第三話「胃袋は真実を暴く?」
「じゃあ、ガイル。このパンフレットを見て、行きたい場所を選んでちょうだい」
シルビアの指示に、俺は思わず「は?」と声が出た。
「行きたい場所って……おい、本当に調査する気あるのか?」
「もちろん。ガイルの《危機察知》は、行く前から反応するでしょ」
とシルビア。今日も何だか妙にやる気だ。怖い。俺のスキルを良いように使うのが快感になってねえか、コイツ……
「なら、反応が出ない場所=安全、ってことよ。逆に、そこにヒントがあるかもしれないわ」
「……合理的だけど、納得はしたくねぇ……」
「はいっ!」
ロッタが元気よく前のめりになる。
「リーダー、わたし、ここと、ここと、あとこれと、そこがおすすめだと思うんだけど!」
「お前のそれは完全にグルメマップじゃねーか!」
「バカにしないでください! 胃袋はね、真実を見抜くんですよ!」
「いや、それただの食欲だよな!?」
「……それでも反応が出なかったら、本当に“何か”があるかも」
シルビアが真顔で言った。やめて、怖い理屈で正当化しないで。
仕方なく、俺はパンフレットを受け取った。
あくまでスキルの反応を見るだけだ。俺が行きたいとか、そういうのじゃない。
……と言い訳しながらも、パラパラとページをめくっていく。
(……変化なし、変化なし、まったく反応なし……)
《危機察知》は基本、未来に起こる危険に対して反応する。店を見ただけで反応するってのも変な話だが、このスキル、どうやら「関係のある場所に反応する」らしい。
で――
(……?)
他とは違う反応があった。
ここと、さっきのあの店……スキルの反応が消える感じがある。
「……あー、えーとだな。ここと、ここなら良いんじゃないか」
選んだ店を指差して言うと――
「え!? 本当に!? ありがとうリーダー!!」
ロッタが両手をガッツポーズで掲げた。
……ああ、くそ。よりによってお前と丸かぶりかよ。
「やっぱり胃袋は真実を見抜くんだよ!」
「いや、ブロック、お前……いや、なんでもない……」
「というわけで、そのお店に行ってみましょう」
ミーナが地図を確認しながら言う。
「少なくとも《危機察知》の反応が強くないってことは、すぐに命を狙われるようなことはないはずですし。なにか、解決につながるようなことがあればいいんですが――」
*****
店は、街の外れにある落ち着いた雰囲気の料理屋だった。
老舗らしく、店構えにも味がある。ちなみに“鶏肉の香草焼き”が名物らしい。ブロックは入店直後からヨダレを垂らしていた。やめろ汚い。
「いやー、さすが名店……この皮のパリパリ感、たまりませんなー」
「うん、やっぱり胃袋は裏切らないね!」
「だからそれただのグルメ談義だっての……」
それでも、《危機察知》の警報は――今のところ、鳴っていない。
(やっぱり、ここは安全……なのか?)
そんな矢先だった。
――チリッ。
(……!)
背中がぞわりとした。感覚に慣れてきた今ならわかる。
これは、“実際に命が狙われたとき”にだけ鳴る、本物の警告。
(マジか……こんなタイミングで!?)
すぐさま周囲を警戒する。
テーブル、隣席、通路――いや、店の奥、入り口、天井まで。
(姿が……見えねぇ!? でも確実にいる!!)
「……ロッタ、ブロック。動くな。店の奥から、何か来る」
二人がピタッと動きを止めた。シルビアもすでにナイフに手をかけている。
だが――
「うわっ、危なっ!」
ドンッ!
俺の背後から何かが飛び出した。振り返った瞬間、風を切る音が耳元をかすめた。
短剣!? どこから――
「下がれ、ブラッドウルフ!」
聞き覚えのある声が店内に響いた。
「……クラウス?」
その声と同時に、カウンター席から立ち上がったのは、エリュシオン・ブレイズのリーダー――クラウスだった。
彼だけじゃない。以前にお世話になった副リーダーもいる。これは勝ったな……!
「暗殺者か……堂々と毒も使わずとは、随分ストレートだな」
「この僕から逃れられると思ったか? 甘いな!」
クラウスが店の隅に手を伸ばすと、そこには気絶したフード姿の男が転がっていた。
「もう一人も片付いた」
副リーダーのドレスには、血のひとつもついていない。―――というかドレス!?
美しい笑顔で、さらりとした報告。怖い。
「……たまたまここでお昼を食べに来ただけだったけど、偶然にしては、運命的だったね」
クラウスが肩をすくめる。
「いや、マジで助かった……」
俺はため息をついた。あと、副リーダーって女性だったんですね、もしかしてデート? いや、まあそんなことは良いんだが――
……結論から言うと、《危機察知》スキルは間違っていなかった。
選んだ店は「戦力がそろっていたから安全」だった。だが、完全に安全ってわけじゃなかった。
あと――
俺、マジで命狙われてんじゃねーか!!!
……黒幕、てめぇマジで出てこい。
いや、やっぱ出てこなくていいからもう二度と関わってくるな……!
胃袋は真実を暴く。確かにそうかもしれないが――
真実が“命を狙われてる”っていうのは、ちょっと笑えなかった。




