第七話「副リーダーまじでやべえ」
合同依頼が始まって、もう一週間が経った。
あれ以来、俺の“危機察知”はピクリとも反応しなくなった。
ブロックの“厄落とし”も完全に鳴りを潜め、腹痛も下痢も発生ゼロ。
それどころか、依頼の方はかつてないくらい絶好調だ。
理由ははっきりしている。副リーダーがとにかく優秀すぎるからだ。
たとえば――
「敵に回り込まれる前にここで二手に分かれよう」
「ガイルは正面から引きつけて、ロッタは側面に回る。ブロックは支援優先で」
「隠れてる敵の位置はこの地形からすると……」
「休憩は水場の近く。風下に陣取れば魔物の嗅覚も抑えられる」
――もう、ためになりすぎて有料講座開いてくれってレベルの指示だ。
しかも、戦闘だけじゃない。
「攻撃のスキを作らないためには、こうやって……」
「栄養バランスは、現地の野草をこう組み合わせるといい」
「この鍋に隠し味で……」
「夜は寝袋の下に枯れ草を敷くと温度が全然違う」
……料理から旅の知恵まで、出てくる出てくる。まるで副リーダー百科事典。しかも的確。しかも毎日。
その圧倒的な指導力に、俺たちブラッドウルフ隊はただただ感心するばかり――
「なあ、あれ本当に人間なのか……」とブロックがつぶやき、
「マジで参考書にしたい……」と俺が返すと、
シルビアが「全部ノートにまとめてるから、あとで写す?」と自慢げに分厚いノートを見せてくる。
すでに小さな字でビッシリだ。
「今日の講義ポイント、もう一度お願いできますか?」
「え、またノート取るの?」「当たり前でしょ、これは宝よ」
シルビアの記録魂は今日も絶好調だ。
クラウスが「勉強熱心だね」と微笑むと、シルビアは得意気に「記録は大事」と言い切る。
副リーダーも「その意欲は素晴らしい。知識は武器だ」と軽く褒めてくれた。
そのおかげか、俺たち“ブラッドウルフ隊”は、明らかにレベルアップしていた。
正直、今やこのクラスの依頼でもまったく危なげがない。
なんだこれ、ストレスフリー。サクサク進むぞ。
(副リーダー、まじでやべえ……!)
***
ロッタの方も、特に変わった様子はない。
初日こそ「恋する乙女モード」全開だったが、最近は妙に落ち着いてきて、
飯時もクラウスの話題が出ても「へぇ~」くらいのリアクションで、楽しそうに過ごしている。
(最初は王子様とか騒いでたのに、
……さすがに毎日こうも平和&チートな環境だと現実に戻るのか?
いや、クラウスがあまりにも仕事人間過ぎて“恋愛イベント”の雰囲気ゼロなせいか……)
***
そんなある日、遺跡近くの野営地で休憩をとっていると、副リーダーがふと俺の横にやってきた。
「……ロッタのことが心配か?」
不意打ちの質問に、俺は思わず言い返す。
「し、心配なんてしてねぇよ! アイツは……あいつは元気だし!」
そこへ、ノート片手のシルビアがさりげなく割り込んでくる。
「えー、でもガイル、ちょいちょい気にしてるでしょ。“あいつ元気か?”とか“クラウスと話してないか?”とか、ほらこの前も――」
「わかったわかったストップだシルビア! いちいち記録に残すな!」
副リーダーはそれを見て、ふっと微笑んだ。
「大丈夫だ。君が心配するようなことは、まず起きない」
「……それってどういう意味ですか?」
副リーダーは一瞬だけ目を伏せ、それから少しだけ言いにくそうに続ける。
「あいつ――クラウスはな……その、恋愛とか、まるで興味がないやつなのでな」
「……はい?」
シルビアも素で驚いた声をあげる。
「うそ、あれで? 女たらしにしか見えないのに……?」
(……女たらしって言ってたの、お前だったのか……)
副リーダーは苦笑いしながら、何か言いかけてやめた。
***
(クラウスって、あのクラウスが、恋愛に興味ない……?)
――なんだこの合同依頼。
なんか俺の想像してた“修羅場イベント”と全然違う気がするんだが――
シルビアが真面目な顔でぽつりとつぶやく。
「それじゃあ……男の人が相手じゃないとダメとか?」
副リーダーが即座に首を横に振る。
「それはない。それだけはないから……」
どうやら本当に、恋愛イベントの気配はゼロらしい。
(……いや、でも――
本当にこれでいいのか? この平和っぷり、逆に怖いんだけど……)
副リーダーの横顔を見つつ、俺はモヤモヤしたまま、ため息をひとつついた。
「ガイルって俺様のわりに小心者よね。危機察知が警報してなきゃ平気平気。ほら、パンでも食べなさい」
「だなー、平和が一番だって」
……うるさい、心配なものは心配なんだよ!




