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第十四話「ロッタは縁の下の力持ち」

 

 ついにダンジョン攻略が始まった。

 今のところは特に問題の発生も、≪スキル≫の警報もない。


 俺の周囲には、おなじみの「〇」「×」札、他には攻略中のパーティ名に番号を振った札がずらりと並べられていた。



「警報を感じたら即座に札を上げる……

 考えるより先に……って、

 やっぱり道具扱いじゃねえか!!」


「しょうがないでしょ。

 黒幕のスキル≪全知≫との反応速度勝負になるんだから」

 シルビアがたしなめる。



「いい? ゼノに対して、こっちが明確に勝っている点があるわ。

 それは人数の多さ。そして分業による“判断の速さ”よ」



 なるほど、言われてみれば確かにそうだ。

 俺一人で全部背負うんじゃなく、仲間と役割を分けている。


 ……まあ、それでもやっぱり道具っぽいけどな!


 そんなことを考えていると、≪スキル≫の反応が走った。

 俺は即座に「5番」と書かれた札を上げる。


 それを見てシルビアが矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「5番に警報あり!

 ロッタ、連絡を入れて!

 ガイル、質問、増援は必要?」


 その問いが終わる前に、俺は「×」の札を掲げていた。


「進路変更だ。一つ前の分岐まで戻って逆に行くように伝えてくれ」

 そこまで緊急ではない。

 俺は一息ついてロッタに指示を出した。



「了解! 5番隊さん聞こえる? その先危険です。

 一つ前の分岐を逆に進んでください。

 気をつけて探索続けてくださいね!」


 ロッタは通信係として、全体への連絡を担当している。


「ふう、これでよしっと」


「……今の流れを一人でやろうとするとね、すごく疲れるの。

 優秀な人なら一人で処理する方が早いかもしれないけど、

 精神の消耗は相当よ」


 シルビアの言葉には妙な実感があった。


 確かに俺は札を上げることに集中できるから、そこまでの負担はない。


「それに、こっちにはロッタがいる。

 まさか、あの子のスキルがあそこまで壊れた性能だとは思わなかったわ。

 ……正直うらやましいわね」


「まあ、たしかにそうだったな」


 俺は、スキル鑑定で判明したロッタの力を思い出していた――



 ***



 ――スキル鑑定「ロッタ」



「ふむ……君のスキルは、言ってみれば≪縁の下の力持ち≫だな。

 だが、これはあまりにも……」



 シルビアの後に行われたロッタの鑑定は、

 やけに時間がかかっていた。


 鑑定士のじいさんは資料をめくるように視線を泳がせ、

 明らかに驚いている。



「え、えーと、スキルについては前にも驚かれたことがあって……

 そんなにすごいスキルなんですか?」


 ロッタが遠慮がちに尋ねる。


「まず効果範囲は“声が届く範囲”だ。

 応援の声によって対象相手に幅広い支援効果を与えられる。

 ……ただしその効果は、精神系を中心に非常に多岐にわたる」


「資料にまとめておくから後で読むといい」


 じいさんは少し疲れたような顔で答えた。以前クラウスが妙に高評価をつけていたのは大げさじゃなかったのか。……え? もしかして、うちのパーティが活躍できてたのって、ロッタのおかげだったりする?


「弱点があるとすれば……

 “関係性によって効果が大きく変動する”ことだ」


「つまり仲が良ければ絶大な効果を発揮するってことか」


「そうだ。だが無理やり使わされるような場面では、

 ほとんど効果がない」


「……逆に言えば、無理な引き抜きが通じないってことだな」


「えへへ、それなら大丈夫です。私、みんなのこと大好きですから!!」


 鑑定士の指摘すら、ロッタにとっては問題にならなかった。

 ……それにしても本当に良い子だよなあ、ロッタは。



「さらに――」


「まだあるのか!?」

 俺は思わず声を上げてしまった。


「むしろここからが本題だ。

 このスキルは、対象者がスキルを使う時に発生する

 “コストを対象全員に分散できる”」


「それって……ブロックの腹痛がみんなに分散されるとかだったか?」

 以前、クラウスがそんなことを言っていた気がする。



「それだけではなく、体力、精神力、魔力の消費も分散されるということだ。

 一日一発しか使えない大技も四人で割れば4発、百人なら100発使える。

 声の届く範囲の人数で分散できるということだ」


 爺さんの言葉に場が静まり返る。


「あ、あのー……それって、

 ほとんど大技が打ち放題になるってことですか?」


「だから、そう言っている」


 ロッタの問いに、じいさんは当然だと頷いた。



「ちなみに、訓練次第では対象ごとの負担割合も調整できる。

 気に食わん奴にだけ100%負担を押し付ける。

 もっと言えば敵にだけ負担を与えることも可能だ」


「これはひどい」


 あまりの話に、俺は開いた口がふさがらなかった。



 ***



「……俺が常時≪スキル≫を使い続けられるのも、ロッタのおかげなんだよな」


「ギルドが集めた冒険者は百人ほど。

 その半分はブロックの料理を食べながら宴会中。

 つまり、交代要員でもあるけど、

 体力・魔力・精神力の貯蔵タンク扱いってことよ」


 シルビアが冷静に総括する。




「みなさん! 攻略は順調です!

 今回、大技使い放題だそうなんで、バーンといっちゃってください!

 バーンとぉ!」


 当の本人は、ノリノリで通信魔道具を通じ、味方全体に声を届け続けていた。その声に呼応して、待機組の冒険者たちが「おおーっ!」と盛り上がる。まるで宴会場がそのまま戦場に連動しているかのようだった。



 ダンジョン攻略は順調そのもの。

≪スキル≫の反応もなく、問題は発生していない。



 ……しかし。


「あまりにも、≪スキル≫の反応が少なすぎるな」


 胸の奥に、不穏な違和感がじわりと広がっていった。

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