第十話「まさかの鑑定士」
第二章 第十話「まさかの鑑定士」
「――じゃあ、始めるよ。みんな、心の準備はいい?」
俺たちブラッドウルフ隊とクラウスが、テーブルを挟んで向かい合う。
まさかスキル鑑定をクラウス本人がやる流れになるとは思ってなかった。
* * *
事の始まりは、ギルドのカウンターだった。
俺たちはロッタのスキルを正式に鑑定してもらうため、サラに手配を頼んでいたんだが――
「申し訳ありません……。今、スキル鑑定士は全員他所に出払っていて、すぐには呼べません……」
サラが困った顔で頭を下げる。
ロッタはしょんぼり、シルビアも「あ~あ」と肩を落とし、ブロックはなぜか「晩飯どうしようかな」と、すでに気持ちを切り替えていた。
その時、背後からやたら爽やかな声が飛んできた。
「やあ、困ってるなら僕が手伝おうか?」
振り返ると、そこにいたのは例のクラウス。しかも満面の笑みでこっちを見ている。
「もしよければ、僕が“それっぽく”鑑定するよ。もちろん情報は絶対口外しない契約を結ぶし、料金もいらない。ね?」
俺は一瞬だけ危機察知スキルを起動してみたが、まったく反応しなかった。
なら、まあ……大丈夫か?
「……わかった。頼む」
こうして、まさかの「クラウス鑑定会」が始まった。
* * *
「実は、僕はこの時をずっと待っていたんだ! 君たちとスキルの話ができるこの時を!!」
遮音の魔道具を発動させた瞬間から、クラウスはやたら前のめりだ。目がマジだ。というかテンションがやばい。え? こういうキャラだったのコイツ……。
「まず、ロッタさん。僕は語りたくて、語りたくてしょうがなかった! 君のパーティ貢献度は――【87/100】! 潜在値は【95】! 支援職としては、ギルドの資料を何十年分ひっくり返しても滅多にないレベル。――これ、本気で言うけど、国宝クラス。みんな、拍手!」
勢いよく手を叩くクラウスを、全員がポカンと見ている。
「しかも、“スキルのデメリット軽減”が全員に自動付与、精神的負荷まで大幅カット。応援だけで士気・回復効率も上昇、ムードメーカーというより“パーティ全体強化装置”なんだよ! たぶん!!」
クラウスの声がどんどん早口になっていく。正直、普段の王子様スマイルが嘘みたいだ。
「いやもう、この凄さを誰かと語り合いたくてずっとムズムズしてたんだ!
普通、支援職で貢献度50超えたら一級品扱い。君、ひとりで冒険者史の常識を書き換えられるレベルだって!」
ロッタが怯え気味に「……え、怖っ……?」と小声でつぶやくが、クラウスはさらに身を乗り出してくる。
「今の冒険者界で“理想の支援職”って話になるたびに、みんな君の数字コピーしたくなると思う!
ああ、ほんと一度でいいから本部で共同研究したい。無理ならせめてパーティに1日だけでも……!」
完全にクラウスの独壇場だ。俺も、シルビアも、ブロックも、もう止める気力がない。
「……いや、俺は腹痛防止スキルがよかったな……」と、ブロックがぽつり。
「も ち ろ ん !! 腹痛なんかの予防、治療、症状軽減、一時的な痛いの痛いの飛んでけー、まで完備されている!!! はず!!」
「なるほど、プラシーボ効果による一時的な痛覚遮断まで完備されているって事ね。」
シルビアまでわけの分からない理解を示し始めた。
こいつもたまによく分からない時がある。
クラウスについては、もう何を言っているのかわからない。
それに、“たぶん”とか、“はず”ってなんだよ。こいつ実は妄想で語ってるだろ……!
「……なんか、ありがたいのかよくわかんないけど、すごく褒められてる気はする……」
ロッタがポツリと漏らす。
ようやくクラウスが「すみません、ちょっと取り乱しました……」と頭を下げた。
「でも、本当に凄いんです。一緒に冒険して詳しく解析してみたかったけど……これからも、どうかそのまま、仲間を支えてあげてください」
少しだけ静かな時間が流れて、俺たちはロッタを中心に、なんだか照れくさくなりながらも、自然と笑っていた。
* * *
「……じゃあ、次は誰にしようか?」
鑑定会は、思ったよりずっと熱く、そして妙にほのぼのと進んでいった――。




