第十二話「黒幕のスキル」
ゼノのスキル一覧を見終えた俺たちは、しばし呆然と沈黙していた。
支部長は腕を組んだまま、唸るように声を漏らす。
「不用意に近づけば魅了されスキルを奪われ、剣で戦えば相手は剣聖、魔法で対抗しようとも全ての属性で対抗され、カウンタースキルというのが≪カウンター≫スキルを無効するだけならともかく、それぞれの≪スキル≫を封じる≪カウンタースキル≫を無効にするという事であれば、対抗もなにもあったものではないな」
支部長の声は地下室に低く響いた。俺は喉がひりつくのを感じた。
「……つまり、正面から挑めば、最悪、魅了で仲間を奪われ、強奪で力を抜かれ、魔物の軍勢に囲まれ、全知で動きを読まれ、豪運で偶然すら味方につけられる……」
ミーナの言葉が淡々と並ぶたびに、背筋が冷たくなっていく。
想像してしまった。
――仲間が俺を裏切り、俺の剣が相手に奪われ、魔物の群れが街を呑み込み、最後には未来をすべて読まれた上で俺の攻撃が空を切る光景を。
「……勝ち筋、どこにあるんだよこれ」
思わず声に出ていた。
「でも、まずは一つずつ整理していくしかないわ。
〇×で探れば、そのうち弱点も見つかるはずよ」
シルビアが当然のように言い放つ。
「そうだな。 だいたい今までの経験からして、
俺のスキルで答えが出るんだよ」
俺は不安を振り払い、できるだけ自信満々に言った。
「ではまずは、ゼノの代表的なスキル――
≪スキル強奪≫からだな」
支部長が促す。
――≪スキル強奪≫について
・無条件で奪えるか? →「×」
・ある程度一緒に行動する必要があるか? →「〇」
・スキルの詳細を知っている必要があるか? →「〇」
「……なるほどな。つまり、条件はかなり限定的だ。
少なくとも、一瞬で奪われる心配はなさそうだ」
支部長の声に、皆がほっと息をつく。
「ただし」シルビアが指を立てる。
「≪魅了≫と組み合わせれば話は別よ。
軽く気に入らせて、仲間に誘って、
スキルのことを聞き出せば――条件達成ってわけ」
「厄介だな……」俺は思わず額を押さえた。
――≪魅了≫について
・なんとなく好意を持たれる → 「〇」
・直接話す、目を見るなどで強くかかる → 「〇」
・遠隔でも効果あり(弱い) → 「〇」
・魅了した相手に遠隔で命令を送れる → 「〇」
「幸い、操ってスキルを使わせることまではできんようだな」
鑑定士の爺さんが低く付け加える。
「それだけが救いじゃ」
「魅了で仲間を作り、強奪でスキルを奪う……か。
筋が通ってきたな」
支部長は唸る。
次に調べたのは≪魔物使役≫、
単純だが強力なスキルだった。
「大量の魔物を操れる能力……ね。
下手すると軍勢並みよ」
ミーナが渋い顔で呟く。
「そして問題は――これだな」
支部長が示した札にはこう書かれていた。
――≪ダンジョンマスター≫
「ダンジョンの……マスター?」
俺は首をひねる。
「だいたいそういうのはね、
コアを拠点に魔物を生み出したり、
迷宮を組み替えたりするスキルなのよ」
シルビアの推測に札は「〇」。
「マジかよ……自分で魔物を製造って。」
だが爺さんは静かに笑んだ。
「しかし同時に弱点もある。
居場所が限定されるということだ。
奴は必ずどこかのダンジョンに潜んでいる」
「力を蓄えるなら、
ダンジョン以外にありえないわね」
シルビアも頷く。
「なら、探すのは簡単だ。
俺の≪危機察知≫があればな」
「相手の戦力が整う前に逆侵攻を仕掛ける……
これしかありませんね」
ミーナの冷静な言葉に全員が頷いた、その時だった。
――ビリッ。
胸の奥が、鋭く震えた。
≪危機察知≫が反応したのだ。
「……ッ!」
言葉にならない感覚が襲う。
まるで、
「これ以上探ればゼノにこちらの行動がバレる」
と警告されているかのようだった。
「……ヤバい。これ以上は逆に危険だ」
俺は札を握りしめ、机に置くこともできずに深いため息をついた。
「……仕方ねえ。
こっちはこっちで準備を整えるしかないか」
また面倒なことになった。
だが、こういうときに面倒ごとが降ってくるのが俺の人生だ――そう思わずにはいられなかった。
***
「うわっ! リーダー久しぶり!
ってほどでもないけど……
ずいぶん長かったね、お疲れ様!」
ギルドの地下から1階に戻ってきた俺達をロッタが迎えてくれた。スキルの効果か、張り詰めた体が癒された気がした。
「ガイルは、ボーっと札を上げ下げしてただけだったけどね。何を疲れた雰囲気出してるよ」
シルビアがよけいなツッコミを入れてくる。
たしかに、そうかもしれないが、
いや、札を上げ下げするのは重労働なんだよ、うん。
「それで、なんだこの騒ぎは……」
「あー、あのね、ブロックが料理を作り始めたら
ちょっと色々あって……」
そう、今ギルドの1階はお祭り騒ぎの様相を呈してした。
「へい! いっちょうお待ち!
たくさん作るからどんどん食べて行ってよ!!」
ブロックが中庭で大量の料理を作り冒険者に振るまっていたからだ。
「ブロックのヤツ……
こんなに大勢に料理振るまって大丈夫か?
明日、腹痛でトイレに人があふれたりしないだろうな……」
俺は、ブロックのスキルの副作用が心配になっていた。あいつの料理は天才的だが、食べた後で腹痛を起こすことがあるのだ。
……あれ?そういえば最近腹壊したのっていつが最後だったか……
「ふむ……どうやら心配には及ばないようだ」
鑑定士の爺さんが背後から話しかけてきた。
「どういうことだ?」
「あの料理、薬草をふんだんに使ってある。
作る段階から腹痛対策が仕込まれておるわ」
……ブロックのヤツ、そんな工夫までしてたのか。
なるほど、腹を壊さなくなったのも納得だ。
「それにスキルの方も――
いや、ここで言うのはやめておこう」
爺さんが意味深に口をつぐむ。
「……どうせ『ここから先は有料』って
言うんだろが!」
「よく分かっているじゃないか。
成長しているな」
やっぱりだ!! このジジイめ!!
だが、そっちがその気ならこっちにも考えがある。
そう、今なら俺たちの手元には、金があるのだ。
「いずれやるつもりだったんだ。
だったら、この機会に全員まとめて鑑定依頼してやる!!」
覚悟しろよ、鑑定士!!




