第三話「やっぱりお前はお荷物だ!」
「――俺様たちは、失敗した。やはりあの時シルビアが言う通りに護衛の依頼なんか受けずに調査にしておけばよかったんだ、すまないシルビア、こんなことになるなんて……」
「……という展開にならないか心配してたんですが」
「はっ、心配ご無用。俺様の護衛は百戦百勝だ。依頼主は今ごろ感涙してるに決まってる」
「……結構手数がギリギリだった時があったような……あの、話、聞いてます?」
シルビアが呆れた顔をしているが、護衛依頼は俺様の華麗な采配で大成功。無傷で完了していた。細かい不安など、俺様の辞書には存在しない。
*****
ブロックが三日間の休暇に入ってから二日目。
俺たち「ブラッドウルフ隊」は、三人で商隊護衛の依頼をこなしていた。
元々、危険なルートを少数で護衛するという高難度の依頼――だが俺様にかかれば話は別だ。
「ロッタ、後方注意だ! この感じ……連続でくるぞ!」
俺の≪危機察知≫スキルが、後方からの魔獣群、さらに少し遅れて前方からの突撃まで告げてくる。
茂みが揺れ、牙と爪をむき出しにした魔獣が次々と飛び出した。
想定以上の数だが、分かっていれば十分対処できる。
「もう少ししたら前からも来る! 孤立するな、隊列を死守しろ!」
「シルビア、前方の馬車を結界で囲め! ロッタ、後方の群れをまとめて焼き払え! 残りは俺が――!」
俺は駆け出し、抜刀の勢いのまま一体を斬り伏せ、跳びかかってきた二体目を盾代わりに叩きつけて弾き飛ばす。
前方でロッタの炎が爆ぜ、後方を焼き払う熱気が駆け抜けた。
結界の内側、商人たちはただ唖然と見ている。
「――よし、想定通りだ。俺様の指示に従えば、負けはない!」
胸を張る俺様。その通り、ピンチなど存在しなかった。
*****
その夜、ギルド酒場はいつも以上に賑わっていた。
久々に「ブラッドウルフ隊」四人そろっての宴。
三日前、ブロックに休暇を命じて以来、これが再集合の乾杯だ。
「いやー、やっぱりパーティで飲む酒は最高だな!」
ブロックがにこやかにジョッキを掲げる。顔色も声もすっかりリフレッシュしている。
シルビアは涼しい顔でグラスを傾け、ロッタは楽しそうに笑っている。
俺様もご機嫌だ。
なにせこの三日間、ブロック抜きでも依頼は大成功。
俺の≪危機察知≫スキルで襲撃を事前に察知し、華麗に捌いた。
報酬も上々、ギルドの評価も上がったに違いない。
(やっぱり俺様がいればパーティは安泰だ。盾役なんて必要なかったんだ)
「ガイル、あの時の判断すごかったよ!」
ロッタが目を輝かせて褒めてくる。
「当然だろ。俺様の≪危機察知≫は絶対だからな」
鼻高々に答える俺様。
「でも、ちょっと無茶はしすぎないでくださいね」
シルビアが釘を刺してくるが、今日は何を言われても気分がいい。
一方ブロックは、「休暇中に山を登って温泉にも入って――めちゃくちゃリフレッシュできた!」と無邪気に笑っている。
……その笑顔が、なぜか少し癇に障る。
(せっかくパーティがうまく回り始めたのに、ここでお荷物を戻すなんて……)
(今度こそ、今度こそ――)
ジョッキをテーブルに置き、俺はブロックに向き直った。
「……ブロック。お前に話があるんだが――」
――その瞬間、
頭の奥でビリビリビリッ!!
まるで雷に撃たれたような強烈な警告が走る。
(またか……! なんでだ!?)
≪危機察知≫スキルだ。命の危機、人生の破滅、あらゆる“やばい未来”を察知しては、無慈悲に警報を鳴らす俺の優秀で厄介な相棒。
(この三日間、あいつ抜きでもうまくいった。追放しても問題ないはずだろ? 何がまずいんだ……?)
「いや、でも今なら……」
「いや、今度こそ……」
心の中で何度シミュレーションしても、ビリビリとした感覚は消えない。
(シルビアか? ロッタか? それともブロック本人? ……まさか、また俺の知らない何かが――)
視線の先、ブロックは笑顔。シルビアもロッタも穏やかに酒を飲んでいる。
だがスキルは確かに警告していた。
(……仕方ねえ。ここは様子見だ。この嫌な予感が消えるまでは動かない)
「……なんだ、ガイル?」
ブロックが首をかしげる。
「いや、何でもない。ただの酔いだ。明日からまた頑張ろうぜ」
(ちっ、スッキリしねぇ……)
こうして俺様ガイルは、今夜もまた追放宣言を引っ込め、
しばらくブロックの動きを観察することに決めたのだった。