第八話「能力と誤解」
第二章 第八話「能力と誤解」
合同依頼の夜、野営地。
魔物退治も遺跡の探索も順調で、今日も無事にテントを張れた。
夕食後、焚き火のまわりでのんびりしていると、副リーダーがふと静かに語りだした。
「……クラウスのことなんだが、そろそろ話しておこうと思ってな。最近、君たちがちょっと誤解しているようだったから」
唐突な話題に、俺もシルビアも耳を傾ける。
「能力でしか……って、どういうことですか?」
副リーダーは少し苦笑いしながら説明を続けた。
「あいつは、人を“能力”でしか見ないんだ。善良ではあるが、少しばかり世間とズレていてな……。興味を持つのも、その人のスキルや戦い方に対してだけだ。優れた能力を見ると、まるで恋に落ちたかのような勢いでアプローチする。ただし、そこに恋愛感情は一切ない」
「そんなやつ、いるんですね……」
副リーダーは苦笑を深める。
「本人はただ“あなたの強さがすごい!”と純粋に伝えたいだけなんだが……周囲はだいたい、恋愛の一目ぼれだと勘違いする。特に女性相手だとなおさらだ」
ここでシルビアが冷静な顔で、ちょっと呆れつつも苦笑いを交えて口を挟む。
「いや、それは誤解されて当然でしょ。女の子にあんなふうに“君がほしい”なんて言いきって、しかもあのイケメンっぷりと爽やかスマイル。そりゃ、みんな恋だと思っちゃうよ。正直、私だって言われたら一瞬トキめくわ」
さらに肩をすくめて続ける。
「たまにいるのよ、そういう“天然タラシ”。本人は純粋に興味や好奇心で近づいてるだけなのに、こっちは“もしかして特別なのかな?”って勝手に期待しちゃうやつ。しかもクラウスの場合、目的が“能力”だなんて――いや、むしろズルいかも」
副リーダーが「……すまない、誤解されがちな奴なんだ」と申し訳なさそうに苦笑い。
「でも、仲良くなりたいっていう気持ちは本物なんだろ? だったら案外うまくいくこともあるんじゃ……」
俺がそう言うと、シルビアはすぐにピシャリ。
「最初は上手くいっても、絶対どこかでズレが出るって。女の子って、やっぱり“気持ちをちゃんと伝え合いたい”ものよ。相手が能力とか仕事の話ばかりで盛り上がってたら、“私って女として見られてない?”ってモヤモヤするのは当たり前だもの」
副リーダーも少しだけため息をつく。
「だから結局、“何考えてるかわからない男”って噂されて終わる。あいつは、昔からそんな感じなんだ」
「じゃあ、なんで今回、ロッタにあんな勢いでアプローチしたんですか? いつもはもっと落ち着いてるイメージだったのに」
俺がそう尋ねると、副リーダーは焚き火の火をじっと見つめたまま言う。
「……よほどロッタ嬢のスキルが優秀に“見えた”んだろう」
その言い方が引っかかって、俺はさらに食い下がる。
「見えたって……もしかして、クラウスのスキルって“人の能力を見抜く”系なんですか?」
副リーダーは一瞬だけ間を置き、ふっと笑って少しだけ視線を外した。
「――さて、どうだろうな」
それ以上は答えてくれそうになかった。
俺もそれ以上は聞き出せなかった。
***
「まあ、今回は最初に恋愛ムードになってしまった時点で、“これは失敗かな”と悟っていたよ」
副リーダーが静かにそう結ぶと、シルビアがやや棘のある笑みで付け加える。
「そりゃそうよ。恋愛ごっこで盛り上がってる間に、相手が“能力観察モード”に入ってたら、女の子側は損するだけだもの。うちのロッタも今は元気そうだけど……あとから気づいて普通に落ち込むタイプだと思うけどね」
「つまり、今回も恋愛イベントにはならなかった、ってことか」
俺がぽつりと言うと、副リーダーは肩をすくめた。
「まあ、そういうことだな」
焚き火の火が静かに揺れる。
少し間が空いて、シルビアが急に目を輝かせて副リーダーに問いかけた。
「ところで副リーダー、クラウスって男性相手にも“君がほしい”って迫ったことあるの?」
副リーダーは一瞬きょとんとして、困ったように微笑む。
「……ないことも、ない」
「うわ、被害者は男女問わずか……」
シルビアが半分呆れて、半分面白がって肩をすくめる。
(やめろ、変な想像が頭に浮かぶだろ……)
俺は焚き火を見つめて、そっとため息をついた。




