方が良い
――そう爺さんが提案したからだ。
妙に張り詰めた空気に、俺の心臓も嫌な緊張を刻む。
……なんだ?
聞かれたらマズいことでもあるってのか?
だが、俺のスキルは≪危機察知≫であることはもう確定しているはずだ。
ここまでの冒険でも何度も証明されてきたのだから。
……そう、思っていた。
「ガイル、君のスキルは……
≪悪性臆病虫(病)≫というスキルのようだぞ」
「は!?」
爺さんが、あまりに聞き慣れないスキル名を口にした。
俺は思わず声を荒げる。
「危機察知はどこいったんだよ!
というかなんだそのふざけた名前は!!」
地下室に怒鳴り声が反響する。
ブロックの鑑定で俺たちの反応が悪かったから、今度は嫌がらせか!?
「残念ながら≪危機察知≫ではない。
それどころか、完全に伝説級のハズレスキルと言っていいだろう」
「ハズレスキルに伝説もクソもあってたまるかああ!!」
俺は机に両手を叩きつける。
……いや、落ち着け。今まで散々役に立ってきたスキルのはずだ。
ハズレスキルであるはずがない。
「通常の≪臆病虫≫スキル効果としては……
破滅の可能性が高いほど強く鳴くというものだ。」
「少しでも危険があれば、四六時中頭の中に警報が鳴り響く。
冒険者などやっていたら、正気を保つのは難しいだろう」
爺さんは淡々と告げる。
その声は重く、俺の胸にのしかかる。
「ただし、ブロックが居るお前の場合は、破滅の可能性が0か100になる。
つまり、低確率の破滅が除外されることで警報は大きく減少する。
さらに精神負荷も、ロッタのスキルで大きく軽減されていたわけだ」
「なるほど……それなら、ほとんど≪危機察知≫みたいなもんだな。
そうか、それであいつらを追放してはダメだったんだな……」
「そういうことだ」
頷く爺さん。
つまり俺のスキルはお荷物だった。
だが仲間のおかげで≪超有能スキル≫に化けていたわけだ。
……仲間を集めたのは俺様だ。
よって実質俺様の大勝利、ということで問題なしだな!
……などと、一瞬安堵しかけるが、同時に頭の中で引っかかる。
”通常の”ってなんだよ!?
俺の顔色から察したのか、爺さんが続きを語り始めた。
「君の≪悪性臆病虫(病)≫の場合はさらに悪質でな……
宿主を操り、味方を巻き込んで破滅の方向へ導くという恐ろしい特性がある……
あるはずなのだが……」
「そんなふうに操られた覚えはねえぞ!!
というかなんだよそのバグスキルは!!!」
俺は即座に反論する。
前にクラウスが言っていた“マイナス100点”の評価の正体はこれか!?
スキルってのは火を吹いたり、力が倍増したり、もっとこう……
役に立つもんだろ!
破滅に導くスキルとか、存在意義あるか!?
「その通り。
だからこそ、君の実績と鑑定結果には大きな矛盾がある」
爺さんはしばし目を閉じ、そして静かに告げる。
「おそらくだが……ガイル。
君は最初の段階で≪臆病虫≫を≪危機察知≫と勘違いした。
その思い込みが刷り込みとなり、“鳴らない=安全”という習性が形成されたのだ」
「か、勘違い……?」
「君は幼いころ、今よりもずっと慎重な性格だったのではないか?
いや、今も根は慎重だがな」
「……あったかもしれない。けどな!!
俺は変わったんだ!!」
「冒険者登録のときに“俺様キャラ”を演じ始めた、とかだな?
冒険者デビューとかいうやつか」
「ぐっ……!! まったくその通りだよ! 悪いか!! ちくしょう!!」
俺は思わず机を叩いた。
……まさか、俺の過去話を言いたいがために仲間を同席させなかったんじゃないだろうな!?
だとしたら、プライバシーへの配慮にちょっと感謝したい。
「続けよう。もしその刷り込みが赤子のころに発生していたなら……
“破滅に向かう行動”そのものが赤子のうちは不可能だ。
その間に、スキルの操ろうとする効果への耐性が自然に育つのだろう」
「……結果として本来なら破滅を導く悪性スキルが、
君にとっては“無毒化”され、むしろ力となった……
そう考えるのが自然だ」
爺さんの声が、静寂の地下室に染み込んでいく。
俺は言葉を失った。
“破滅に導くスキル”が、俺の中で“生き残る力”に変わった――だと?
「も、もしそれが本当なら……俺って実はとんでもなく凄いんじゃね!?」
「そこで自画自賛できるメンタルは……まあ素直に凄いな。
実際、とんでもなく低い確率の上に成り立った奇跡であるのは確かだ」
胸の奥で、長年のもやもやが晴れていく。
俺は“伝説的なハズレスキル”にすら勝利した男――そういうことか!
「さらに、このスキルは今も成長を続けていてな――――」
***
「――ダー!! リーダー!!
聞こえてますか!? 大丈夫!?
元気出してる!?」
……ロッタの声がうるさい。
通信の魔道具から、頭に直接響いてくる。
「起きたか。
すまない、少々手加減に失敗したようだ。
危害を加えるつもりは本当になかったのだがね」
視界がぼやける。
そうだ、俺はゼノの攻撃をまともに受けて気を失っていたのだった……。
横ではシルビアが回復魔法をかけている。
よほど集中しているのか、無言のままだ。
「へっ、起きるまで待ってるとは余裕だな。
その余裕が“破滅”に導くかもしれねえぞ」
そう、アイツが≪強奪≫した俺の≪スキル≫は≪悪性臆病虫(病)≫だ。
耐性を持たない奴がこのスキルを宿せば――
「理解しているさ。
君と対峙していることも、≪魅了≫より会話を優先したことも、攻撃を加えてしまったことも、回復する時間を与えていることも……」
「全てが破滅に繋がっている行動だということは。」
ゼノはまるで世間話のように語る。
その口調に、背筋が凍る。
「そう、全て君から奪ったこのスキルが私にさせていることなのだから」
こいつ……全部知ってて強奪しやがったのか――!!




