表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/64

第二話「緊急事態はブラック労働」

 緊急依頼を告げられた俺たちは、夜通しで準備を整えさせられ、スタンピードが起きているという北方の都市オーレアンへ向かうことになった。


 予定では、ギルドの用意した移動スキル持ちの力によって、とっくにオーレアンに到着している――はずだったのだが。



「……移動スキル担当が過労でダウン中につき、回復まで今しばらくお待ちください!」



 ――用意されていた移動系スキル持ちが、完全に体力切れを起こしてしまったのだ。


 ギルドの控室には、妙な沈黙と疲労感が漂っている。本来なら、今ごろは現場に直行しているはずだった俺たちは、ソファに沈み、ぐでーっとしていた。



「……俺たちも徹夜だったけど、移動スキル持ちも不眠不休で働かされてたって話だろ。さすがにブラック過ぎんだろ、これは」


 ぼそっと呟いた俺に、ギルド職員のサラが心底申し訳なさそうに頭を下げてきた。



「すみません、本部の方針で、“行けるところまで行ってみよう”って……」


「やっぱロクでもねぇな、ギルド本部……」


 誰もうなずきはしない。ただ、無言で虚空を見つめていた。



 先天スキル持ちはそれなりにいるが、移動系のスキルはとにかく貴重だ。ギルドが抱え込んで酷使しているのも、まあ事情としては理解できる。……理解はできるが、限度ってもんがある。


「ブラック労働を受け入れられるくらい報酬が良いのか、それとも……」


「移動スキル持ちは、ドMが多いって説があるな」


「どこ情報よ、それ」


「今、俺が創った噂だ。信じるな」


 そんなくだらないやり取りをしていると、シルビアが隣のロッタに視線を向けた。



「ねえロッタ、アンタ行ってきなさいよ。あんたのスキル、応援で元気にする系なんでしょ?」


「え、わたしが……? ほんとに応援だけで回復するのかな……?」


「やってみて損はないでしょ。さ、ほら」


「う、うん……!」


 ロッタはちょっと不安そうな顔をしながらも、移動士のもとへ駆けていった。




 ***


 ロッタの背中を見送ったあと、控室には再び沈黙が戻る。俺たちは資料を膝の上でもてあそびながら、ぼんやりと時間をやり過ごしていた。


「……で、現地の様子は?」


 シルビアが資料の端をつまみ、気だるそうに斜め読みしながら聞いてくる。


「中型から大型まで、ざっと数百体。しかも指揮系統付き。……ま、クラウスたちがなんとかしてくれるだろ」


「はいはい、“伝説級”ですもんね」


 俺は思わず天井を見上げて、深くため息をついた。


「……俺たちが普段狩ってるのなんて中型止まりだぞ。山盛り出されたって困るわ」


「ギルドも本気で切羽詰まってるのね。猫の手も借りたいって、こういう時のための言葉だったのね」


「どうせなら、休み取って猫と戯れていたかった……」


 シルビアが小さく笑いながら資料をぱたりと閉じた。


「……この依頼さえなければ、休暇だったのに」


「もう、俺のスキルが“ささやく”から帰ります、って言ったら通らねぇかな」


「それ、即クレームよ。本部から」


 ふたりして再びソファに沈み込み、ダメな空気が定着していく。


「……そういやさ、クラウスの人脈で他にも増援を集めてるらしいぞ」


 思い出したように言うと、シルビアが肩をすくめた。


「さすが伝説級。人脈も伝説ってわけね」


「俺たちのやる気も営業して集めてくれよ……」


 ぼやきながら、俺たちはどっぷりと控室の空気に染まりきっていった。



 ***


 その時、控室のドアがノックされる。


「移動スキル担当、回復しました! ただいまより転送の準備に入ります!」


 サラの弾んだ声が響き、俺たちは顔を見合わせた。


「……早すぎないか?」


「ロッタ、何したんだ……?」


 サラの横で、ロッタが小さく手を振っている。


「えへへ、思ったよりうまくいっちゃった!」


 その笑顔に、俺はぽつりとつぶやいた。


「……あいつのスキル、やっぱハイスペックだな。今さらだけど」


「ほんと、うちらにはもったいないくらいだわ」


 シルビアも、呆れ半分・感心半分といった顔でロッタを見る。


 そうこうしているうちに、控室の外が慌ただしくなってきた。


「皆さん、お待たせしました! 転送陣の準備ができましたので、集合をお願いします!」


 サラの元気な呼びかけが響く。


 ――こうして、俺たちの時間は、再び慌ただしく動き出したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ