第十一話「支部長の因縁」
「……追放された? 支部長が……?」
ミーナの声が石壁に響いた。
俺たちは言葉を失い、じっとその熊みたいな男を見ていた。
「そうだ。十五年前、俺がまだ駆け出しの頃の話だ。
奴は、俺のスキルを……まるごと奪っていった」
その声音には怒りよりも、深い悔しさの色が混じっていた。
鑑定士のじいさんも眉をひそめる。
「スキル奪取など、噂程度にしか聞いたことがなかったが……
本当に?」
「本当だ。俺のスキルは突然消えた。
その直後に、俺は仲間たちから“役立たず”と罵られ、
追放された……」
重苦しい沈黙が場を覆う。
俺は、自然と手の中の札を握りしめていた。
「ちなみに……支部長のスキルは?」
ミーナが問いかける。
たしかにそれは俺も気になるところだ。
「おそらくだが……
≪魅了≫だったはずだ!」
支部長の言葉が地下室に響き渡る。
……聞き間違いか?
なんだその似合わないスキルは!
あと“おそらく”ってなんだよ……!
「当時の俺は……もっとモテていた! 女性に!! それがあの時からぱったりとモテなくなったんだ! あいつに奪われたせいで……!」
「あいつは巧妙にすべてを隠し奪っていったんだ!! 当時の俺はまるで気が付かなかったが、今なら全てが繋がる!!」
……解散して良いだろうか。
「えーと、一応確認するわね。
質問、支部長の奪われたスキルは≪魅了≫である」
マジか、それを聞くのかシルビア……。
だが、その答えは意外にも――両者「〇」だった。
支部長が「よっしゃあ!」と壁に向かってガッツポーズしているのが見える。
「うわっ……二人とも〇なのね……それにしてもおじいちゃん、奪われたスキルまで鑑定できるなんて凄いわね」
「なに、これも年の功というやつでね。
使われたスキルの残滓まで読み取れるように鍛えたのだよ」
シルビアの問いに鑑定士の爺さんが答える。
……やっぱ本物だわ、この爺さん。
「それでつまりは……
そいつが今の黒幕ってことか?」
思わず声が漏れる。
支部長はゆっくりとうなずいた。
「名は……ゼノ。もとは俺と同じ、オーレアンの冒険者だった。
だが奴は、“力を欲する”あまりに仲間をも裏切った。
おそらく今もなお、他人のスキルを奪い続けているはずだ」
「奪ったスキルを自在に使えるなら、
≪魅了≫も≪魔物支配≫も説明がつきますね」
ミーナが冷静に言葉を重ねる。
「おそらくは、己のスキルをまだ把握できていない駆け出しの冒険者から、スキルを奪い取っていたのだろう。それならば誰にも気づかれない。……巧妙なことだ」
「そして、スキルを奪った後は、仲間たちを操って追放するって寸法ね。後にはスキルを失って本当に役立たずになった冒険者くずれが一人残るだけってわけ」
鑑定士の爺さんの分析に、俺たちは感心してうなずく。
そしてシルビアの考え方はだいぶエグイが……
おそらくそれが正解なんだろう。
シルビア……黒幕適性があると思うぞ。
「それなら確定しましょうか。
質問、黒幕の正体はゼノである」
ミーナの問いかけ。
その答えは――「〇」だった。
ようやく尻尾をつかんだぞ、黒幕ゼノ。
俺様にちょっかいをかけなければ、
正体を知られることもなかっただろうに……
馬鹿な奴だ。
「あとはゼノの持つスキルを洗い出して、居場所を特定。ギルドの総力を挙げて叩き潰せば一件落着ね」
もうここまで来れば勝ったも同然だな。俺たちは最後の仕上げとばかりに、また「〇」「×」札の上げ下げを再開するのであった―――。
***
「……なによ、これ……」
シルビアの声が震えている。
ゼノの所有スキルを探っていた俺たちも、言葉が出なくなっていた。
あれから結構な時間が経過していた。
最初はブロックの作った差し入れを食いながら、お気楽にスキル当てを楽しんでいた俺たちだったが――
時間が経つごとに、そのテンションはどんどん下がっていった。
理由は単純だ。実にシンプル。ゼノの持つスキルが――
「いくら何でも多すぎだろ……」
「しかも、とんでもないレアスキルばっかり……」
≪スキル強奪≫≪魅了≫≪魔物使役≫≪ダンジョンマスター≫≪全知≫≪剣聖≫≪全属性魔法≫≪スキル鑑定≫≪カウンタースキル無効化≫≪豪運≫……
一つ持つだけでも伝説になれそうなレアっぽいスキルだけでも、これだけある。
「おいおい、いくらなんでも欲張りすぎだろ」
支部長もあきれたように言葉を漏らすが、その表情は引きつっている。
「正面から戦っては、犠牲を出さずに勝利することは不可能でしょう。それどころか……勝てるのでしょうか、この存在に」
ミーナも不安の声をあげる。
だからなんで、そんだけスキル持ってて俺なんて狙うんだよ!
もっと世界征服とかやることあるだろ!!
「……というか≪全知≫とか持ってるくせに、俺程度に苦戦してんじゃねえよ!!」
俺はやけくそ気味に吐き捨てるのであった。




