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第六話「合同依頼は飯テロ日和」

 合同依頼、初日――。


 今回の任務は“遺跡の調査と魔物の駆除”。

 本来なら冒険者らしく気を引き締めるべき朝のはずなのに、俺たちの野営地には、ブロック特製のシチューと焼きたてパンのいい匂いが立ちこめていた。

 冒険者の朝とは思えない優雅さだ。だが俺の心はそれどころじゃない。


(これが俺の“監視兼・腹痛トラップ作戦”――!)


 食卓には両パーティのメンバーが全員集合。

 ロッタの様子をしっかり見張れるし、うまくいけばクラウスも腹痛で転げ回る……はずだ。


 ここでシルビアが、俺の隣で小声でボソッとつぶやく。


「……本当にそれだけ? 凄くしょぼい上に運任せの作戦よね……」


 ブロックも、向かいで苦笑いしながら「俺の厄落とし頼みって、なんか微妙だな……」とつぶやく。


 俺は「うるさい。作戦は派手さじゃなくて実効性が大事なんだ」と小声で返すが、自分でもちょっと情けなくなってきていた。



 ***



「合同依頼の期間中は、“毎日必ず全員揃って一緒に食事をとる”ってのを、絶対条件にしてほしい!」



 この「合同飯テロ大作戦」が始まったのは、昨日の作戦会議でのことだった。



 俺の提案の後、一瞬の静寂。

 副リーダーが「……は?」と素で聞き返し、クラウスも「え?」と一瞬きょとんとする。

 ロッタは最初こそ驚いていたが、すぐ「楽しそう!」と笑顔に。サラは「ガイルさんってたまに変なこと言い始めますよね」と苦笑い。



「……なんでまた食事を?」


 副リーダーが静かに尋ねる。



「いや、やっぱり腹が減ってたら戦えないしさ。パーティ交流っていっても、結局食事で一番本音が出るもんだろ? ……それに、何かあったらすぐ分かるし」


 最後の一言は小声になったが、みんな納得いかないような顔でこちらを見る。

 クラウスだけは「うん、それは確かに理にかなっている」とニコニコしながらうなずく。

 ロッタも「楽しそう! 私、朝ごはんもちゃんと食べます!」とやる気満々だ。


「まあ、ギルド本部も“交流重視”って言ってるし……いいんじゃないか?」

 副リーダーがため息混じりに折れ、サラも「正式に条件にしますね」と書類をまとめる。


(よし、ゴリ押し成功!)


 こうして「合同飯テロ大作戦」は、表向きは“交流”、実際は“監視&腹痛トラップ”として、しれっと採用されたのだった。



 ***



 そして今日――。


「はい、どうぞ! 特製ミートシチューと焼きパンだよ!」


 ブロックが得意満面で料理を並べると、ロッタは「すごい!」「おいしそう!」と大はしゃぎ。

 クラウスも「素晴らしいね、ブロックくん」と爽やかに笑いかける。


 そして、静かに座っていた副リーダーがスプーンを手に取り、一口――


「……ッ、これは……! この複雑な香りとコク、そして野菜の食感のバランス……素晴らしい。パンの焼き具合も、外カリッ中ふわっ……シチューに浸しても崩れない絶妙さ……!」


 普段は落ち着いているのに、料理を食べた途端に副リーダーの美食解説が炸裂。

 その熱量に押され、みんな思わず手を止めて聞き入ってしまう。


「副リーダー、そんなに料理詳しかったんですか?」

 ロッタがきらきらした目で驚く。


「あ、いや……その、つい。すまない」

 副リーダーはちょっと顔を赤らめてごまかした。

 (でもクラウスまで完全に「副リーダー」呼びに染まってるな……今さら名前で呼べねぇ……)



 すると今度はブロックが「さすが副リーダー、分かってますね!」と調理ポイントを熱弁。パンは石窯焼きなんですよ」とか「シチューは隠し味に……」とか、副リーダーとブロックの美食トークが止まらない。


「この野菜の火入れ、絶妙……」「その下ごしらえがコクの秘密でして……」

 ――もはや会話は料理バトル会場。


 クラウスがたまに相槌を打とうとするが、

 二人の会話の熱量に圧倒されて、なんだかだんだん静かになっていく。


(……ん? これ、もしかして俺の妨害作戦、何もしなくても成立してるんじゃ……)


 ロッタはそんな二人のトークをきらきらと目を輝かせて聞いている。

「副リーダーとブロックって、何だか息ぴったりですね!」



 ***



 だが、俺のもうひとつの“計画”には変化が――


(にしても、今日も誰も腹を壊さないな……?)


 ブロックの【厄落とし】は、普段なら確率で“腹痛の刑”をもたらすはずだ。

 だけど、すでに夕食だが今日食事会では誰もお腹を抑える気配がない。

 むしろ全員が「おかわり!」の大合唱。クラウスまで普通に三杯目に突入してる。



 そして、もうひとつ気になることがある。


(だけど、この作戦を思いついてから、“危機察知”の警報がぴたりと止まってるんだよなあ……)


 食卓には平和な笑い声が響いている。



(いや、でも――本当にこれで大丈夫なのか?)



 俺だけがちょっとだけ、不安を残したまま、

 合同依頼の初日が終わろうとしていた。



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