第四話「それは俺の危機じゃなかった」
「クラウスさんたちは?」
「副リーダーは一緒にギルドに来そうだったが丁重にお断りしておいた。……デートの邪魔はしたくないからな」
「……やっぱりデートだったのね……でも副リーダー、アナスタシアさんはその気はなしと、不憫ねクラウス」
そんな会話をしながら、俺たちはギルドに戻ってきた。
というか副リーダーってそんな名前だったのか、初めて知ったわ。
例の襲撃者は、すでにギルド職員に引き渡され、取り調べを受けるらしい。襲ってきた奴らは、見たこともない顔だったし、心当たりなんてあるわけがない。
――つまり、ガチの暗殺者で命を狙われてたってことが、完全に確定したわけである。
「はあ……俺の人生、いつからこんな物騒になったんだろうな……」
などとぼやいていたら、
「隊長! 香草焼き、テイクアウトしてきましたよ!」
「お、お前、いつの間に……」
ブロックが誇らしげに紙包みを差し出してきた。
ちゃっかりすぎる……が、グッジョブ!!
いや、複雑だ。命を狙われてたのに、めちゃくちゃ良い匂いがするのがムカつく……。
「で、ガイル。まだ警報は……続いてるわよね?」
シルビアの問いに、俺は無言でうなずいた。
残念ながら、《危機察知》の警告は――変わっていなかった。
一度の暗殺失敗程度では諦める気はサラサラないってことだろう。
「それにしても、“鶏肉の香草焼き”うめえ……!」
「ガイルさん、すごい状況なんですから、もう少し緊張感を……」
ミーナが呆れたように言うが、違うんだよミーナ。違うんだ。
「こんな状況だからこそ、食わずにいられるかってんだよ」
「心が胃袋にあるタイプ……!」
「よく言われる」
「……それにしても」
香草の香りを楽しみながら、シルビアがぼそっとつぶやいた。
「街中で、堂々と襲ってくるなんてね。しかも、たぶん私たちより格上……」
「たしかに」
俺も、残っている僅かな香草焼きをつまみながら言う。
「スキルの警報の感じからすると、あれは本物だった。
クラウスたちがいなかったら、正直、無事じゃ済まなかったと思う」
「さ、さすがにそんな暗殺者をポンポン出してこられることは……ないよね?」
ロッタが不安を隠すように笑っている。
「念のため、ガイルさんには当面、護衛をつけていただくとして――
できるだけギルドから出ないようにしてもらった方が良いかと」
ミーナが冷静に判断を下す。そりゃそうだ、命がかかってるからな。
「まあ、こういう状況だから……仕方ないな」
「大丈夫!外に出れないリーダーのために美味しいもの一杯買って帰ってくるから!」
「というわけで、隊長の分まで、俺たちが街を歩いて調査がてら食べ歩いてきます!」
ロッタとブロックが満面の笑みで言った、まさにその瞬間――
ビリビリビリビリビリッ!!!
俺のスキルが激しく警報を発していた―――
「お、おい、待てブロックーーーこれは―――!」
「……このタイミングで来たのね」
シルビアが冷静に口を開いた。
「ガイル、私たちは薄々気づいてたんだけど……あなたのスキル、たぶん――」
「私たちが“人生の危機”に陥っても、反応するのよね、《危機察知》スキル」
「…………は?」
言葉が、出なかった。
「つまり、さっきのビリビリは“ブロックとロッタが街に出ること”に反応した。
それってつまり――彼らに何か起こる可能性が高いってこと」
「ちょっ、待てよ。それじゃあ……」
「今までの“ビリビリ”も、全部、あんた自身の危機じゃなかった可能性、あるわよ? もしくは―――」
「もしかして、私たちが居ない人生なんて意味が無いって本気で思ってるとか?」
「ええっ? 隊長にそんな風に思われてたんだ俺!」
「いやいやいやいやいやいや待て待て待て!!」
「そういえば、スタンピードの時に結んだ契約も”発生した被害をシルビアさん、ロッタさん、ブロックさんで賠償する”というものでしたね」
「な、なんだよ、それ!!聞いてないぞ!!てっきり俺の人生の破滅だと思って――」
「あ、言い忘れてたわ、ごめんね」
シルビアがなんでもない事のように、手をヒラヒラさせながら軽く答えた。
「いや、そんな軽い話じゃないだろ、俺が、俺のスキルが仕事しなかったらお前たちの人生破滅だったんだからな!」
「でも大丈夫だったでしょ。私たちリーダーを信じてたからね!」
「うん! 隊長ならなんとかしてくれると思ってた!!」
ロッタとブロックも俺に対する信頼を口にする……ちょっとだけ感動した。
「まあ、私たちに発動しないようだったら、ガイルが全部賠償する内容に変更する気だったけどね。」
「「ええ!?そうだったの!?」」
やっぱシルビアは怖ええ、あとロッタとブロックは詐欺にあわないように注意してやらねば……!
そして同時に俺は頭を抱えた。
《危機察知》は俺の命じゃなくても反応する。
つまり、俺は――コイツらを見張ってないとダメなスキルだったのか。
(……あれ? これ、もしかして前より面倒くさくなってね?)
こうして、“俺の危機”から“仲間の危機”へと真相がズレていく中で――
俺の平穏な日々は、さらに遠ざかっていくのであった。




