第六話「攻めなきゃジリ貧」
「……どうやら、隠れて防御を固めても無駄ってことみたいね」
シルビアが腕を組み、真顔で言い放つ。
「申し訳ございません。襲撃犯は、厳重な警備をすり抜けて奪還されました。ギルド内部にいても、安全とは言えません」
ミーナの報告に、応接室の空気が重くなる。窓の外のざわめきが遠のき、ブロックが背もたれに深く座り直した。
「……牢屋にでも入れば安心?」
「……最後の手段としては有効かもしれませんね」
ブロックの突飛な発言に、ミーナが若干真剣に受け取って答える。ちょっと待て、それは冗談で済ませてくれ。ロッタが苦笑して肩をすくめた。
……つまり、街にいてもギルドにいても、どこにいても俺たちは狙われる。完全な安全地帯なんてないってことか。胸の奥が微かにチリつく。《危機察知》か、ただの緊張か、判別しづらい。
「それで……襲撃犯からは何も分からなかったのか?」
「ええ、尋問前に逃げられてしまったもので……ですが――」
俺の問いに、ミーナは資料束を胸の前で揃え、ほんのわずか躊躇してから答えた。
「これは内密にお願いします。彼らは、実績あるAランク冒険者でした」
「はあ!? Aランクだと!?」
「ええ。こんなことをするとは到底思えない人物たちで……つい先日のスタンピードにも、普通に参加していたんです」
机に置かれた名簿の該当行には黒線が引かれている。
「うわっ、ますますヤバいやつね」
シルビアが顔をしかめる。
「え、どういうこと?」とロッタ。
「今回の襲撃、色々雑なのよ。奇襲としては大胆すぎるし、クラウスたちがいることにも気づいてなかったみたいだし。まるで“使い捨て”にされてるみたい」
「たしかに、以前から裏切るよう仕込まれてたにしては扱いが……粗すぎるな」
俺は襲撃された時のことを思い出しながらシルビアの言葉にうなずいた。
「もし本当に事前に仕込んでたなら、スタンピード中に裏切らせた方がよっぽど効果的だったでしょうね」
「……まさか、スタンピードのあとに“支配下に置かれた”とか?」
ミーナのつぶやきに、室内の空気が一変した。ロッタが息を呑む。
「それこそ、あり得ない話ではありませんか。この短期間で出来るとは思えません」
「そう、“あり得ない”のよ。普通ならね」
シルビアが静かに言う。指先で机を一度だけ叩き、皆の目を集めた。
「でも、それを可能にするようなスキルを持っていたとしたら――」
「……“強制支配”系のスキルか」
「たとえば、魅了、洗脳、あるいは“命令”に近いスキル。ギルドでは原則として禁じられてるし、所有者の存在も明らかにされていない。でも……」
でも、もし黒幕がそれを手にしていたとしたら――。背筋に冷たい汗がにじむ。
「それってつまり、こっちの仲間すら簡単に裏切らせられるってことじゃん!?」
「いえ、それに関しては対処できます」
ミーナがすぐに否定する。扉の外に目配せすると、補助役の職員が慌ただしく走っていった。
「精神異常耐性を付与する魔道具はギルドに常備されています。すぐに各有力パーティに配布を開始します」
「ふむ、それなら一つは対処完了ってことね。どう、ガイル? 警報は?」
俺は少し目を閉じ、呼吸を二つ数えてから感覚に集中する――が。
「……まだ、鳴ってる」
首を横に振る。弱い痺れが、一定の間隔で続いていた。
「じゃあ、もう防御を固めるのは意味がないってことよ、警報が鳴らない場所に逃げ続ける方が、まだマシ」
シルビアがぽつりと呟く。言葉は乾いているが、決断は速い。
「逃げながら“敵の手の届かない場所”を探すってことよ。ガイルのスキルを使えば、見つけられる」
ああ、俺も最近やっとわかってきた。地図を脳裏に思い浮かべる。人通り、死角、見張り台。《危機察知》の反応を元に、安全地帯を探して歩けばいいんだ。
そう、つまり――
「――オーレアン観光の再開だ!!」
「「おおー!!」」
ロッタとブロックが元気よく拍手してくれる。ミーナは困ったように笑い、シルビアは肩をすくめた。
このノリよ。どこまでも明るいな、お前ら。
「……でも、敵からすれば、全力で殺しにいってる相手が遊び回ってるって、めちゃくちゃムカつくでしょうね。ふふ、いいかも」
シルビアが妙に楽しそうに笑っている。怖い。
「隊長なら、また美味い店に連れてってくれるって信じてるよ!」
「ブロック、任せとけ!!」と俺は拳を握った。拳に力が入るのを自分で確かめる。
「本当に大丈夫なんでしょうか……?」
ミーナは不安げだが……ギルドはギルドで敵のスキル対策を頼む。
俺たちは――街を練り歩くぜ!
***
だが数時間後、俺達は結局牢屋の中に居た……
「……納得いかねぇ!!」
ブラッドウルフ隊の“攻勢”は、まさかの牢屋スタートとなったのであった。




