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第八話「罠と俺様の勘違い」

 

 俺達は逃げる、ひたすらに。


 警報が鳴らない方角に、とにかく走る、走る。


 いつ終わるかもしれない逃避行。気を抜けば、次の瞬間には命を失っているかもしれないという緊張の連続。精神はとっくに擦り切れて、感情なんてとうの昔に麻痺していた。


 そんな俺たちを襲ったのは――唐突な声だった。



「馬鹿め!! 引っかかったな!!」



 甲高い怒鳴り声が空気を割く。

 俺は正直ヤバいと思った。敵の罠に掛ったんだと。


 警報に集中するあまり、周囲の状況をまるで確認できていなかったからだ。

 俺は声のする方に振り返り――


 ……振り返った先にあったものは、もがき苦しむ暗殺者の姿だった。

 背後で木柵が落ち、ブロックが肩を押さえつけ、ロッタの紐が足を絡めていた――音の正体はそれだった。


 ……あれ?


「よーし捕縛完了。お前らよくやってくれた。ギルドに持って帰って尋問するぞ。今度は逃げられんように厳重にしとけ」


 なんか、例の看守が指揮とってるんだけど、どういうことだ……?


 まあ、なんにせよ――俺たちは暗殺者を再度捕縛することに成功していたらしい。



 ***



「……よく分からんが、俺様の大勝利だ。異論は受け付けない」


「リーダーは何もしてないでしょー、ね、ブロック」


「で、でもビビって逃げる演技はプロ並みだったと思うよ!! 隊長!!」



 振り返るロッタとブロックの声は、どこか楽しげですらあった。うるさい、うるさい、こっちは何が起きたのかすら把握してねぇんだよ!


 まさかとは思うが――これ、俺たちの作戦だったのか?



「思った通りだったわ。魅了だか洗脳だかは知らないけど、操られた奴らの動きは単調になりがちなのよ」

「だからガイルを狙うことに集中したくなるシチュエーションを作れば――」


 シルビアの声は、どこか誇らしげだった。


「――ギルド側で罠を張ることが出来るわけです。さすがですね、シルビアさん。完璧な誘導でした」


「最初の襲撃から引っかかってたのよ、まともな判断があればクラウスたちがいる場所で襲い掛かってこないでしょ」

「ミーナもお見事だったわ。最初に決めておいた暗号が効いたわね。作戦コードはカスタード、迎撃ポイントはD-5ってね」


 ……おいミーナとシルビアよ、なんだその“できる女”同士みたいなやり取りは。

 俺だけ情報共有からハブられすぎだろ!? カスタードにD-5? というか俺様をエサにしやがったな!!


 ……まあ、俺様のおかげであることは間違いない。というか俺のスキルがここに導いたんだから俺様が捕まえたと言っても過言ではないな、うん」



 一方その頃、ロッタは捕らえた暗殺者に声をかけていた。


「あのねー、がんばって元に戻ろう? 君の中の優しさが、きっと――」



 必死に語りかけてはいるが、その顔はどこか煮え切らない。


「うーん、今日はあんまり効かない。命を狙ってくる人に“がんばって”って言うの、さすがに気が乗らないよ」


 どうやら、彼女の“応援”スキルも、状況によっては効き目が薄いらしい。万能に見えるようで、意外と気まぐれだな、あの能力。まあ、ロッタの人柄がスキルに反映されてると考えれば、妙に納得はできるが――


 ともかく、これでイーブン。ふりだしに戻った。


 《危機察知》スキルも今のところ沈黙を保っている。

 ようやく、ひと息つける時間が来た……かもしれない。


 ――ほんの少しだけでも。



 ***


 ギルドに戻り、捕らえた暗殺者の所持品を調べていたシルビアが渋い顔をする。



「駄目ね、何も手がかりになりそうなものは持ってない。」



「いえ、持っていないことが一つの手がかりになるということもあります。相手がどういうスキルを使っているか、そこから分かることも」


 ミーナの冷静な視点が、状況を分析していく。



「――合図を出すようなものも、命令書も無し。現場指示の痕跡ゼロ。なら遠隔で“行動だけ”上書きしてる、そういうスキルで決まりね」


「その通りです。ギルドの資料と照合すれば、黒幕の尻尾がようやく掴めるかもしれません」


 ミーナの言葉に、わずかな希望が灯った……ように思えた、のだが。



「資料に載ってなければ?」


 ……おい、希望を差し出した直後にその手を引っ込めるんじゃねぇ。



「……スキル鑑定をしている可能性も高いと思われますが、守秘義務契約を結んでいるようでしたらギルドとしてはお手上げですね」


 ……結局ダメじゃねえか!!



 ズッコケたくなるほどの絶望的オチだ。せっかくの希望が、思いっきり踏みにじられた感覚。俺たちの小さな勝利が、一瞬で不安に塗り潰されていく。


 心のどこかで思っていた。“これで一件落着”だと。


 甘かった。世の中、そんなに都合よくはいかない。黒幕は、やっぱり一筋縄じゃいかないらしい。


 ま、難しいことはシルビアのヤツに任せておけば何か考えてくれるだろう……



「……鑑定士を拷問にかけて口を割らせるとか―――」


「鑑定士は貴重なのでご容赦ください」



 ……前言撤回。こいつもだいぶ容赦なくなってきてるわ。任せっぱなしは――ピリピリ。やっぱりお前もそう思うか危ないよな。


「た、隊長が一人でわけわからないこと言ってるよ、ロッタ、助けて!!」


 ち、違!? 精神異常じゃねえ! ロッタもそんな顔で俺を応援してくるなー!!

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