表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/64

第五話「手探りの備えと、答えのない正解」

 

 何もしなければ危険になる――。



 それだけは、俺のスキル《危機察知》が確かに教えてくれていた。


 だが、それ以上は何もわからない。「危ない」ことはわかっても、何が危ないのか、どうすれば避けられるのかまでは教えてくれない。それがこのスキルの限界だ。もやもやした不安が、胸の中でじわじわと膨らんでいく。



「それで、どうすれば“スタンピードが起きない未来”になるのよ?」


 隣で腕を組んでいたシルビアが問いかけてきた。



「……いや、スキルは“ビリビリ鳴るか鳴らないか”だけでさ……やり方までは教えてくれねえんだ」


 俺は苦い顔で答えるしかなかった。曖昧すぎる未来の危機に、手応えのない答えしか出せない。



「――なら、そうね……、防備を強化した未来を想定してみて。スキルの反応は?」


 言いながら、シルビアは空中に地図を描くように指を動かす。頭の中で未来をシミュレーションしているらしい。


「うーん……変わらない、かな」



「じゃあ次。住民の避難を進めた場合は?」


 次々と仮定を重ねていく彼女のペースに乗せられるように、俺もスキルの“感じ”に意識を集中させる。


「……お? なんかちょっと反応がマシになった気がする……かも」


 反応の違いはわずかだったが、確かに違いはある。俺の胸の奥でビリビリと鳴る警鐘が、ほんの少し弱まったような――そんな感覚があった。



「やっぱり反応に変化あるんだ。だったらこうやって試すしかないわね。“こうしたらどうなるか”って、未来を仮定して、スキルの反応を見るの」


 シルビアはわずかに口元を引き締めた。


「……予知ってより、未来の地雷を探す感じか」


 皮肉めいた一言が口をつく。まるで見えない地雷原を、棒でつつきながら歩くような気分だ。



 というわけで、俺たちの“手探りの未来チェック”作戦が始まった。


 仮想未来をいくつも思い浮かべて、スキルの反応を確かめる。

 一つずつ地道に、“こうすればマシかもしれない”を拾い集めていく。


 試行錯誤の末、実際に街の防備を補強し、避難経路の点検も行った。

 市民向けの簡易訓練も手伝ってみた。あらゆる可能性に備えるため、やれることはすべて試す。



 だが――


「多少は良くなってる気もするけど……決定打にはならねぇな」


 休憩中、俺はぼそりとつぶやいた。



 ***



 夕方。俺たちは西門の壁にもたれ、風に吹かれながら一息ついていた。


 赤く染まる空。少し冷たい風が汗ばんだ首元を撫でていく。

 缶の水を分け合いながら、無言の時間が流れていた。



「……で、危険な未来は、まだ続いてるんでしょ?」



 水を飲み終えたシルビアが問いかけてくる。



「ああ、スキルはずっと反応したまま。何かが、確実に来るって感じだ」


 反応は少しマシになった程度。“完全に安全”な未来には、どうしても届かない。



「……変ね」


 ぽつりとシルビアが呟いた。


「ここまでやっても効果が薄いなら、もしかして――そもそも方向が間違ってるのかも」


 言われてみれば、その通りだった。


 俺たちは“外からの襲撃に備える”ことに集中してきた。

 でも、本当にそれだけでいいのか……?



「……そういや、ブロックはそれ、何してんだ?」


 ふと気づくと、ブロックが地面に膝をつき、黙々と地面を調べていた。



「穴、確認してる。誰かが転んだら危ない」



 一見地味な作業だが、その姿勢には真剣さがにじんでいる。


「……もしかして“転んで大ケガ”とかも、スキルで察知されるのか?」


「それ、けっこうありそうね。防備とは別ベクトルで危機じゃない?」


 シルビアが冗談めかして笑ったが、その声にも少し疲れがにじんでいた。


 と、そのとき。


 俺がブロックの方へふらっと近づいた瞬間――



 ズボッ。


「おわっ!?」



 突然、右足が地面に沈み、俺は盛大に転んだ。

 背中を強打し、しばらくの間、息が止まる。


「おい、誰だ! こんなとこに穴なんか……!」


「ごめん、確認してる途中だった」


 ブロックが申し訳なさそうに手を挙げた。


「確認中ならせめて埋めとけよ……!」



「……大丈夫? 案外これが未来の危機だったりして?」


 ロッタが笑いながら俺の足元を覗き込む。



「……あれ? でもこれ、ただの穴じゃないかも……」



 瓦礫の下に、整った石の表面がちらりと見えた。


「……おい、これって……石畳? 通路か?」


 俺も地面に目を凝らす。


 確かに、雑に埋められたような跡の中に、人工的な構造物の一部が見えている。


 全員が固まった。



「もしかして……地下通路……?」



 沈黙。

 誰もが、思いもよらなかった可能性に気づき、言葉を失う。


 西の空は赤く染まり、日が落ちかけていた。

 でも、俺たちはようやくひとつの“入口”を見つけたばかりだった。


 スタンピードの脅威は、地上じゃなく――地下にあるかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ