第九話「鑑定士と危険な女たち」
「――鑑定の仕事で呼び出されたと思ったら、どういうことですかな! 事と次第によっては許されませんぞ!!」
ギルドの地下室で、俺が見たものは――ロープでぐるぐる巻きにされた例の鑑定士だった。
……シルビアのやつ、本当にやりやがった……!
***
牢屋からの逃避行があった日からしばらく、俺たちの周囲は不自然なほど静かだった。
今日もギルドに集まって、対策を話し合ってはいるが――
「もう黒幕も諦めたんじゃないの?」
シルビアまでそんな冗談を言ってくる。
だが――
”ビリビリッ”
「……やっぱ嵐の前の静けさ、ってやつだよなあ」
≪このまま何もしないで放置したら≫と考えてみても、やはり《危機察知》は反応する。そう簡単に休ませてはくれないらしい。
――俺たちだって、この数日遊んでいたわけでは無い、「何か動きがあるかもしれない」と街中で敵を誘うような動きをしていたのだ
「隊長、もう食べられないよぉ……」
「毎日スイーツ巡りしたら太った……」
……前言撤回、俺達はこの数日遊んでいた。巡回を言い訳におきらくなバカンス状態だった。
この、だらしない連中を見て分かる通り、結果、襲撃もなければスキルの警報もなし。気づけばただの食い倒れツアーになっていた。
「観光地のごちそうって、毎日食べると飽きるんだね……しかもハイカロリー……うう……」
ロッタが悲しげにお腹をさする。贅沢な悩みだ。
「……まあ念願のバカンスは楽しめたろ? 俺も胃もたれだが」
「でも、あまりいい流れじゃないわね」と、シルビアが腕を組む。
「ん? どういうことだ?」
「敵は力を溜めてるってこと。次に動くときは、こちらが耐えられないくらい戦力を集めてくる可能性が高いわ」
「……おい、やめろって。そこまでするもんか、普通……? 恨みでもあんのかよ。俺、わりと一般的なAランク冒険者だぞ? 黒幕も、もうちょっと生産的なことに労力使えよ……」
などと俺がぶつくさ話していると、シルビアとミーナが無視して顔を見合わせる。
「それで、ミーナ。例のモノは手配できそう?」
「苦労しましたが、どうにか明日には届く予定です」
まただ、あの二人だけで話を進めてやがる。俺は筋トレを始めたロッタとブロックの横で、それを見ているしかない。というかなんで筋トレ……?
「腹ごなし!!」
「ダイエット!!」
……その必死さは少しだけ見習いたい。
静けさが胃に重い。だから筋トレ。――うん、理屈はわからんが、気持ちはわかる。
「で、例のモノってなんだ?」
「それは明日のお楽しみということで」
「もうこうなったら手段は選べないわ……ふふ……」
ミーナとシルビアの“黒い”笑みが怖い。だが、スキルが反応していない以上、今はまだ大丈夫――たぶん。
***
などと言っていたのが昨日の事。
全然大丈夫じゃなかった。なんで鑑定士の人、拉致監禁してんの?
冷たい石の床と壁に囲まれた部屋の中央で、椅子に、鑑定士がぽつんと座らされている。
危機察知スキルは反応してないけど、そういうの置いといても常識としてダメだろ。一応、知り合いだぞ。どうせならスキル鑑定で再会したかった。
「素直に協力してくれれば手荒なことはしないわ。ふふ……」
シルビアは、もう完全に悪人のセリフを鑑定士に投げかけていた。
「もちろん任意同行です。ギルドの特例許可と、被験協力の同意書も取得済みです」
ミーナが事務的に補足する。……任意、なのか?この状況で?本当に?
「あいにくだが、スキルの情報なら漏らすことはできんぞ。私の意思でどうにかなるものではないからな。」と鑑定士の爺さん。
「その通りです。魔法的な守秘義務契約ですので、鑑定士からのスキル情報の引き出しは理論上不可能とされています。しかし――」
ミーナはそんなことは承知とばかりに答えたが……
「おじいちゃんはそこで座っていてくれればいいの……何もする必要は無いのよ。なにも……」
シルビアが不気味に、そして自信満々に答えた。
いちいち言動が怖いわっ!!
「――じゃあ、そんなわけだからガイルお願いね!」
「んな!?」
シルビアから突然話を振られて、俺はちょっと驚いて変な声を出してしまった。何がそんなわけだ!俺は何も聞いてねえぞ!!
「難しく考える必要はないでしょ。黒幕のスキル情報を引き出せれば私たちの勝ち、そうでなければ私たちの破滅。それだけのことよ」
「それだけって簡単に言うなよシルビア!? それに、このシチュエーションが気になって集中できねえよ!!」
「うーん、ダメ?」
「≪危機察知スキル≫の警報も鳴ってねえし、訳が分からんし。丸投げされても上手くいかんぞ。」
俺は混乱したままにシルビアに答える。
そうなんだよ、この頭おかしい状況で俺のスキルはピクリとも反応していなかった。シルビアが犯罪行為に手を染めたというのに……あいつにとってこの程度の犯罪は歯牙にもかけない程度ということか?え?怖っ!?
「…………っていう事らしいわ、おじいちゃん。どうしましょ」
「……んん??」
「……やはり演技ではダメか。それはそれで困ったことだな」
鑑定士は、それまでが何事も無かったかのようにロープをするっと抜けると立ち上がってそんなことを言い始めた。
「――私は“情報を言えない”。だが“君たちが導いた答えが正しいか”は、判定できる。危機は、本物でなければ鳴らない……いいだろう」
鑑定士はまっすぐ俺を見る。
「君のスキルで、私の鑑定を“動かして”みせてくれ」
もう訳が分からん。本当に誰か説明をしてくれ!!!




