第六話「地下の兆しと支部の決断」
「……つまり、スタンピードの兆候は“地上”ではなく、“地下”にある可能性が高い、ということですね?」
ギルド支部の仮設執務室で、支部長代理のミーナ=クレイスが腕を組みながら、真剣な眼差しで俺たちを見据えている。
昨日の夕方、俺たちは地下通路の存在を確認し、その足でギルドに報告した。俺のスキル《危機察知》は、あの場所で確かに反応していた。警報が消えないということは、“何か”が近づいている証拠だ。
「ああ。瓦礫の下に、明らかに整備された地下の通路があった。で、そこへ足を踏み入れようとした瞬間――俺のスキルが反応したんだ」
いつものように「なんかビリビリきた」なんて軽口は言えない。
あのときの反応は、ハッキリとした“拒否”だった。
行くな、って言われてる感覚だった。
「……通路自体が危険、と?」
「その可能性もある。でも“今すぐ入ったら死ぬ”って感じじゃなかった。どちらかというと……“そこに何かが来る”、そんな予感だった」
「なるほど。つまり、その通路が敵の進行ルートになっている可能性があるわけですね」
ミーナは書類に目を落としながら、しばらく無言で考え込んでいた。
手を伸ばしかけた書類に何度も触れかけては、止める。
やがて、静かに言葉を紡いだ。
「まずは地下通路の構造を調査しましょう。もし地図にない旧時代の遺構だった場合、状況はさらに深刻です。調査班は本日中に手配します」
「それと、俺のスキルで“この先は危ない”ってラインが測れるかもしれない。正直、そういう使い方は試したことないけど……やってみる価値はあると思う」
「上等です。あなたのスキルが有効だった事例は、すでに他の支部でも報告されていますから」
「……マジか。そこまで共有されてるのかよ」
「ええ。あなたの名前つきで。ご安心を、面白おかしく伝わってはいません」
ミーナの言葉には冗談っぽさもあるが、目はずっと真剣だ。
「もうひとつ。地下通路の発見現場は封鎖を進めていますが、都市部だけに地下構造が広範囲に広がっている可能性がある。避難経路や防衛ラインの再編も必要ですね。……街の中に敵が現れるなど、想定していませんでした」
俺たちは黙って頷いた。
スタンピードが地上ではなく、地下から都市へ侵入してくるとすれば――
いくら外に防壁を築いても、意味がない。
「じゃあ、明日からじゃなくて、今日のうちに調査に出るわよ。準備は入念にね」
シルビアがきっぱりと言い、俺たちは支部を出た。
外に出た瞬間、俺は空を見上げた。
厚い雲が広がっている。まるで、嵐の前の静けさ――いや、すでに嵐は始まっているのかもしれない。
それでも、まだ終わったわけじゃない。
俺のスキルは、今のところ“最悪の未来”を示していない。
「……ギリギリかもしれねぇけど、やるしかねぇな」
自分にそう言い聞かせて、歩き出そうとしたとき――
「ねえ、ガイル。ちょっと試してみたいことがあるんだけど」
シルビアが、ニヤッと笑った。
「ん? まあ、いいけど……?」
そのときの俺は、軽くOKを出したことを、あとで猛烈に後悔することになる。
***
「――というわけで、スタンピードで街に被害が出たら、ガイルが全部賠償するって契約を結んできたわ!」
「ちょっと待てえええ!!」
シルビアの爆弾発言に、俺は本気で叫んだ。
頭の中では、スキルの警報がこれでもかと鳴りまくっている。
「もし失敗したら、社会的に死ぬわよ。でも、それがイヤなら……全力で、警報が“鳴らない”方へ走りなさい!」
「はあ!? 何だ、その無茶苦茶な理屈!」
「追い詰められた状況でこそ、スキルは新たな使い方に目覚めるって、シルビアが言ってたよー」
「シルビアは鬼畜だなあ」
ロッタとブロックは、完全に他人事みたいな顔で俺を煽ってくる。
でも、俺もだんだん理解してきた。
つまり――
“スキルが反応しない方向に、全力で進めば活路が開ける”ってことだな?
「――ならやってやろうじゃねえか!! ちくしょう!!」
「だから最初からそう言ってるでしょ! さあ、時間ないんだから早く行くわよ!」




