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第十三話「ダンジョン攻略とシルビアのスキル」

 

「よーし、お前ら、これからいよいよダンジョン攻略だ!

 気合い入れて行けよ!!」



 オーレアン支部長の声が広場に響き渡る。


 あれから三日。ギルドは周辺の冒険者をかき集め、

 スタンピードの黒幕――ゼノが待ち構えるダンジョンの前に

 戦力を終結させていた。



「今回の攻略は君たちのパーティが要になる。頼むよ!」



 エリュシオン・ブレイズのリーダー、

 クラウスが声をかけてくる。


 言われなくても分かっている。

 だが、その責任の重さに、自然と足が震えた。


 なにしろ――


「全体の指揮はブラッドウルフ隊リーダー、

 ガイルに任せる。皆、知っていると思うが――

 スタンピードを止めた英雄だ」


 支部長の声が遠くに霞んでいく。


 そう、今回のダンジョン攻略では俺が全体へ指示を出すことになったのだ。

 俺の≪スキル≫を全体に波及させれば、無駄な犠牲を防げる

 ――ギルドはそう判断した。


 ……俺が一つ判断を誤れば、それは即ち仲間の命が消えるということだ。

 背筋に、嫌な汗がつうっと流れた。



 ちなみに、その方法はというと……


「ダンジョン攻略で発生した被害は、

 すべてブラッドウルフ隊が補償します。

 安心して戦ってきてくださいね」


 支部長代理のミーナが改めて告げている。



 つまりそういうことだ。

 今回もまた、スタンピードのときと同じ――

 俺たちが人柱となる契約を結んだわけだ。



「まったく……なんでいつも損しかしない契約なんだ」


「嫌なら、ガイルは責任免除でも良いって言ったじゃない」


 俺のぼやきにシルビアが容赦なく突っ込んでくるが、無視だ。

 ……俺様だけ、のけ者はごめんだからな!



 ともかく俺の役目は後方。危険を察知したパーティへ通信で指示を送り、必要なら救援を出す。前線に出ることではない。……スキルがそう言っている。


 シルビアは俺の傍に残り、参謀役を買って出た。正直言って助かる。



「そういえば結局、

 お前のスキルは普通の≪支援魔法≫だけだったんだよな」


「まあね。分かってたことよ。

 どうせ私は二十点の女だし」



 ***



 ――スキル鑑定「シルビア」


「ふむ……君のスキルは≪支援魔法≫だ。

 ありふれてはいるが、回復・防御と幅広く使える有用な力だな。

 以上。」


 鑑定士の言葉が、地下室の遮音結界に吸い込まれていく。


「……知ってた」


 シルビアは小さくつぶやき、肩を落とした。覚悟していたようだが、少しは期待していたらしい。「隠された才能とか……ちょっとくらいあってもいいのに」などとぼやいている。



「気を落とすことは無い……

 むしろ、特殊スキルが無かったことの方が私は驚きだがな」


「は?」俺は思わず首をかしげた。



「君の知識や発想は、常人とはかけ離れている。

 私はずっと、何らかのスキルに由来するものだと思っていたのだが……」


「つまり私はスキル無しでも天才ってことね」



 シルビアは胸を張る。……まあ、確かに普通じゃない発想ばかりだし、時々よく分からないことを言うし、だいたい鬼畜だ。≪ダンジョンマスター≫なんて誰も知らなかったスキルを、どこから仕入れてきたのかも謎だし。


「だけどまあ、シルビアだからなあ……」


 助かってる以上、深く考える気はない。

 だが鑑定士は真顔で続けた。


「天才、というより……異なる世界の常識をもとにしているように思えるが……まあいい。君の力はスキルではなく、その知恵そのものにある。装備の適性は――」


「……ガイルを手足のように使うことのようだな。逃がさんように」


「よく分かってるわね、おじいちゃん」


「ちょっ、俺はシルビアの道具じゃねえ!」


 最近、流されるままスキルを使う癖が付いてきている。

 これ以上はまずい……よな?


 だが、≪危機察知≫は沈黙したまま。


 おい、こういう時に反応してくれよ……!



「……異なる世界の記憶持ちか。

≪異世界転生≫というスキルの残滓がかすかに残っているが――」


 鑑定士が最後に放った呟きは、スキルと悪戦苦闘していた俺には届かなかった……




 ***



「――ということで、通信の魔道具は各パーティに配布してあるけど、相手のスキルで遮断される可能性も……って話をしてるんだけど、聞いてるのガイル?」


 シルビアの声に、俺はハッとした。

 どうやらスキル鑑定のことを思い出してぼんやりしていたらしい。


「すまん、少しスキルに意識を向けてた」


「はいはい、ボーっとしてたのね」


 ……なぜ分かる。


「いい? もう一度言うわ。ガイルの仕事は二つ。

 危険を察知したら通信で指示を送ること。

 通信が使えないときは、転移スキル持ちと一緒に救出へ向かうこと」


「なるほど……」


「相手は≪全知≫持ち。おそらく情報や正解を知るスキルね。

 つまり――ガイルが動かなければ、危機に陥ったパーティは

 確実に壊滅すると思っていいわ」


≪全知≫は調べようとしただけで俺のスキルが警報を鳴らした。

 結局、詳細は分からないままだ。


「だが……なぜ俺のスキルで、≪全知≫をかいくぐれるんだ?」


「おそらくガイルのスキルが≪全知≫の見た未来を“上書き”してるのよ。

 理屈は分からないけど、そうとしか思えない」


「だからゼノは、あんたを執拗に狙ってるんでしょ」


 シルビアの言葉が、胸に重くのしかかる。


「……俺のスキルって、そんなにすごいのか?」


 思わず口に出した。

 だがクラウスのスキル採点は≪−100点≫だったはずだ。


 わからん。自分のスキルが全然わからん。


 そんな疑問を抱えたまま、ダンジョン攻略の準備は着々と進んでいくのだった……



「どんなに強力なスキルを持っていても、どんなに優秀でも相手はワンオペなのよ。そこに付け入るスキがある。ふふ……見せてあげるわあなたの知らないブラック労働ってやつを」


 言葉の意味はやはり分からないが、いつにも増してシルビアが怖い……

 おい、それ、俺に言ってるわけじゃないよな!?黒幕ゼノに言ってるんだよなあ!!!



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